03.雨の日
雨が降ってきた。
◇
最初は小さな粒でポツポツと降っていた雨は、やがて粒が大きくなり、すぐに本降りの雨に変わった。
外回りの蜂たちが急いで帰って来る。急な雨だったから、帰れずにどこかで雨宿りしている子達もいるだろう。
内勤だった私は、外に出て巣箱の様子を確認する。巣箱にはプラスチックの波板の屋根が付いていて、周りに庇があるから、雨の当たらない庇の下を飛ぶ。
巣箱の外壁には、蟻たちがいた。雨宿りをしているのだ。巣の中には入れないけど、外壁での雨宿りは黙認する。地上で暮らす小さな生き物には、雨は脅威だ。大雨が降ると、蟻たちはこうして高い所に登り、雨が止むまでじっとしている。普段は無作法で騒がしい蟻たちが、大きいのも、小さいのも、みんな仲良く、巣箱の板につかまって、雨が止むのを静かに待っている。
確認したら、巣に戻る。
◇
「外は雨かねー。」
女王が問いかける。
「そうよ。すごい大雨。」
「そうかー……。」
女王が溜息をつく。
「雨が降ったから、餌場の砂糖引き揚げられちゃった。」
見回りから戻ったヘラが女王に報告する。
「あれなんでかねー。」
「雨が当たって溶けるからじゃない?」
「そうかー、残念ねー。」
◇
「昔話でもしようかねー。」
「してしてー。」
私達働き蜂の寿命は、約一か月。だから、そもそも「昔」と言うものがない。でも、女王は一年ちょっと生きるから、私たちの知らない「昔」を知っている。その女王の昔話を聞くのは、私達の楽しみのひとつだ。
「ジラー、ヘラー。」
「うん。」「はい。」
「あんたたちは十月生まれだったわねー。」
「そうよ。」「そうです。」
「十月生まれの蜂はね。悪い夢を見るの。」
「え?」
◇
十月生まれの蜂は、悪い夢を見る。
初めて聞く話だった。
「私も十月生まれだったからねー。見たのよ。悪い夢を。」
「あんた達はねー、帰る家を無くすの。」
ちょっと待ってなんてこと。
「でも心配いらないさー。『悪い夢』はすぐ終わるから。あんた達はそれまで生き残ればいいの。『悪い夢』が終わったら、あんた達は自由よ。」
「自由って何?」
「何でもしていいし、何もしなくてもいい、ってことさー。」
何でもしていい?
何もしなくてもいい?
どういう意味だろう?
「幼虫や女王のお世話はしなくていいの?」
「そうさー。」
ますます分からない。
◇
私が考えてる間に、女王は寝ちゃった。
本当に女王は。
◇
雨が弱くなって、空が明るくなって来た。
もうすぐ雨があがる。
蟻の異種合同雨宿り、昔実際に見たことがあります。大学生だった頃、何かの集会に参加したんですが、あいにくの雨。終わってからズボンを見ると、中に大量の蟻が雨宿りしてました。良く見ると大きさが色々で、大きいのから小さいのまで五種類くらいいたと思います。みんな仲良く、大人しく雨宿りしてました。見つけた時は雨が上がっていたので、もちろん全員強制退去してもらいましたけど。




