セルヴィスの街路
眠れない夜だった。
リオンはストーンクロスの仮宿の窓から外を見ていた。雪が止んでいる。雲の切れ間から星が覗いている。灰域の夜空は暗い。フォートレスのように街灯が夜を消すことがないから、星がよく見える。
明日、ダリオ・メイスが来る。
セルヴィスの鋳脈者。コルヴァスの最古参。リオンはダリオと面識がない。だがコルヴァスの名前は重い。リーヴ・シェイドが率いる特務遊撃隊。セルヴィスの尖兵。
自分がかつて所属していた組織の兵士と、明日戦う。
記憶が蘇った。止めようとしたが、止まらなかった。
* * *
士官学校からの帰路。
リオンはルークと二人で、管区の外縁を歩いていた。三重防壁の最外壁の内側に「保護民居住区」がある。灰域から「保護」された住民が暮らす区画だ。
フォートレスの中心部とは、空気が違った。
建物は低い。2階建ての集合住宅が規則正しく並んでいるが、壁の塗装は剥げかけている。窓は小さく、洗濯物がロープに吊るされている。通りを歩く人々は管区証を首から提げていた。保護民は中心区への移動を制限されている。管区証がなければ、検問を通れない。
子供たちが路地で遊んでいた。ボールを蹴り合っている。その足元はサンダルで、冬の寒さの中、靴下を履いていない子もいた。
ルークが言った。
「あの人たちも守っているんだ。僕たちが」
リオンは立ち止まった。
「守っている?」
居住区の入口に、検問所がある。武装した兵士が2人、管区証をチェックしている。保護民が中心区に出るには申請が必要で、承認には3日かかる。
「閉じ込めているの間違いじゃない」
ルークは黙った。
リオンは自分の言葉に自分で驚いた。軍の一員として、こんなことを口にすべきではない。だが言葉は既に出ていた。
二人は黙って歩き続けた。
保護民居住区の端に、小さな学校があった。窓から子供たちの声が聞こえる。何かを暗唱している。セルヴィスの管区法を暗唱させられているのだ。灰域から来た子供たちに、セルヴィスの法律を教えている。
* * *
記憶が途切れた。
リオンは窓から目を離し、拳を握った。
あの居住区の住民たち。灰域から「保護」された人々。灰域浄化が進めば、あの居住区に更に多くの人間が送られる。そしてその中に冴覚の素養がある子供がいたら。
セルヴィスは「保護」の名目で、その子供を鋳脈の候補に組み込む。
リオンは答えを知っている。自分がそうならなかったのは、参謀長の娘だったからだ。ケネス・アスフォードの娘であるリオンに、鋳脈を強制することは政治的にできなかった。だから勧奨に留まった。
保護民居住区の子供には、その盾がない。
リオンは立ち上がった。
窓の外に、残殻が並ぶ格納庫の屋根が見える。明日、あの残殻に乗って、かつての同胞と戦う。
矛盾だらけだ。セルヴィスの教育を受け、セルヴィスの訓練で鍛えられた体で、セルヴィスの兵士に銃を向ける。
だが、矛盾を恐れて動かないことは、あの居住区の子供たちを見捨てることと同じだ。




