第62話 おっさんズと異世界の海軍 その2
1970年某月某日。
4隻からなる小規模なアメリカ艦隊が南シナ海を南に向け航行していた。
・ミサイル巡洋艦 CG-11 シカゴ(旗艦)
・空母 CVA-63 キティホーク
・駆逐艦 DD-944 ムリニクス(フォレスト・シャーマン級 改装無し)
・駆逐艦 DDG-36 ジョン・S・マケイン(ミッチャー級 DDG改修後)
着艦事故により被害を受け、修理の為に戦列を離れる空母インデペンデンスと交代するための空母キティホークの艦隊だ。
急いでいるため補給艦を持たず、高速で進んでいく。
「提督、右舷前方に日本艦隊を確認しました」
「そうか、儀礼に則り挨拶を送っておけ」
「はっ!」
気怠く指示を出すと、艦隊の指揮を執るS・D・コロンバス提督は苦々しい顔になる。
「全く、ジャッブの助けを借りるとは、合衆国陸軍も地に落ちたものだな」
「提督、兵が見ています。 お控えください」
「なーに、構うものか。 そうだ、一ついい話を聞かせてやろう」
副官が諫めるのも無視し、コロンバス提督は昔語りを始める。
「俺は大戦中レイテに行ったことがある。 あれは酷い戦場だった。 陸さんを大勢乗せた揚陸艦隊はジャップの戦艦共の砲撃で壊滅。 見た目には青い海だが、俺には血の海に見えた」
「だが、俺たち海軍航空隊はそのままにはしておかなかった。 総力を挙げて戦艦群を殲滅した。 俺もヤマトに爆弾を直撃させた」
「被弾して次の攻撃に参加できなかったのが残念だ。 ヤマトの最期をこの目で見れなかったのは今でも悔しい事だ」
「この頬の傷はその時のものだ」
「大体、連中の空母……『ヤマシロ』とか言ったか、アレはその時俺が乗っていたフランクリンだぞ、何で連中にくれてやったんだか」
「提督、そのくらいに……」
「君は真面目だな。 そんなに同盟が大事かね」
「当然であります」
「全く、猿なんぞと同盟だとか、合衆国の栄光は何処に行ったのやら」
「提督!」
「あーあー、判った判った。 みんな、此処での話はオフレコで頼むよ」
「もちろんでさぁ、提督!」
水兵たちはぐっと親指を立て、そして提督に敬礼して応える。
ベトナムで戦う米軍への支援物資を積んだ日本海軍の輸送艦隊が南シナ海を進む。
旗艦 駆逐艦 高月が率いる艦隊。
構成は高月以下 護衛駆逐艦 朝雲、輸送艦 大隅、知床、給油艦 浜名の5隻だ。
高月は接近する潜水艦を探知し、音紋から北の潜水艦と判明した。
「まさか、北の連中がベトナムに来ているのか?」
ピンを打つと、潜水艦は去って行った。
その直後、後方よりアメリカ艦隊が高速で接近してきた。
アメリカ艦隊はそのまま日本艦隊を追い抜いていく。
だが、その直後、黒い霧に包まれ、アメリカ艦隊は姿を消す。
それを見て日本艦隊はパニック状態になる。
旗艦高月の艦橋内は大騒ぎだ。
「まさか、潜水艦にやられたのか?」
「馬鹿な、空母なんか沈めたら世界大戦だぞ。 ポマードにそんな度胸あるのか」
ポマードとは、日本人民共和国国家主席の徒名である。
テカテカに塗り固められたヘアスタイルから、南の日本帝国ではそう呼ばれている。
余談だが、北の通貨「人民円」のお札にはすべて、ちょび髭で細い顔の彼の肖像が描かれている。
「ポマードに無くても、ブル公にはあるんだろ。 北が一人でやるもんか。 ソ連が付いてるだろ」
「落ち着け、1隻であの艦隊を一瞬で沈められる訳がない」
「とにかく、サイゴンに連絡だ」
「まてよ、じゃ近くにソ連の潜水艦も来てるのか」
「とにかく、急ぎましょう」
日本艦隊は対潜警戒を厳にする。
司令は高月・朝雲両艦に敵性潜水艦に対する先制攻撃を許可した。
世界情勢が一気に緊迫化する事件のはじまりである。
だが、アメリカ艦隊が姿を消した原因は人民海軍やソ連の潜水艦ではない。
そう、レリアル神による召喚である。
*****
ミサイル巡洋艦シカゴの艦橋では、突如現れたレリアル神とコロンバス提督が話をしていた。
既に自己紹介は終わり、ここが元の地とは異なる海である事と、その理由まで説明は終わっている。
「何故言う事を聞かねばならん。 そもそも合衆国軍人は大統領に忠誠を誓っている。 アンタの命令に従う義理は無い」
「戦わぬと申すか。 それならそれで構わぬが、元の世界には帰れぬ故、汝らはこのままこの世界で朽ちていく事となるが、それで良いか」
「それは脅迫かね」
「事実を述べておる」
「……」
「……」
「判った、だが敵の情報も無しに戦いを決断するわけにはいかない」
「ふむ、そう来たか。 じゃがそれは難しいのう。 我らは汝らの武具についての知識が乏しい。 強さの相対的評価に関する有意な答えは出来ぬ」
「そうか、じゃあ、せめて敵の指導者の名前くらい教えてもらえないか」
「ふむ、それなら判るぞ。 確か『オオヒデ・サダトキ』とか言うたな」
「オオヒデ……なんだそのジャップのような雰囲気の名前は」
「ジャップが何なのかは知らぬが、ニホン人と聞いておる」
