第62話 おっさんズと異世界の海軍 その4
報告を聞いて秋津も大英も困惑している。
「大型空母9隻? 輸送船千隻? どういう事だ、み使い100人いや一万人とか呼んだのか?」
「これは、現物? いや、こんな大艦隊が消えたなんて話は聞かないが……」
「じゃ未来の艦隊か?」
「まさか、こんな規模の艦隊なんて今後出現するはず無い」
「だよな」
そこで、大英はアキエルに問う。
「タイムパラドックスについて、天界の見解はどうなってます?」
「と言うと?」
「いわゆる『親殺しのパラドックス』です」
「うん? どういう話?」
アキエルの知識に「親殺しのパラドックス」は無いようだ。
これは天界が知る物理学では「親殺しのパラドックス」が発生しない事を意味する。
大英はタイムトラベラーが自分の親(または祖父母)を殺した場合、自身が存在しなくなるという事に付いてアキエルに説明した。
「それが何か問題になるの?」
アキエルは「ちょっと何を言ってるか判らない」という顔だ。
「え、これはおかしいですよね。 親がいなければ生まれないから、タイムトラベルして殺す事も出来ない」
「当然じゃない」
「でも、そうしたら殺されたはずの人が生きてるから、タイムトラベラーが生まれて、また……」
「そうなるわよね。 当然じゃないの? 何もおかしな事は無いわよ」
「えーと、おかしくないのですか」
「おかしくないでしょ」
「うーん、何か壊れた蛍光灯みたいな事になる気がするのだが……」
要は、歴史上タイムトラベラーの親が死んでる生きてるが交互に繰り返され、蛍光灯が点滅を繰り返しているような状態だ。
まぁ、蛍光灯を知らないアキエルには通じない例えなのだが。
暫し考えていたアキエルは何かを思いついたようだ。
「あー、もしかして、歴史改変の影響が瞬時に未来に届くと思ってた?」
「え?」
「その様子だと思ってるみたいね」
「違うのですか?」
「もちろん違うわ。 影響は時間の進み方と同じ速度で未来に届くのよ」
「というと?」
「話を単純にしましょう。 タイムトラベラーが5分前に戻って、自分自身を殺すというケースで説明するわね」
「はい」
アキエルは空間にホワイトボード様のものを出して、説明を始める。
「ここが現在。 時間は左から右に進むと思ってね」
「ここが5分前。 ここでタイムトラベラーが死亡。 そして殺したタイムトラベラーは元の時間に戻る」
「この死亡したという結果が『現在』に届くまで5分かかる」
「ところが、その5分間に、出発したタイムトラベラーの時間も5分経過する」
「『殺された』という影響は、永遠に『追いつかない』」
「そして、5分おきに死んでる状態と生きてる状態が交互に現れる」
「どう? 判った?」
大英は「判りました」と答え、一緒に話を聞いていた秋津やゴートたちは「判らん」と答えた。
秋津は根本的な事を質問する。
「『今』って唯一のものじゃないのか?」
「この説明だと無限に『今』がありそうなんだが……」
「あー、そういう理解かぁ。 時間旅行が出来るって事は、行った先にも元いた『時』にも世界が存在しているって事は判るわよね」
「そ、そうなのか?」
「時間旅行が、道を車で進むような物なら、車のある場所にしか『世界』が存在しないかも知れないけど、秋津君がいなくなった21世紀の世界が『消滅』しているなんて事は無い訳よね」
「そ、そうだな」
「つまり、世界はずっと続いてる。 なら、変化は『有限の速度で伝搬する』でしょ」
「あー、つまり、川が流れるようなもんか」
「そうね。 その理解でも良いと思う」
川に杭を打ち込んで水の流れに渦や乱れを作ったとする。
それが「既に流れ去った下流」に影響を及ぼす事は無いですね。
渦や乱れは、杭を打ち込んだ時以降にしか存在せず、下流に影響が及ぶのは、その渦や乱れが時間が経過して流れと共に進んだ範囲に限られるのです。
つまり、水の流れる速度を超えて、一瞬にして下流に渦を作ることは無いわけ。
そして、この事はある可能性を示唆している。
「という事は、本物の大艦隊……規模と内容から見て第二次大戦中のアメリカの空母機動艦隊。 それも、大量の輸送船を引き連れているって事は、レイテに迫ったハルゼーとマッカーサーの艦隊って可能性があるのか」
そう、大英達の知る歴史では、ハルゼー艦隊が「失踪した」なんて事件は発生していない。
