第四十四話 ありがとうフリオさん
──翌朝。
俺は、いつもと同じように、農場で汗をかいていた。空はどんより曇っていて、まるで俺の懐事情を反映しているかのようだった。いや、反映どころか完全に一致だな。
俺の全財産である20万メソは、一瞬のうちにビアンカの懐へ消え、俺の貯金はゼロになった。
けどな。俺は、まだ諦めてない。
いつか自由市民になって、トレーナーになって、拳闘士を育てて、“ソンブラスの名伯楽”なんて呼ばれる日を夢見てんだ。
たとえそれが、何十年先になるとしても……俺はやる。
そう決意を新たに、畑で果物を収穫していたとき──
「コウタくん、ちょっと来なさい」
と、後ろから渋い声が飛んできた。
見るとそこには、ふくよかなシルエットと福の神みたいな笑顔の持ち主、農場主フリオさん。俺が働くこの農場の大ボスだ。
俺は一瞬で察した。
──あれ、なんかやらかした?
心当たりはないけど、俺の人生って大体そういうもんだった。
とりあえず覚悟を決めて、フリオさんの執務室に向かう。
重厚な木製の扉の前に立ち、恐る恐る声をかける。
「コ、コウタです……」
「どうぞ」
中から返ってきたのは、相変わらずの優しげな声。
おそるおそるドアを開けると──
フリオさんはいつものにこやかな顔で椅子に座っていた。部屋には木目のきれいな棚、書きかけの帳簿、香ばしいハーブティーの香りが漂っている。
「確認ですが、コウタくんは……本当に、自由市民になりたいんですか?」
あの優しい声で、ずばっと核心を突かれた。
「……はい。なりたいです」
「そうですか。では、奴隷から解放してあげましょう」
……は?
「へ? でもお金が……」
「お金なら私が建替えておきますから、あとから分割で返してください」
「で、でも……」
「ビアンカに聞きましたよ。コウタくんには拳闘を教える才能があると」
「ビアンカさんをご存じなんですか?」
「私はこれでも、ソンブラスではそれなりの人脈を持っています。ソンブラス内の話題は、だいたい耳に入ってきますよ。あなたが育てた拳闘士が、今年一番観客を熱狂させた試合をしたことも、ね」
フリオさんが、イタズラっぽく笑った。
……その顔、反則でしょ。なんでそんなに優しいの? バグか?
「でも……奴隷解放税を建て替えるなんて、普通は……」
「普通はしません。ですが、コウタくんだから提案するんです」
「え……」
「あなたの誠実な働きぶりも、真面目な性格も、他人のために全力を尽くせるところも、私はちゃんと見てきました。あなたなら、ちゃんと返してくれる。そう確信しています」
「……」
「それに、あなたは若い。そして、拳闘を教える才能がある。ならば……自分の生きたいように、生きなさい」
その言葉を聞いた瞬間──
涙が、止まらなくなった。
もう、ボロッボロ。声も出ない。鼻も垂れるし、顔グシャグシャ。
なんでこんなに優しいんだよフリオさん。もう、第二の親だよアンタ。
こうして、俺は奴隷という身分から解放された。
自由市民として、自由に職業を選択できる権利を持ったのだ。
その足で俺は、急いで荷物をまとめた。
ビアンカ拳闘団はすでにソンブラスを出発している。だが、いまから行けば、すぐに追いつけるだろう。
そしてビアンカに事情を話して、雇ってもらおう。俺はまだ夢を諦めちゃいない。
ありがとう、フリオさん。
絶対に後悔させません。
ぜったい、返済します。
そして、ぜったい……ビアンカ拳闘団で俺は、世界一優秀なトレーナーになります!
【第一部 完】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!心から感謝いたします。
【第一部 完】としましたが、今のところ第二部以降の執筆は全くの未定です。
そんな状況で恐縮なのですが、もし少しでも
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「期待できそう!」
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モチベーションが上がって続きを書きたくなります。
何とぞ、よろしくお願いいたします。




