第17話 条件
「いや………早かったね。折笠君」
「……プリシラが運んでくれまして……うぷ」
研究所に戻ると九嶋と底橋が待っていた。予想以上の早さで戻ってきたため驚いていた。そして折笠は吐きそうだった。
「辛そうだけどもう少し耐えてくれるかな。三人とも会議室へ。もう繋がってるから」
「繋がってる?」
遥は底橋の言う繋がってると言う言葉が妙に気になった。今このタイミングで外に繋がっているということは上層部だと想像がつく。おそらく防衛大臣か陸上幕僚長だろう。出来る限りプリシラのサポートをしなければと、利用されないようにしなければという思いが遥にはある。役に立てるかわからないけど何とかしようと遥は決めた。
「プリシラ。行くわよ」
「………うん」
プリシラを連れて底橋に付いていく。
プリシラの中ではララベルがちょっかいをかけていた。
(何があるんだろうね~)
(おそらく援軍要請だろうけど………)
(スタンピードらしいからね。報酬何にする? とりあえず必要なのはお金かなぁ)
(向こう次第)
(交渉が難しいなと思ったら私に変わるんだよー)
(うん)
ララベルは基本的にプリシラに全て任せている。元々プリシラの体だからこそ自分は絶対に出しゃばらない。求められればプリシラを助けることにし、プリシラの意志を尊重する。ララベルはあくまで補助役に徹すると決めているのだ。親友の娘だからこそ自由にさせてあげたかったのだ。
会議室に着き部屋に入ると所長の田原と自衛隊の安藤一尉がいた。
「やあ。早かったね」
「プリシラが急いでくれたんです。安藤さん体は大丈夫なんですか?」
「まあ…何とかといったところだよ。軽く動く分には問題ないさ」
遥が安藤に答えて体を心配する。昨日の模擬戦でプリシラにやられて現在は治癒魔法スキルでの治療を待っている状態だったが、昨日は治癒魔法使いのMPが切れてしまいMP回復ポーションの節約で治療を受けられなかった。今日のスタンピードで治癒魔法使いも前線に行ってしまったため安藤は待機となっていた。
後衛の『炎魔道士』というジョブのため後方からの支援を願い出たが怪我がまだ治っていないためいざという時に足手まといになられては困るため待機を命令された。
「俺のことよりもこっちだ。所長。彼女が来ました」
「ああ。もう繋がってるからね。こっちへ来てちょうだい」
「プリシラ。あそこよ」
遥に催促されて65インチ型テレビの前に移動する。遥はテレビに映る二人の人物を見て驚愕した。
一人は日本探索者協会副会長の田原菫。そしてもう一人は内閣総理大臣である神田武臣だった。
「そ…総理!?」
『む、一条二尉か。彼女を連れてきて来れてありがとう。非常時ゆえいろいろと前置きや硬いことは省かせてもらおう。彼女は………エルフの王女は現状をどこまで把握している?』
「プ…プリシラですか? スタンピードが発生したということだけは伝えてあります」
『わかった。確か機械を通した日本語は彼女には通じないんだったな? 通訳をお願いしたい』
「わかりました」
プリシラに現状と話している人物がどう言った人物なのか説明する。王ではないのに国のトップということに首を傾げていたが気にしないことにしたようだ。プリシラはそれよりも板の中に人がいるということが気になっていた。技術だと言うことはわかっていたが慣れていないためどうしても気になっていたのだ。しかも画面に映っている一人は昨日会った人物だ。どうやって板の中に入ったのだろうと最初は考えてしまったくらいだ
画面越しとは言え一国のトップを前にしてもプリシラはマイペースだった。
『私の立場も説明を聞いたと思う。今スタンピードに対する総指揮を取っている神田武臣だ。あなたにはスタンピードへの対処、魔物の討伐を要請したい。本来ならばあなたに要請するのは間違いだとは思う。だが、国の危機ゆえ手段を選んでいる場合ではないのです』
「………まず、いくつか確認しなければいけない。魔物の種類は?」
『…たしかリザード系とゴーレムだったと思うが……田原。詳しく頼む』
『ったく。これだから無能は。各属性のリザードとメタルリザード系で七割、残りの三割がゴーレム系だ。ゴーレムはいろいろ種類がいるが、3メートル~6メートルくらいはある。リザード系は全長で3~7メートルクラスだ』
「………それなら対処は出来る」
『おお! やってくれるか! ではさっそく…』
「………報酬は?」
神田がさっそく自衛隊に組み込もうとしたがプリシラはそれに待ったをかけるように報酬を要求した。通訳している遥は慌てて神田を止める。すると不機嫌そうに神田は隣にいる田原に聞いた。
『探索者協会ではこれにどの程度の報酬を出す?』
『ある程度は保証するけど……歩合だろうね。この現状で先に決めるなんざまず無理だし、彼女は前線の状況を知らないんだ。今はっきりと報酬を決めるのは難しいね。国として、彼女に何を提示できるんだい?』
