第21話 帰りたい
プリシラが最前線で暴れている頃、遥と安藤率いる自衛隊員たちは現場の者たちと合流し魔物の掃討に当たっていた。プリシラが道なりに突き進み魔物を倒していってくれているため少し余裕があった。
「安藤さん! お願いします!」
「わかった下がれ! フレイムバースト!」
安藤の炎魔法がリザード系の魔物に襲いかかる。安藤は火力の高い後衛でアタッカーとして優秀だ。Bランクダンジョンの魔物だが一撃でかなりのダメージを与えることができる。
「とどめを頼む!」
「「「了解!」」」
自衛隊の前衛陣たちが前に出てリザード系の魔物にとどめを刺していく。光の粒子が数多く上がった。
「魔物の消滅を確認!」
「よし! 引き続き魔物の殲滅にあたる」
現場の指揮官が前に進もうとしたその時だった。前方が光り轟音が鳴り、雷と光線が乱反射しているのが見てとれた。
「なんだ!?」「落ち着けぇ!」「各自防御体制!」「うわぁ!」
自衛隊員たちは比較的落ち着いていたが、探索者たちは驚きパニックになっている。
「…今のは雷か?」
「私もそう見えました。この先にいるのはプリシラだけのはずですが……」
「……なら彼女の大規模な攻撃魔法だろうな。昨日も雷魔法を少しだけだが使っていたみたいだしな」
「やりすぎよプリシラ……」
「………まあ彼女のおかげでここからは少しは楽できそうだ。切り替えて魔物の掃討にあたるぞ」
遥と安藤が前方で起きた出来事の予想を話していた。そしてその予想は的中している。
切り替えて魔物の掃討に当たっていると前方からの魔物が来なくなった。誰もがあの雷が原因だとわかっていた。そして誰の仕業かもわかっていた。あの耳の尖った少女の仕業だろうと。
(プリシラはもしかしてそのまま進んでいるのかしら? だとしたら最下層のボスと戦っていることになるのだけど……)
遥もダンジョンが起こしたスタンピードの特性はわかっていた。世界中にダンジョンがあるためスタンピードを起こした事例はいくつも知っている。そして共通なのがダンジョンの入り口前には最下層ボスが鎮座しているのだ。
プリシラが一人で倒せるか心配だった。馬鹿げた力を持っているプリシラとはいえ最下層ボスは倒せないだろうと遥は予想した。ミスリルゴーレムは魔法が効きにくい上に大きく頑丈だ。しかもプリシラはスピード型でダメージを与えるには相性が悪い。
(…心配だわ。どうか無理だけはしないで)
「一条! 集中しろ!」
「すいません!」
プリシラのことを心配しながら掃討にあたる遥。集中できていないように見えたのか安藤に注意されてしまった。そこへ魔物目掛けて無数の雷が落ちた。現場にいた者たちは驚いたがすぐに持ち直した。何故ならもっと混乱している時に同じことが起きていたからだ。そして空から耳の尖った一人の少女が降りてきた。
「プリシラ!?」
「………見つけた。終わったから帰ろう」
地面に降り立つと真っ直ぐに遥の元に来たプリシラ。だが遥は状況が飲み込めずに慌てて聞き返す。
「終わったって……スタンピードが?」
「………ダンジョンの入り口前にいた最下層ボスっぽいミスリルゴーレムは倒してきた」
「え……ええ~…………安藤さん……」
「………確認すればわかるだろう。足の速い者に行かせよう」
どうしていいかわからずに安藤に投げた遥。スタンピードを起こした最下層ボスはミスリルゴーレムだと判明している。安藤はすぐに現場の指揮官に話を通し斥候系の者が二人見に行くことになった。
「彼女にも魔物の掃討に当たってもらいたいんだが……」
現場の指揮官が申し訳なさそうに遥と安藤にプリシラへの援軍を要請した。
「プリシラ。しばらくこの辺りに残っている魔物の掃討を手伝ってくれる?」
「………帰らないの?」
「帰ろうにも迎えが来てないのよ。嫌かもしれないけどお願いだから手伝って。ね?」
