2-10.
昼前に、標的自宅から少し離れた場所の時間貸し駐車場に車を停めた。
近くに有名なラーメン屋があるので、そこで昼食を食べてから情報収集兼訪問販売に勤しむ事にしよう。
グルメサイトで百名店に何年か連続で選ばれた事もあるそのラーメン屋は、昼時ということもあって、6〜7組の客が店前に列をなしていたが、さほど待たず、30分程度で店の中に入ることができた。
さすが日本人のマナーだ。
店内に入るとお揃いのTシャツを制服にした、元気な店員さんが出迎えてくれる。
すでに店の外で並んでる間に注文は聞かれていたので、確認だけされると席に通され、そう間も無く注文のラーメンが出てきた。味玉付きで、麺は硬めだ。
鶏ガラ醤油の中細ちぢれ麺。普通のメンマじゃなくて、穂先メンマなのが素晴らしい。チャーシューはレアな鶏チャーシューで、上品な香りの奥にある旨みが喉の奥を潤す。
やはり、評価が高い店のラーメンは美味しい。
そして、接客も大事だ。
へりくだる必要も、バカ丁寧にする必要もない。
適度に元気で、清潔感があって普通に敬語であればいいのだ。髪型、髪色、ネイルやタトゥーもどうでもいい。
一回だけどこぞの二郎系ラーメン屋に行った時に、ちょっと券売機で迷っただけで、厨房から偉そうに急かされて、席に着いたら野菜やアブラのマシとかを言おうとすると、タメ口で順番があるから、と注意された。
本当の意味で殺してやろうかと思ったが、まあ、こっちが二度と行かなければいいだけではあるし、お客さんが並んでいるなら、ある意味、世の中に貢献していることではあるから、踏みとどまれた。
量だけ多くて、大して美味くもない二郎系ラーメン屋が繁盛している意味はわからないが、一生分からなくてもいい事なんていくらでもあるから、まあ、いいだろう。
それよりも、ここはいい。店の方針で替え玉をやってないから、最初に大盛りにするかどうかを選ぶタイプだが、次は大盛りにしてもいい。粗利が高いソフトドリンクかサイドメニューを頼んで、売上に貢献してあげたいとも思える。
店を出ると、さらに10組ほどの列ができている。
ちょうど昼時だし、早めに入れてよかった。
満腹には少し足りないが、あまり腹いっぱいにしても、億劫になるだけなので、ちょうどよかった。
足ることを知るのは大事だ。
目的のエリアまで歩いて10分程度。腹ごなしになってちょうどいい。
大きな道路を背筋を伸ばして歩く。
背中には、サンプルとチラシが入ったリュック。少し重いが、一日中歩き回るわけではないから、散歩がてらにちょうどいい。
あの角を曲がって、住宅地に入ったあたりから仮初の訪問販売の開始だ。
少しだけ息を整えてから角を曲がり、一つ目の住宅のインターフォンを押した。
『はい』
「お忙しいところ、すみません。このエリアの皆様に無添加シャンプーとトリートメントのサンプルをお配りさせていただいてまして」
今からの私は、足で稼ぐ訪問販売員だ。
なんだったらカバンの中を全部、配り切ってやろう。