『ちっ………我が国の国籍と、自衛隊のポストを用意する。衣食住に困らない環境に金銭も用意しよう』
((ダメだこりゃ))
神田の言う報酬に田原夫妻は同じことを思っていた。おそらくこれでは首を縦には振らないだろうと容易に想像できた。飼い殺しにすると言っているようなものなのだから。昨日の模擬戦で観覧席に吹っ飛ばしていた意味を想像してはいなかったようだ。神田がプリシラのことを舐めていることを田原夫妻は感じ取っていた。
そして報酬の内容を遥から聞いたプリシラは答えた。
「………断る」
「ちょっ! プリシラ!?」
(だろうねぇ)
遥から返答を聞いた神田はあからさまに不機嫌そうに顔を歪めた。眉間には皺がよりプリシラを睨み付けるような目つきだ。
『…では、どういったことをお望みかな?』
「………まず、今回のスタンピードへの対処で助けてもらったことへの恩を返したことにしてもらいたい」
『あれは当然のことをしただけだ。というより内容にもよるがどのような結果だとしてもそうなるだろう』
「………もう一つ。この国における私の自由を要求する」
『!』
いつまでも籠の中の鳥でいる気はないというプリシラの要求に対し神田は焦った。これに神田は即答できずに表情を歪めて考え込んだ。
神田は上手く動かせないことに苛立っていた。自称王女とはいえ違う世界から来た者には頼る者などいない上に地球上に存在しない国家の王女。高レベルだが中身はただ助けられただけの少女だと思っていた。高レベルでジョブも地球上で確認されておらず、スキルも優秀なため利用するために自衛隊で囲い込んで所属させる気でいた。
だが、この要求を呑んでしまえばプリシラという戦力を手放すことになる。それはどうしても避けたかったが、だが現状を考えればのまざるを得なかった。昨日の模擬戦でプリシラがどれほどの戦力かもわかっている。あの戦力が加わってくれればこの現状を容易に打開できるかも知れなかった。一刻も早くプリシラを前線に投入したかった。
そして神田は苦々しい顔をしながら答えた。
『……我が国には法があり、完全な自由ということは難しい』
「………国なのだから法による秩序があるのはわかっている」
『…あなたは王女でしたね。失礼しました。その要求を呑みます。あなたを国の何らかの組織に所属させることはないと誓いましょう。我が国の一国民として迎えます。ですが、あなたほどの力で探索者になれば国からの要請も多数あることはご理解願いたい』
『国が何かしてこようとしたら私を頼ると良いですよ。口約束とは言え反故にはしないでしょう。証人もいることですし、これも録画していますから』
『…………チッ』
返答を遥から聞きプリシラはスタンピードに対処することに了承した。
『感謝します。さっそく現場へと向かっていただきたい。そのあとは現場の指揮官の指示に従ってください。一条二尉。君も戦力としてどこかに援護に回ってもらいたい』
「………わかった」
「了解しました!」
そして画面の先にいる二人は枠外に姿を消し、テレビの映像も途切れた。
「………遥」
「ん? 準備しないといけないんだけど…何?」
「………あれは本当に国を統べる者なの?」
「え?」
「………とても国を統べる器ではない。あれは参謀に置くと能力を発揮するタイプ」
「…そんなこと言われても困るわ」
「………そう。ごめんなさい」
遥があからさまに困ったように苦笑いで答えてきたためプリシラは申し訳なく思ってしまった。脳内ではララベルにちょっとだけ叱られていた。
(遥の国の王様なんだから悪く言っちゃダメだよ)
(……ごめん)
容赦のないプリシラの言葉に遥と安藤は苦笑いで、所長の田原は笑いを堪えるのでいっぱいだった。スタンピードが終わったら妻の菫に話そうなどと思っていた。
「………ところで、あれは昨日の指揮官?」
「あれって……安藤さんは昨日の模擬戦では部隊の隊長よ。今日はまだ昨日の怪我が治ってないから待機なのよ。そうですよね?」
「ああ。俺は待機だよ」
「………そう。じゃあハイヒール」
「! 傷が!」
プリシラによって安藤の傷が治療された。プリシラが治癒魔法を使えるという情報はまだなかったので田原も遥も折笠も驚いた。
「………戦力は多い方がいい。昨日の模擬戦で怪我をした人たちはまだここにいる?」
「まずは直してくれたことに感謝を。ありがとうございます。あと11人ここで待機している。治してもらえるのなら全員お願いしたいが……」
「………戦力は多い方が良いと言っている」
少しだけ語気を強めて喋るプリシラの雰囲気に呑まれた安藤は上官に急ぐように言われた気分になり慌てて返答した。
「すぐに全員に装備をつけさせて訓練場に集めます! 一条。お前も急いで準備を」
「了解しました。折笠さん。プリシラを訓練場までお願いします」
「わかったわ。プリシラ。こっちよ」
急いで部屋を退出する遥と安藤。対して折笠はいつものペースでプリシラと一緒に会議室を退出した。




