72.それぞれのやる事
「それじゃあ、れいちゃんまたね♡」
今日はマーリンが春魏国へ帰る日。
わたし達は玄関でマーリンを見送っているところだ。
「マーリン!本当に長い間ありがとう!!また遊びに行くわね!」
わたしはマーリンにぎゅっと抱き着いた。
マーリンも優しく抱きしめてくれる。
本当に今回はマーリンに助けられっぱなしだった。
彼女がないなかったら大変なことになっていただろう。
「いつでも遊びにきてちょうだい♡またリョクチャ事業の資料送るわね~」
「マーリンさん!気を付けて帰ってくださいね!!」
「ありがとう~♡りょうたん♡また写真が出来上がったら送るわね~」
「え…。僕は別に…」
黒綾殿とマーリンも仲良しになっていた。
それにしても…。写真楽しみだわ!!
一通り別れ惜しんだ後で、颯爽とマーリンが帰って行った。
これからが大変だった。わたしがいない間にたまった仕事をしつつ
リョクチャ事業も進めていかないといけない。
やる事たくさんだわ!!
今日は黒綾殿と書類の整理をして
その後リョクチャ事業の打ち合わせをする予定だった。
雷覇は一日中会議で、抜けれるタイミングはお昼ご飯の時くらいだった。
「さぁ!さっさと書類の整理しちゃいましょ!」
「はい!怜彬殿」
今日もニコニコしながら笑っている黒綾殿。
彼にも今回の事件ではすごく助けてもらった。
良く気が付いてわたしのフォローをしてくれている。
「書式を統一してから、スムーズに仕事が進みますね!振り分けが楽です」
「そうね。見るところが決まっていると楽よね~」
「あっ。怜彬殿ここの計算なんですが、ちょっとおかしいと思うんです」
「えっ?本当?」
黒綾殿は本当に頭がいい!
こういった些細なミスもすぐに気が付いてくれる。
一度教えたらあとは自分でどんどん仕事もこなしてくれるから
本当に助かっている。
「あっ。ほんとうだわ。これは再提出ね!」
「はい!わかりました」
「ムツリにちょっとお願いがあるんだけど…」
「何でしょうか?怜彬様」
資料に目を通しながらわたしはムツリを呼び出した。
「わたしね、もうちょっとしたら一度、秋唐国へ戻ろうと思うの」
「さようでございますか…。また忙しくなりますね」
「だから、後継者ってわけじゃないけど、仕事の引継ぎをお願いできる人を何人か探して欲しくて」
「なるほど!怜彬様から教えて頂けるなら、仕事の効率も良くなりますね!」
「そうでしょ?あとこれが引継ぎにかかる時間とスケジュールよ」
そう言ってわたしはムツリに資料を手渡した。
わたしがいなくなった後、誰でも仕事ができるようにしておいた方がいいだろう。
あとは黒綾殿がいれば大抵の事はこなせるはずだ。
「素晴らしい…。さすがは怜彬様です。人の手配はお任せください。さっそく今日中に集めます」
「よろしくね!ムツリ!」
「怜彬殿…。僕も一緒に秋唐国へ行ってはいけないでしょうか?」
「え…?黒綾殿も?」
遠慮がちに黒綾殿が尋ねてきた。
「はい!秋唐国へ行ったことないですし、見分を広めるためにも行ってみたくて…」
「なるほどね~。わたしはいいと思うけど…。夏陽国的にはどうなのかしら?ムツリどう思う?」
「そうですね…。研修の為という事であれば問題ないと存じます」
「そっか!じゃあ、雷覇殿に報告して一緒に行きましょう!」
「はい!ありがとうございます!」
宝石が散りばめらたくらいの眩しい笑顔で黒綾殿が返事した。
きゃーん!!すごくかわいいわ!!
それに…。夢の怜秋と黒綾殿の
ダブル弟!!が実現するのね!!ヤバい!マーリンに行って撮影隊に来てもらおうかしら…。
「じゃあ、黒綾殿の仕事も引継ぎできるようにしないとね!」
「そうですね!僕のやっていることを一覧にして、スケジュール組みますね!」
黒綾殿と相談した結果、2週間後に秋唐国へ行く事になった。
2か月ぶりの帰国だ。とっても楽しみだった。
怜秋の顔も久しぶりに見れる。手紙では元気そうにしていたけど
やっぱり直接あって話がしたい…。
それにリョクチャ事業の準備も秋唐国で進めたかった。
そうこうしているうちに、あっという間にお昼になった。
今は中庭で雷覇と昼食を食べている。
最近の習慣だった。今日は忙しかったから手作りのご飯じゃないけど
雷覇と一緒に食べれるのは嬉しい。
「雷覇殿。2週間後に秋唐国へ行こうと思うんです」
「…。そうか。しばらく帰ってないものな。ゆっくりしてくるといい」
「本当に?帰っていいの?」
わたしはびっくりして、聞き返してしまった。
絶対に反対されると思っていたのに…。
「ああ。問題ない。俺もちょうどその頃にやらないといけない事ができたからな…」
「そうなんだ…。ありがとう!雷覇殿」
うん。うん。かなりの進歩だわ!!
