断章.ここに繋ぎ止めたい
やけに騒がしいと思ったら、どうやら怪我人がいるらしい。幾度も死線をくぐり抜けてきた男どもが騒いでいるのだから、相当ひどい怪我なのだろう。
「メリアちゃーん……。聞いてる?」
「……うーん」
「ちょっと」
「ん? なんですか」
「あのねぇ、俺たちわりとギリギリだからきりきり働くって言ったの、君でしょ?」
銀髪のエルフは私に襟首を捕まれたままそうため息をついた。
「そうね。でも私は二人でって言いましたよ」
「う……」
私は再び歩き出す。依頼報告の終わったこいつを私は叱り飛ばさなければいけない。
この騒ぎならば私が怒鳴ったとしても気にする者などいないはずだ。
「良いですか? アレクセイ様、あなたが死んだら私も死ぬのですよ?」
「一蓮托生だからね」
「そうですよ! だというのにあなたは!」
「い、嫌だなぁ、ほんのちょっと一人で依頼を受けたくらいで」
「黙りなさい! 戦場には行かないって決めたでしょう!?」
彼が死んだら私も死ぬ。
そんなこと、本当はどうでも良かった。彼がいなければない命。いつ消えても良い。
私は、彼に命を返したいのだ。
だというのにこいつは、何故死ぬような危ない場所へと行くのだ。
「…………」
「な、なんで黙るの? 俺が悪かったよ」
「本当にそう、感じているのですか」
「俺が死ぬくらいなら良いけど、それじゃあせっかく助けた君まで死んじゃうからね」
「……そうですね」
もし、彼に命を返したら、今以上に自らの命を軽んじるのでは、というのは自意識過剰な杞憂だろうか。だって何度言っても治らない。
だが、私と命を共有していることで、少しでも強く、この世に繋ぎ止めておけるなら、私はそんな鎖でいい。
私はアレクセイ様の襟首を解放すると、騒ぎの原因を見に行くことにした。
「メリアちゃん?」
驚いたような彼の声は無視した。
いつもはもっとうるさいから、拍子抜けしたのだろう。
しかし、彼から離れる寸前に襟を掴まれた。
首がしまる。
「んぐ」
「あのさ」
私の後ろで乾いた声が発せられた。
「行かない方がいい」
「何、それ」
「君は、行かなくていい」
「どうして」
アレクセイ様は、答えなかった。
振り向くと、いつの日か私を避けて逃げ回っていた時と同じような顔をしている。
こうなったら彼は何も言わない。
意外と頑固者だ。
「……わかりましたよ。でもちゃんと理由、聞かせてください」
「それは」
「言えるようになったら」
そういうと、アレクセイ様は顔を赤らめて、何故か悔しそうな顔をした。
××××××
あいつに会ったら、絶対メリアちゃんは喜ぶ。それは確かだ。そして俺は喜んだ彼女も見てみたい。それは事実だ。
だけど、その二つが同時に起こるというのが何故か無性に嫌だった。
はじめは行かせてやろうと思ったけれど、止めてしまった。
「アレクセイ様?」
メリアちゃんが向こうから歩み寄ってきた。片目の彼女は斜めを見るように顔を向けるのが癖になっている。
それでも話すときは真っ直ぐに見てくれる。誰にでも、だろうけど。
「んー」
「夕飯、今日はギルドで食べる日ですよ」
週に二回、ギルドのばか騒ぎに混ざることが習慣だった。
だけど、
「行きたくないね」
メリアちゃんは首をかしげた。
当たり前だ。我が儘以前に何故こんなことを言うのか根本から伝わっていないのだから。
「あー、えっと、じゃあアレクセイ様が料理するのですか?」
「え」
「だってほら、私、料理下手ですし」
「……いや、誰とくらべてるの。母さんとくらべたら、当たり前だろ」
「酷くないですか」
「……」
早く夕飯を食べて、早く自室に引っ込んでもらおう。今日は何だか気分が悪い。
この気持ちはなんなのか、全く分からない。
「……私が作ります」
「ふふっ、急にどうしたの?」
「笑わないでくださいよ」
「俺のために作ってくれるんだ?」
すると、メリアちゃんは俺の顔を見て、少ししてから顔を真っ赤にした。
照れてる。
「ふ、ふざけないで。あくまで自分の分を作るのであって」
「じゃあ俺は?」
「ついでだから!」
普段の少し強気なメリアちゃんもいいけど、照れて焦って困ってるメリアちゃんはすごく可愛い。
俺だけが眺めていたい。
だから、やっぱり会って欲しくないわけで。
「疲れてるでしょ。少し休んでください」
だけど、彼女の為に会わせてあげたい。
こんな気持ちをどう表現したらいいんだろう。




