第62話 おっさんズと異世界の海軍 その3
航空基地では黒い大型の機体が発進しようとしている。
「まさかコレを飛ばす日が来ようとはな」
大英は召喚したての偵察機「SR-71A」を見ながらつぶやく。
このスブリサを含む土地は、実は西側を経由して北西の大陸と繋がっている。
王国の領域は半島状の土地に広がっている形だ。
もっとも、その幅は北海道の幅より大きいので、半島というイメージはあまりない。
アキエルからの連絡によると、この地の東と北西の海洋に、膨大な魔力行使によって何かが現れたらしいという
数刻前、天界。
アキエルの元に報告を持った天使がやって来る。
「それで、観測結果は出た?」
「それが、『何もない』のです」
「何もない?」
「はい、当該地域一帯の衛星観測結果は『ただの海』なのです」
「それは、何も海面に無いって事?」
「結果だけ見ればそうなのですが、それは『おかしい』のです」
「と言うと?」
「観測範囲内には島がいくつかあるのですが、それらがありません。 また、大型海洋生物の航跡や、鳥の群れが飛行する様子も見られません」
「あー、そうなんだ。 という事は……」
「偽装されているものと思われますね」
「なるほどねぇ。 こりゃ直接見に行ってもらうしか無いか」
「それは可能なのですか?」
「無理だとしても、なんとかして行ってもらうわ。 偽装してるって事は、魔法探知も阻害されるかもしれないし」
*****
そんな訳でアキエル達もその正体は掴めていないので、偵察機を出そうという事になったのだ。
海に現れたという事は、巨大海洋生物(怪獣)か、艦隊、もしくは以前のような円盤が現れた事を想定し、高高度かつ高速で探れる偵察機を派遣する事にしたのである。
SR-71Aは本来場所が判っている動かない戦略目標を対象とする戦略偵察機だが、固定観念には捕らわれず、高速索敵機として出す事にしたのだ。
……のだが。
「おいおい、なんか漏れてるぞ」
秋津はSR-71Aの機体から滴る雫と、それによって汚れた地面を見つけた。
大英は直ぐに反応する。
「あー、こいつ地上だと燃料タンクの隙間から漏れると聞いたぞ」
「なんじゃそりゃ」
「飛んでるときは熱くなって隙間が塞がる仕様」
「あー、レールと同じか」
「そういう事」
「つーか、コレで大丈夫なのか? ちょっと漏れが多い気がするが……」
「そうなのかな」
そこへ、機体を降りてきた搭乗員が来て、大英達に挨拶した。
宇宙服のようなスーツのため、動きが遅く、ようやくやって来た形だ。
「閣下、お話したいことがあります」
「おお、どうぞ」
「このまま本機を置いておくと、燃料が不足し、作戦行動に差し支えます」
「え? なぜ?」
SR-71Aの搭乗員は以下の説明を行った。 いずれも素人である大英達には寝耳に水な事であった。
・SR-71Aの通常の運用では、燃料満タンの状態で離陸する事は無い
満タンでは燃料が多いため、漏出量も多くなり、離陸するまでに失われる量は、航続距離に無視できないレベルで悪影響を及ぼす。
・通常は離陸できる程度の燃料しか搭載せず、離陸後に専用の給油機から燃料を空中給油する
何も知らない大英は、いつも通り燃料満タンで召喚している。
さらに他にも問題が見つかる。
・エンジン始動には専用の「AG330 始動機」が必要
マッカーサーに確認したところ、この基地には存在しない機器であった。
・エンジンオイルは常温で固体
これをオイルとして機能するように加熱するが、それには24時間かかる
そして、当然の事ながら「専用の給油機」など、ここには無い。
説明を聞いた大英も秋津も頭を抱える。
そしてこの話は、一緒にいたアキエルも聞いていた。
「しょうがないわね。 少し時間をくれる? 魔法で解決するわ」
「出来るんですか」
「まぁ、やってみるわ」
そう言うと、椅子をもらって座り、目の前の空間にバーチャルコンソールを出し、何やら操作を始める。
と言っても、別にキーボードを叩くとか、そういった様子はない。
傍目にはただ座って目を怪しく光らせながらボーっとしているように見えるが、コンソール画面には謎の記号や文字。図形がものすごい勢いで現れては消えてを繰り返している。
「まずは、漏出抑止フィールドを設計・構築、適応魔法行使」
「続いて始動用装置の原理解析、設計、製造」
「オイル加熱機構設計、実行魔法構築・行使」
3分後には燃料漏出が止まり、15分後には謎の装置が出現。 そして20分後にはオイルの加熱が終わっていた。
オイルの加熱だけで見れば、24時間を5分に短縮した事になる。
そして、謎の装置はバーチャル試験では一発で適合し、SR-71Aのエンジン始動が可能と判定された。
「これでOKっと、いつでも出せる筈よ」
秋津もこのスピードと成果に感心している。
「おー流石アキエルさん。 いつもやってくれると助かるんだが」
「今回は特別。 向こうも魔法で隠蔽かけてるから、これくらいの助力はやってもいいでしょう」
そんな訳で、無事運用可能になったSR-71Aは、離陸していった。
そしてすぐにもう1機離陸していく。
それはF-15DJ。
SR-71Aと航空基地の間を飛んで、通信の中継を試みる作戦。
基本的には偵察結果は持ち帰った写真を分析するのだけど、速報として通信でも簡単な報告をもらう想定。
最初の目標は東方海上。 偵察後、そのまま北西へと向かう。
こうして、偵察作戦が始まった。
*****
太平洋を西へと向かう艦隊。
旗艦ニュージャージーの搭載する最新式レーダーが不可解な反応を捕らえた。
「何だこれは……」
「どうした、報告は正確にしろ」
「はっ、南西方向232度45海里に輝点確認。 されど、継続せす、現れたり消えたりしています」