だが、知ってる歴史に無い事は、「その事実が無い」事の証明にはならない。
「そうね。 大英君達の世界から召喚されたのなら、いずれ『失踪事件』が歴史に刻まれるのでしょうね」
「うん? それってどういう事だ」
大英は気にしていないようだが、秋津は引っかかったらしい。
「時間移動しての召喚って、同じ世界の過去未来とは限らないのよ」
「ああ、そういう事か」
秋津は以前大英が月や木星を見て言っていた事を思い出した。
「そうか、違う世界かもしれないんだな」
「違わないかもしれないけどね」
こうして、状況について認識を確認した大英達であった。
*****
飛行を続けるSR-71Aは、第二目標へと接近していた。
そして、今度の目標は、艦隊に接近する航空機の存在を認識していた。
「これは……まさか、こんなものがあるのか!」
「どうした、ゼロファイターでも飛んできたか?」
一応艦隊のクルーには、これから戦う相手が日本人が率いる近代兵器を持った軍勢という情報は共有されていた。
ただし、どんな装備なのかまでは情報が無いため、こんなジョークになったようだ。
「それどころじゃありませんよ、こんな航空機があるのですか?」
「うん? どんな奴なんだ?」
「不明高速高高度目標を確認。 単機、東方101度、距離115海里、高度7万フィート以上、速度マッハ3以上です!」
「なんだと! そんな……」
「こんな航空機が日本軍にあるのですか?」
「日本人が率いる」を「日本軍」と思い込んでいたため、彼らは想定と違う相手と対峙している事に気づく。
すると、別の機器をチェックしていた兵が会話に入って来た。
「失礼します! その要目、空軍のSR-71かソ連のMiG-25では無いでしょうか」
「SR-71? あ、聞いた事があるぞ、確かにマッハ3を出せる世界唯一の機体だったな」
「いえ、MiG-25もマッハ3で飛び、SR-71を迎撃できるという記事を見た事があります」
「あー、そうだったな。 思い出したぞ、だが戦闘機が単独で飛ばないのではないか」
「MiG-25は偵察任務も実施すると聞いております」
「そうか、ならばその可能性もあるな。 よし、それで上に報告しよう」
日本軍相手の楽なミッションとか思っていたら、最新鋭機が現れた事で艦隊は大騒ぎとなる。
「馬鹿な! ジャップの軍団に空軍の最新鋭機や、ソ連のまだ部隊配備も確認されていない機体があるのか」
「提督、両方ではありません。 まだどちらであるかは判っておりません」
「どっちでも同じだ。 キティに連絡だ! すぐに迎撃機を出せ! 艦長! 対空ミサイル射撃準備だ!」
「はっ! タロス発射準備にかかります!」
ミサイル巡洋艦シカゴは、その搭載する長距離対空ミサイル「タロス」の発射準備を始める。
そして、空母キティホークからは、F-4BとE-2Aが緊急発進に取り掛かる。
ハルゼー艦隊には認識すらされずに任務を済ませたSR-71Aだが、今度の相手は同世代。
だが、SR-71Aの乗員はまだその事実を知らない。
用語集
・こんな規模の艦隊なんて今後出現するはず無い
千年後の宇宙艦隊とか言うならアリかも知れませんが、そんなブツを見間違う事は無いでしょうねぇ。
・月や木星を見て言っていた事を思い出した。
「第9話 おっさんズ、世界の理を知る その3」にて行われた、以下のやり取り。
>「ここに10万年前と5万年前、そして現在の北斗七星が描かれている。
>ここまで形は崩れていないけど、そうさな、3万年前なら今の位置と大体合いそうだ」
>
>「それじゃみ使い様は3万年後の世界から来たんですか?」
>
>「そんな馬鹿な、それなんてムーの世界だよ」
>
>「うーん、ちょっと違うかな。
>いや、確かにムーは超古代文明だが……って、そういう意味ではないな。
>とりあえず、うちらの過去とは限らん。だって神なんて実在せんだろ」
>
>「いや、滅んだのかも」
>
>「ま、そうかもしんないけど、パラレルワールドと考えたほうが自然かな。
>そもそもここには魔法あるし」
>
>「なるほどなぁ」
>
>「うちらの居た世界はこっちより3万年時計が進んでいるというだけで、同じ世界じゃないから、直接の過去未来の関係ではないと思うよ」
2025-11-24 誤字修正
土井 → 秋津
なんで土井やねん




