“私“の世界が、始まる。
彼女は、私を睨み付けたまま、かつて、自分が籠絡した魔法使いの業火に焼かれ、燃え死んだ。
私の処刑を見に来た群衆たちは、困惑していた。
私も、である。
「これは…………」
「シア。安心して、これで、君を害するものはなくなった。」
「レ………イ」
おかしい。
何かが、おかしい。
私が、処刑されるはずだったのに、なぜ彼女が死んでいる?
なぜ?わからない。
命が助かったと言うのに、安堵できない自分がいる。
剣士としての勘が、何かを告げている。
私は、口を開こうにも、開けなかった。
「シア、怖かったろう。すまない。こんなことをした俺は、もうシアの隣には立てないな。アイシア・ルークウェン。君との婚約を………」
目の前の彼は、一体誰なんだろう?
「嫌です!」
何より、私は何をいってるんだ?
考えてはダメだ。と、脳が警鐘をならす。
それでも、考えずに入られなかった。
「私は………許されるなら、レイと共に過ごしたいです。剣の腕と本を嗜む、面白味のない女ですが………レイと、クロウレイ・リューシォン様と、生涯を共にしたいです。」
違う。
私は、そんなことを望まない。
クロウレイ・リューシォンとは、幼馴染で家の命令で婚約関係になった。ただ、それだけの存在。
恋愛感情など抱いたことない。
現在進行形で、今も、だ。
私の望みは、私は現王に忠誠を誓う騎士となり、戦場を疾走する、ことである。
「シア………!」
感極まり、また私を抱き締めたクロウレイ・リューシォンと言う男は、呟いた。
「シナリオコンプリート♪」
あぁ、そうか。
そう言うことか。
これは、ここは、彼のための物語だったのだ。
そこに至ったとき、私は私でなくなった。
【ただ、婚約者に裏切られ、それでも尚婚約者を許し、幸せになる心優しい乙女がそこにいた。】
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かつて、『その日まで』と言うゲームがあった。
主人公はクロウレイ・リューシォン(ゲーム初期名)で、婚約者アイシア・ルークウェンと仲のよい恋人同士。
しかし、学園に転入生リリー・ルクシェンが現れたことにより、事態は変わり出す。
リリー・ルクシェンの使う魔法・魅了魔法により、彼女の取り巻きになってしまうクロウレイ・リューシォン。
同じく取り巻きになってしまった仲間たちと、解呪の方法を探ることになる。
解呪するには、愛しい人の救いの声が必要であった。
けれど、クロウレイは、婚約者アイシアに会えない日々が続く。
そして、一年後、アイシアは、リリーを苛めた犯人として処刑されることに。
其処で、彼女が『助けて』と………
ギリギリ解呪出来たクロウレイは、アイシアを助けだし、リリーを処罰することに成功する。
そして、二人は幸せになる。
これが、大まかなストーリー。
抱き締めた、アイシアの柔らかな髪を撫でながら、俺は、クスリと笑った。
「シナリオコンプリート」
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──────私の世界は、終わる。
そして、“私“の世界は、始まる─────
アイシア・ルークウェン……剣と本が好きな少女。公爵令嬢で悪役──のはずだった。本文ではでなかったが、騎士位を持ち、剣の腕は凄く強い。
クロウレイ・リューシォン……アイシアの婚約者で、本来の主人公。次期公爵。
リリー・ルクシェン………ヒロイン──で在ったはずが、実際には当て馬。焼かれて死ぬ
設定が、あちらこちら吹っ飛んでいる拙作を最後まで読んでくださりありがとうございます。