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9 強敵が あらわれた!

 猪を倒してから三十分ほどだろうか。河川敷が少し広くなっている所と、そこに下りられる道が見つかった。水があり、開けているので火も使える。鉄砲水の恐れがあるのでテントを張るのは危険だが、食事を作るには適した場所だ。

 腹に入れてしまえば、猪はその分だけ軽くなる。ついでに骨など食べられない部分も捨てて肉だけにしてしまえば、もっと軽くなるだろう。俺は食事ついでに解体も済ませてしまうことにした。

「ところでケイ、質問なんだが」

「何よ」

「お前、魔力が少ないから魔法はそうそう使えないって言ってたよな」

「そうよ。火なら一日に二回か、頑張って三回がせいぜいかしら」

「さて、俺はこれから食事のために焚き火をしようと思っている」

「ええ。で?」

「でも俺は今日、既に魔法を二回使っている」

「知ってるわ」

「しかもさっきは炎を四つも出してしまった」

「それがどうしたの?」

「魔力を使い過ぎると気絶すると聞いたが、まだ使って平気かがわからない」

「ああ、そういうこと。いきなり倒れたりしないわよ、そこに至るまでの自覚症状がちゃんとあるから。魔力を使い過ぎるとまず倦怠感がきて、次に貧血や立ち眩みみたいに血の気が引く感覚がしてくるわ。更に使うと視界がぼやけて来て力が入らなくなり、それでも無視して使い続けると最後に気絶する。逆に言うと、それらの兆候がなければまだ使っても平気。その調子なら全く問題なさそうね」

「そうだな。安心した」

 俺の魔力はケイより多いようだ。今の説明を信じるなら、まだ三回くらいは使えそうだな。


 今回もケイに猪のホルモンを献上し、ケイはそれを当然のように食べ始める。俺は猪の皮を剥いで肉を削ぎ取り、食べる分だけ肉を焼く。残った骨を放り投げ、剥いだ皮を拾って肉をそれに包みリュックに吊るす。猪そのままだった時よりはだいぶ軽くコンパクトになったが、まだ五kgほどある。重いのは嫌だが、食べるものがそれだけ確保できていると考えれば幸せな重みだ。

