第三十話 チャベスに会ってみたら即わかりました。こいつ絶対ヤバいやつです
その日の夕方、俺は一人で街の中心部にある広場へ向かっていた。目的はもちろん、ペペが言っていた「賭け拳闘の胴元」に会うためだ。奴隷解放税1000万メソを稼ぐためには、もうこいつにすがるしかないって判断だった。
広場へ到着すると、近くにいたスタッフっぽい人に胴元の居場所を聞いた。すぐに教えてくれた。
やはりこの国、セキュリティがガバガバだ。
教えてもらったのは、拳闘用の大テントのすぐ隣にある、小さなボロい布テント。にじみ出る怪しさと、近寄りがたいオーラ。中からは何やら香辛料と薬草を混ぜたような、鼻をツンと刺す匂いが漂ってくる。
近づくだけで、背筋がゾワッとした。
でも、ここしかない。俺は意を決して、テントの幕をめくった。
すると──
「……っ!!」
すごかった。いろんな意味で、すごかった。
テントの奥、木製の古びた椅子にふんぞり返って座っている男。
異様に長くて黒い一本の三つ編みを腰のあたりまでたらし、顔には不気味な模様の刺青。
顔は細く、目つきは鋭く、まるで獲物を睨む猛禽類。
そして服装も派手。深紅の衣に黒い布靴。
その男――チャベスは、足を組んで俺を睨んできた。
「おまえ誰だ……俺に何か用があるのか?」
……こわッッ!!
声が低い! そしてよく通る! 声だけでビンタされたみたいになったぞ!
これが、チャベス……! こいつ、絶対ヤバいやつだ……!
「お、お、お、俺と賭けをしてくれないか?」
何とか声を絞り出したけど、緊張しすぎて上手くしゃべれなかった。俺の体と心は、全力でこの場所から逃げたがっていた。
「賭け? それなら試合の日に窓口で賭け券を買え」
冷たっ!!
そして声の迫力がすごい。気持ちが折れそうになる。
でも、俺は折れない。俺には引き下がれない理由がある。
「ち、ちがうんだ……。もっとこう……ハイレートというか……ガチなやつがしたくて……」
「……ハイレートだと?」
チャベスが少しだけ眉を動かした。その目が俺を値踏みするようにギラつく。
「ここに20万メソある。これを……今度の試合の日に1000万メソにしたい」
「フン……1000万メソにねぇ……」
チャベスはしばらく沈黙した。腕を組み、あごをなでている。
考えている――いや、考えてるフリか。絶対ポーズだろそれ。目がうっすら笑ってんだよ。
そして──
「いいだろう」
「ホントか!?」
え?! いけるのか!? まさかのOKか!?
「──あぁ。来月の試合の全ての勝敗と、試合時間を当てられたら、その金を100倍にしてやるよ」
「……なっ!?」
う、うそだろ!? そんなの当てられるかぁぁぁぁ!!!
20試合の勝敗だけでもヤバいのに、試合時間!? 何分何秒で終わるかまで予想しろってことか!? 無理ゲーじゃねえか!
「ハッ。それがイヤなら、大人しくチマチマ遊ぶことだ」
チャベスが冷笑を浮かべながら吐き捨てる。その口元が、人を小バカにしたような形をしていてイラッとする。
「ぐぐぅ……でも、俺にはこれに賭けるしか……!」
「やめとけやめとけ。勝てる見込みのない勝負は、やるだけ無駄だ」
いや、なんでお前が正論言ってくるんだよ!
ギャンブルの胴元が、ギャンブルをやめとけってどういうこと!? 人格者かよ!!
──でも、俺は知っている。
この一歩を踏み出さなきゃ、何も変わらないことを。
俺はセシリアとも、カリナとも、別れたくないんだよ!




