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無音の魔術師  作者: 芹沢桐花
第三章 英雄
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断章.夢を見た

 愛しいと思った。

 強気なところも、優しい心も。

 このまま、このままの関係で、繋がりを切らず、強くもせず、ずるずると引きずりたかった。

「ヴィクトル」

「うるさいわ、少し黙っとけ」

「うるさいって何、いいからついて来なさい!」

 横暴も追加。

 貴族で、剣士。彼女の剣筋は真っ直ぐでアホみたいだった。

「どこに。面倒」

「君は、つまらなそう。いつも」

「関係ないだろ! いつもいつも!」

「言葉、戻ってる」

「な……」

 これは、なんだ。何故昔の僕がいるんだ。どうして一緒にいるのか。

「ああ、そうか」

「何が?」

「これ、夢や。僕の」

「それが何よ」

「だったら、面倒なことはしない」

 イリーナはニヤリと笑った。笑って、僕の手を掴むと、歩き出す。

 辺りは真っ白で、歩いてる気がしない。

「ねえ、ヴィクトル?」

「んー」

「君、私のこと好きでしょ」

「うるさいな、夢の癖に」

「夢だから、私は君でありイリーナでもある……ってね」

「君が僕なら、確認なんて無用や」

「あ、また心閉ざした」

「はあ?」

「その言葉遣い。考えてから口に出すようにって縛り」

「イリーナらしく話せよ」

「……何よ。君の妄想だよ? 私」

「妄想言わんといて。虚しいわ」

 イリーナは、止まった。隣を見下ろして、後悔した。

 腕が折れて、血まみれのイリーナだった。

「後悔するなら、やらなきゃいいのに。私なら、気にしてないのに。何故なのか、理由なんて分かってるのよ?」

「じゃあ黙れ」

「黙ると思ったわけ?」

「まさか。僕の中の君は黙らんわ」

 楽しげに笑った彼女は、折れた腕を持ち上げて、僕はなんとも言えない表情を浮かべた。

「さて、ではあえて黙ることもできるのだけれど、君はそれを望んでいない。私は大いに話そうじゃないの」

 浮かべたのは、きっと笑みではない。

「このまま、自分を痛め続けてどうなるの? あなたは生きて、私のもとへ戻りなさい。そしたら痛い目に合えばいい。あなたに罰を与えるのはイリーナ以外にはいないのよ」

「ヘンリーに罰を与えるのも、僕だけだ」

「兄弟に与えられるのは救いだけよ。それはあなたの兄に救いを与える。わかっているくせに」

 遠くで声が聞こえた。

 きっとそろそろだ。

「それでも行くんだ」

「当たり前やろ? 僕が行かんでどないするん」

「そう」

「僕は、僕にとって最善は選ばない」

「そうね、あなたは復讐なんて出来ない」

 言葉にされるときつい。

 全てが無意味に変換される。

 それでも、僕は変われない。


××××××


 外が騒がしい。来たのだろう。

 僕は靴を履き、上着を羽織ると武器を手に取る。

「さて、僕の出番やな」

 ずっと悩んでいた。

 分かっていたって分からない。心と体は繋がらない。それでも僕だから、結局は望んでいること。

 僕は、全てを踏まえて、選んだ。

 予想外にも心は曇っていた。

 想定内にも体は強ばっていた。

 そして、僕は未来を見た。


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