「何! そうか、ジャップか、判った。 この話、乗らせてもらおう」
「そうか、やる気になったか。 では、期待しておるぞ。 存分に戦え」
「任せておけ、この世界から猿を駆逐してやる。 ふははははははは、ははははは、はあっはぁっ、ハッハッハァ!!!」
狂ったように笑い続ける提督を横目に、レリアル神は副官に告げた。
「それでだな、ここより東にもう一つ、そちらは大船団を召喚しておる。 可能なら連携して当たれ。 同士討ちなぞせぬよう願うぞ」
「大船団?」
「ああ、100隻は超えているはずじゃ」
「合衆国海軍にそんな規模の艦隊は無いはずですが」
「そうなのか、時期は同じはずだが、少しは違ったかの。 それに連合国(Confederate States)とか言ってたような気がしたが」
「連合国? 聞かない名ですね」
「そうか、ふむ、そういう事もあるか。 とりあえず、向こうにも話を付けておく故、うまくやってくれ。 ところで、あの男は大丈夫なのか」
「お見苦しい所ですが、ああ見えてデスクワークは有能でありますし、部下の心を掴むのにも長けております」
「ふむ、今は戦場での働きが大事なのじゃが……その辺りはお主に期待すれば良いのかな」
「努力いたします」
「わかった。 ではさらばじゃ」
そう告げて、レリアル神はゲートを開いて姿を消した。
そして、艦橋には……
「はっはっはぁ! 神よ! おお神よ! この幸運に感謝します! 大手を振ってジャップを叩き潰す機会を下さり、ありがとうございます。 必ずや猿どもを滅ぼしてくれましょう! はっはっはぁ! はっはっはぁ!」
まだ提督の笑い声が木霊していた。
*****
天界ではアキエルの元に「異常値」についての報告が届いていた。
自動警報が出る程ではないものの、膨大な魔力の消費が観測されたのだ。
「これは、一体何人のみ使いを召喚したの? ……いや、まさか現物召喚?」
「アキエル様、現物であれば、もっと大きな魔力消費になり、自動警報が出るかと思いますが」
「それはそうだけど……、とにかく地上の大英君達にも伝える必要があるわね」
「すぐに準備します」
「お願い」
今回、レリアル神は天使召喚を少し改変している。
本来天使召喚は
「時間移動」「時空超越衛星直リンク」「権能授与(複数)」「対妨害対応」「対魔力探知(隠蔽機能)」「病原体浄化」「帰還保証予約(時刻同期転送)」
を統合した複合大魔法なのだが、
「権能授与(複数)」「帰還保証予約(時刻同期転送)」はカット
「対妨害対応」「対魔力探知(隠蔽機能)」はレベルを下げている。
洋上の艦隊なので、帰還の際も時刻同期転送は必要ない。 時刻同期転送といっても、同期しているのは時間だけでなく空間も同期している。
建物だと時空共に僅かなズレも許されないが、洋上ならズレても問題は無い。 船の場合海水は避けて戻すことが出来る。
そしてこの洋上という特性は、転送そのものの難易度を下げる。
建物の形や配置に拘ることなく、ざっくり球状範囲を転送という簡易な方式がとれるのだ。
「対妨害対応」「対魔力探知(隠蔽機能)」は、日本国内と違いアマテラス神の監視範囲外なので、ここも大幅に減らす事が出来る。
流石にゼロには出来ないものの、魔力の節約に大きく貢献している。
結果、莫大な容積を転送したにもかかわらず、警報が出ない程度に抑えられたのだ。
まぁ、警報を気にしたのではなく、2回の連続召喚が出来る様にと考えた結果なのだが。
ともあれ、何か大きな召喚らしき大魔法の行使について、大英達にも伝えられたのであった。
用語集
・「人民円」のお札には、すべて彼の肖像が描かれている
人民円の肖像と言えば、記憶が正しければ細身の髭でぎょろ目の人が思い出されます。 あるドラマに出ていたものです。 ポマード感は無かったと思いますが。
(タモリがプレゼンテーターのあのシリーズだった気が……)
グーグル先生は人民元だと思い込んでいるようなので、検索しても出てきませんけどね。
AIに聞いてみたら「越境」という話に出てる独裁者役の吉田朝(現 ヨシダ朝)氏が該当しそうですが、お札の画像が無いので確定は出来ません。
・ヤマシロ
元はエセックス級空母 CV-13 フランクリン 搭載機は空軍と機種統一したF-11J(ベースはF-11-1F)。
・時期は同じはずだが、少しは違ったかの
60万年も生きているレリアル神にしてみれば、26年(1944年、1970年)の違いなんて無いに等しい。
人間の感覚なら、1日程度の誤差なのだから。
さらにレリアル神が生きている3万年前の世界なら、26年程度では技術的な事は「全く変化が無い」と言って差し支えない。
それは成熟しきっている天界も、原始的で文明化がゆっくりな地上も同じ。
四半世紀で大変動が起きるなんて、人類の歴史上でもごく最近の話なのだ。
・ざっくり球状範囲を転送という簡易な方式
フォトショで人物の切り抜きはとても面倒(最近はAI機能のおかげで楽になったらしい)だが、丸く切り抜きで良いなら、一瞬だ。
それと似たような事。