「さて、少し急ぐか。改めて出発!」


 再び黙々と歩きだして暫し。

「エージ、魔力に余裕あるんでしょ?」

「さあ。ケイの話を信じるならあと火を二回か三回は使えそうだけど、それ以上はわからないな」

「私の見立てだと、もっと大丈夫そうなのよ。だから少し練習してみたら? 火以外にも使えるのがあるかもしれないし」

「確かに、森の中で火をぶっ放すのは森林火災的な意味で危ないか。エレメンタルに適性があるんなら水や氷も使えるだろうし、やってみる価値はあるかもな」

 栄二は思わず調子に乗ってしまいそうだったが、ちゃんと現実を見据えていた。

「でも今ここで使う必要は全くないな。この森の中で無駄遣いしたら死ぬから、ここを抜けてからにしよう」

「意外と堅実なのね。多少使っちゃっても平気だと思ったから提案したのに」

「森はまだ広い。どんなモンスターがいるかもわからない。使わずに済むなら極力温存しておくのが当然だな」

「でも練習してないものをいきなり使うのも危ないわよ」

「それもまあそうなんだけど、無理に魔法を使わなくても良くね?」

「じゃあ聞くけど、その槍で倒したことあるの?」

「……ないな」

 やはり魔法の練習もしないとダメか。


 そんな話をしていた矢先。

「エージ、止まって。この先に気配がする」

「気配?」

「ええ、何か大物がいるわ。練習前にいきなり本番ね」

「なんてこった、この森は初心者に厳しいな。てか、もしかしなくてもあれか?」

 長さ十メートル近い大蛇が見えた。まだ少し離れている。

「うげ。うまいこと逃げ……」

「無理ね。完全にロックオンされてるわ」

「ですよねー」

 その蛇は木の枝に絡まっていたが、素早く地面に下りてきて、首を上げてこちらを威嚇している。

「魔法の練習をしておくべきだったな」

「今更言っても後の祭りね。まあエージなら何とかなるわよ、きっと」

「その自信はどこから来るんだ!? 俺本人には全くその自信はないんだが!」

「えーと、信頼と実績?」

「あんな奴相手の実績なんかねえよ! それに信頼って言うなら何で疑問形なんだよ!」


 言い合っていても仕方ない。蛇を睨み返す。俺は蛙じゃないから、蛇に睨まれても動けなくなったりはしない。しないんだ。しないんだってば。

 それはともかく、実際どうすればいいんだ。細長いから火を当てるのは難しいだろう。横に避けても、くるっと丸まって締め上げられたらおしまいだ。普通に戦ったら勝ち目はないから、なんとしても最初の一撃で致命傷を与えたい。

 蛇の弱点は何だ。爬虫類だから、えーと、そうだ!

 大蛇がこちらに首を伸ばし、牙から毒を滴らせて今にも噛み付こうかというところで、

「蛇の体よ余さず凍れ! マイナス七十度の瞬間冷凍で鮮度そのまま! 凍てよ、フリーズ、ゴーオン!」

 ピキン。

 蛇の頭が氷に包まれたかと思うと、パキパキパキという音と共に胴体が順に凍っていき、程なく尻尾まで到達して、蛇は氷の棒に変わった。

 爬虫類は体温の調整が不得意だ。なので冷やせば動きが鈍くなるかと思ったのだが、それを通り越して丸ごと凍結してしまったようだ。いや、確かにそう詠唱したけど。


「あぶな、あっぶな! 辛うじて間に合ったぜ!」

「そう言う割には攻撃させる隙も与えなかったじゃない。さすが信頼と実績、余裕ね」

「違うっての、一撃でも食らったらアウトだから先手必勝でぶちかましただけだ。余裕なんてとんでもない」

 しかし綺麗に凍ったものだな。あまりに見事な氷になっているので、

「……そいつ、解凍したら生き返らない?」

 ケイがまだ警戒している。

「確かに鮮度そのまますぎるな。でも生き返るとしても俺たちは逃げ仰せた後だから大丈夫」

「なに言ってるのよ。これだけ大きな蛇、しかも皮に全く外傷がないんだから、いい値段で売れるわよ。肉も売り物になるし、この種類なら血も毒袋もたぶん買ってくれるわ。ちゃんと仕留めて丸ごと持って行きなさい」

「そっか。まあ溶けたところで復活したりはしないと思うけど……あーしまった、がっちり凍っててナイフが入らない」

 これは予定していなかった。

「仕方ない。ナイフよ、蛇を捌きたい。鉄の分子が激しく運動して熱を発生、三百度になって氷を溶かしながら蛇の首を切り落とせ。えい、えい、てやっ!」

 ナイフが光ったかと思うと蛇に当てた所から湯気が出て、シャーベットにスプーンを入れるような手応えで切れていき、やがて頭と胴体が切り離される。これで解凍されても動き出すことはないはずだ。


 でも、こんなにでかい獲物を持って行くのには何か工夫が必要になる。

 ふと思い立って胴体を丸め、およそボール状にする。頭の部分も隙間に突っ込み、追加の氷で固定しながら全体を大きな氷漬けにして、蛇入りの氷球に仕立てる。

「さすがにそのままじゃ持って行けないから、これで転がして行くしかないな」

「確かに、普通に持ち運ぶには大きすぎる獲物ね……」

(だからって! こんな巨大な氷、平然と作っちゃダメなやつでしょ! しかもたぶん町に着くまで凍らせ続けるつもりだし! それなのにさっき忠告した症状が出てないなら、まだ魔力を七割以上も残しているってことよね! どこに残り魔力を心配する要素があったのよ!)

 ケイの焦りは、栄二には全く伝わっていなかった。


戦闘はだいたいこんな感じです。栄二本人は焦りまくりだけど客観的に見れば圧勝。いつか焦らず戦えるようになったら、栄二は森の強者になるでしょう。

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