「故障ではないのか?」
「確認お願いします」
他の兵がチェックを始める。
「対象の高度はどうなっている」
「高度判定不能。 反射強度小さい。 航空機の可能性小」
「気象雑音か……」
「対象速度算出、……これは、航空機とは思えません」
「どういう事だ」
「反応微弱のため概算ですが、約2000ノット。 このような速度で飛ぶ航空機はありません」
「故障か、雑音のようだな」
その後、レーダー機器に故障を示す要素は無かった事が報告された。
レーダー員の観測内容は記録されており、後で他の艦も同様の観測記録を残しているため、雑音ではなく、流星などの天文現象ではないかという結論となった。
*****
SR-71AはF-15DJに向けて短文を送る。
「BLACKBIRD FOUND TARGET1 N+0.11 E-0.13 TYPE CV NUM 9 TYPE BB NUM 12 LS NUM OVER 1000 NO MONSTERS NO SEA DISCUS」
これは、SR-71Aが目標地点から北に0.11度、東に-0.13度の位置に大型空母9隻、戦艦12隻、揚陸艦または補給艦等1000隻以上を擁し、モンスターはおらず、海上円盤も無い という艦隊を発見した事を知らせている。
ただし、これは速報レベルのため、詳細な値ではない。 同じ空母でも小型空母や護衛空母は含まれないし、巡洋艦以下はカウントされていない。
そして商船的なサイズ感の輸送船らしき船舶が1000隻以上で、内訳は不明という事である。
F-15DJは直ちに航空基地のM577へと通信を送る。 この内容は大英達を驚かせることとなるのであった。
用語集
・地図
用語ではないが、地図の解説。
茶色は陸地。
水色は海。
白っぽい陸地のような所は不明とされているが実際は海。
出典
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Map_of_Sunda_and_Sahul.png
・本来場所が判っている動かない戦略目標を対象とする戦略偵察機
実のところ、その搭載するセンサーは索敵機としても使えるどころか、優れているらしい。
・レールと同じ
金属は温度によって膨張・収縮する。
鉄道のレールは膨張した時に曲がったりしないよう隙間を作って配置されている。
近年では別の解決法も使われる事があるようだが、これはメジャーな解決法。
・ただ座って目を怪しく光らせながらボーっとしているように見える
人と同じ姿をしているから人のように見えるが、アキエルは生粋天使である。
機器の操作に、人間が使うようなインターフェースは必要としない。
バーチャルコンソールすら、操作している本人は視認しておらず、「機器の操作をしているという現象」を明示するための「様式」でしかない。
もちろん、よくあるSF映画のように、棒状の何かやケーブルを出してコネクタに接続するといった事も不要である。
全てはバーチャルで無線で行われている。
もし、これを人間と同じ様にキーボードとマウスでやっていたら、3日はかかるのではなかろうか。
まぁ、アキエルがやってるから20分で終わっているので、同じ事をセキエルがやったら1時間はかかったと思う。
いや、構築だけなら10分で終わるような気がするが、最初からは上手く動作せず、デバッグ・修正の繰り返しで気が付いたら1時間経過した。 と言う感じ。
つーか、始動用装置なんかはバーチャルで成功しても現物で動かしたら「あれ? なんで動かない?」となりそうな気がする。
・いつもやってくれると助かる
これまで結構「アレがない」「コレがない」で塩漬けになっている召喚物や召喚保留のブツがあった。
実際に触れていたのは「F-105D サンダーチーフ」かな。 本編ではなく用語集だけど。
(「第39話 おっさんズと軍事ライターの決戦 その2」の用語集)
魔法で核爆弾と燃料タンクを差し替え出来れば、どっちの仕様で召喚するか悩む必要が無かったのだがな。
なお、このF-105の問題については、模型が3機あるので、工場稼働によって、一応解決した。
(工場が稼働する前の解決法は無い。 逆召喚・再召喚では同一仕様での召喚になるので、タンクを爆弾に入れ替えることは出来ない)
つまり、1機を核装備、1機を燃料タンク装備で召喚。
これを工場に入れれば、核爆弾と燃料タンクを工場で製造できる。
(兵器は製造できないが、弾薬・消耗品は製造できる。爆弾は弾薬扱い)
これにより、必要に応じて「燃料タンク搭載/核爆弾搭載」を任意に選べるようになる。
なお、搭載用の機器は「アメリカ武装搭載作業セット」というそのものズバリな装備品のキットがあるので、搭載用のブツさえあれば入れ替えは可能である。
(MJ-1リフトトラック を使用する)
・そのまま北西へと向かう
元々航続力が長いのでこういう方針にしたのだが、搭乗員の話を聞くと、いったん帰投して再出発だと、燃料補給が難しいという問題が発生する事が判った。
使ってる燃料が普通じゃない(JP-7)のと、普通の燃料補給方法が使えない。
高圧で給油する独特な方法なのだとか。
燃料はなんとか用意できても、そんな事が出来る補給車両や給油装置は無いので、必要ならこれもアキエル先生に作ってもらう必要がある。
・流星などの天文現象
天体観測に詳しいか、レーダーについて様々な情報に精通している人物がいれば、この推測が可能となります。
なお、実際の流星が現れる高度とSR-71Aの飛行高度は異なりますが、当時のレーダーで高度2万5千、マッハ3の飛行物体は正しく補足出来ず、高度が不明となったため、異なっている事は判明していません。