雷覇も大人になってきたのね~。
「あっ。あとね黒綾殿も一緒に秋唐国へ行く事にしたの!」
「えっ…?!黒綾殿も?」
すっごい驚いた顔で雷覇に見つめられた。
そんなに驚くことかしら…。
「見聞を広めたいんですって。秋唐国には行った事ないみたいなの…だめ?」
「う…。だめ…ではないが…」
雷覇の歯切れが悪い。
奥歯に何か詰まっているのかしら?
「わたしも怜秋に会わせたいと思っていたし、あと、リョクチャ事業の事も向こうで進めるつもりだったから、黒綾殿が来てくれればちょうどいいかなって!」
「そうか…。わかった。どれくらい滞在するつもりなんだ?」
「うーん。そうね…。2週間くらいは必要だと思うわ!」
「そっ…そんなにか…」
どんどん、空気が重くなる雷覇。
やっぱり、わたしが2週間もいなくなるのは嫌なのかしら?
表情も浮かない顔をしている。
「向こうでリョクチャの試飲会をしたいと思っているの。その準備とかあるから最低でもそれくらいは必要だわ」
「…。わかった」
「雷覇殿…。ありがとう!とっても嬉しい!今の仕事はちゃんと引き継いでいくね!」
「ああ…。いいんだ。リョクチャ事業頑張ってな。怜彬」
「うん!頑張る!雷覇殿にも毎日、手紙書くわね!」
「ああ。ありがとう!俺も毎日書くよ…怜彬」
すごーい!!こんなにスムーズに許可が出るとは思ってもみなかった。
雷覇の事だから、なんだかんだ理由をつけてついてくるって
言うかと思っていたのに…。
やっぱり、あの事件がいい方向に向いているのね…。
「それで…。怜彬。俺も言わないといけないことがある」
「…?うん。なあに?」
すごく神妙な顔つきになって雷覇が話す。
なんだろ…。ちょっと怖い…。わたしはゴクリと生唾を飲んだ。
「実はな…。見合いをすることになったんだ…」
「えっ?お見合い?雷覇殿が?」
思っても見ない報告だった。
だからさっきから、歯切れが悪かったのね…。
後ろめたいって思っているのかしら?
「そうなんだ!誰とお見合いするの?」
「誰と…というかだな…」
「雷覇殿…。どうしたの?大丈夫?」
「数十人、貴族の令嬢を集めてやるらしんだ…。俺の花嫁候補を見つけると言って…」
「そうなんだ!!わたしが前にやったみたいなやつね~」
わたしが炎覇と出会ったきっかけも、お相手探しという名目で開催された夜会だった。
おそらく雷覇もそれと同じような事をするのだろう…。
独身でいるって、そういった話が多いのよね~。
「すまない…。怜彬。俺はかなり反対したんだが、婚約期間が延長になって、不安になった年嵩連中が言い出してな…」
「あー…。なるほどね~。うん!いんじゃない?」
「えっ!!いいのか?」
さっきよりもびっくりした顔をする雷覇。
だって…。そういった類のものって、あるあるじゃない?
それに雷覇なら、浮気の心配もないだろうし。
「期間延長してもらっているし、お見合いくらいなら別にいいんじゃない?一度開催すれば、言い出した人達も納得するだろうし」
「それは…。そうなんだが。怜彬は何とも思わないのか?」
「とくには…。えっ?ここって何か思うところなの?」
「いや…。怜彬が嫌じゃないならいいんだ。ありがとう…」
釈然としない様子の雷覇。
酷く落ち込んだ様子でご飯を食べだした。
わたしなんか変なこと言ったかしら?
「雷覇殿…。なにか気になる事でもあるの?」
「気になるというか…。気にして欲しかったというか…」
もごもごしながら雷覇が言う。
こんなに歯切れが悪いのも珍しい。
「わたし雷覇殿のことを信頼しているもの。お見合いをしても、他の人と結婚したりしないでしょう?」
「もちろんだ!!怜彬以外は考えられない!」
「ふふふ。だったら、何も気にすることなんてないわ!ちゃんと話してくれてありがとう」
「怜彬…。そんなに俺を信頼してくれているんだな…」
目をウルウルさせながら雷覇が手を握ってきた。
信頼というか…。浮気する雷覇を想像できないというか…。
誰が言い寄ってきてもわたしの話を熱く語って、相手を怒らせそうだし…。
まぁ。それは言わないでおこう!
「ええ。とっても信頼しているわ!むしろごめんね。わたしが延長してって言ったから…」
わたしも雷覇の手を握り返す。
「いいんだ!仕事だと思ってやってくるよ」
「ありがとう…。雷覇殿も頑張ってね」
そう言って再び料理を食べだした。
もう雷覇の機嫌はなおっていた。単純よね~。雷覇って。
もしかして…。雷覇は焼きもちをやいて欲しかったのかしら…。
食べている時にふとそんな事を思った。
だから、わたしが気にしないって言ったら、しょんぼりしたのね。
ふふふ。かわいいわね。雷覇。
今日はとてもいい子でかわいいから、後で膝枕してあげよう!!
わたしは食べ終わった後、雷覇に膝枕をしてあげた。
雷覇はものすごく喜んでいた。
わたしはまだ、この時知らなかった。
雷覇のお見合いがまさかあんな事になるなんて…。
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