無表情だが嫌そうな雰囲気を出しているプリシラを察した遥は理由をつけて重ねてお願いした。
「………仕方ない。最低限でいい?」
「それでいいから手伝って!」
「………わかった」
渋々だがプリシラに手伝わせることに成功した遥。安藤と指揮官もやりとりを聞いていたが複雑そうな顔をしている。被害が多く出た状況で最低限だけというのが気になるのだ。だがプリシラの価値観は違うしやってきたことも違う。この場にいる誰よりも魔物を倒し最下層ボスまで倒して十分働いたという気分になっている。
そしてこれ以上手柄を取る気にはなれなかった。地球に来る前に手柄を取りすぎて裏切られたことよりも、軍を率いるものとしてこの場にいる者に手柄と経験をさせたかった。あれだけ暴れておいて何だが、今は比較的安全に高ランクダンジョンの魔物と戦える状況が出来上がっていたのだ。だからこそ自分が積極的に倒すことはしたくなかった。
あとは男と話したくないのと、ただ単に帰りたくてやる気がなかっただけである。むしろこれが1番の理由である。
自衛隊員たちと探索者たちに付いていくプリシラ。というより遥に付いていくプリシラ。そして魔法で遥の援護だけしていた。
「……プリシラ。私以外の援護もして」
「………必要ない」
「必要でしょ!?」
「………援護することで連携が崩れる。むしろ遥に付かないと遥が危ない。明らかに遥では手こずる相手」
「確かに私のレベルだと厳しいけど……」
「………良い実戦訓練だと思えばいい」
何処か緊張感に欠ける会話をする二人。プリシラの言う通り遥のレベルではスタンピードの魔物たちは厳しかった。高ランクダンジョンの魔物ということもあり魔物の戦闘力は高い。
「訓練って言うなら見本を見せてちょうだい!」
「………訓練にならない」
「ちょっとくらいいいでしょ!」
「………仕方ない」
またしても渋々といった感じでプリシラが前に出て高速移動から魔物へと攻撃を仕掛ける。全長5メートルから7メートルのリザード系の魔物たちを殴る蹴るで一撃の元に光の粒子へと変えていくプリシラ。挙句の果てにはゴーレムを一撃で粉砕している。周りの者たちが呆気に取られて危うく攻撃を受けそうになっていた。プリシラはある程度倒してから遥の元に戻った。
「………これでいい?」
「私が悪かったわ」
遥が謝っているとダンジョンの入り口を確認に行った二人が戻ってきて報告していた。道中魔物はおらず、ダンジョン前にもミスリルゴーレムはいなかったと指揮官に報告している。指揮官は無線で上に連絡している。
「…本当だったのね」
「………倒してきたって言った」
攻めるように遥に近づくプリシラ。
「…私が悪かったわ。ごめんなさい。さすがに一人で最下層ボスを倒してくるとは思わなかったのよ」
その後も魔物の掃討をしているとプリシラの迎えのヘリが来た。これ以上プリシラを前線に置いておく必要はないと司令部が判断したためだ。上がってくるプリシラの報告は異常そのもので広めることはないという気遣いだ。
もっとも指示したのは最高司令官である総理大臣の神田ではなく探索者協会副会長の田原菫である。司令部で一悶着あったが菫が神田を黙らせた。
迎えのヘリには物資も大量に積まれていて降ろす作業が先にあった。前線の者たちへの回復ポーションをはじめ、避難している人への食事等が多い。陸路続きなので持ってくることはできたが最低限の物資を先に運ぶことを優先したようだ。
プリシラと遥はヘリに乗り研究所へと戻った。プリシラが戻った後も掃討は続けられた。各地方からの援軍も到着し無事に魔物を掃討することに成功しスタンピードは終わりを告げた。
数多くの犠牲が出たが、Bランクのダンジョンがスタンピードを起こしたとは思えないほどの軽い被害だった。




