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無音の魔術師  作者: 芹沢十嘉
第二章 学園
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14.天羊狩

 見下ろしてくる二つの目。

 笑顔のくせして、隠さない殺気。

 一目であいつの弟だと分かった。表情も服装も口調も全く違うのに、纏う空気、雰囲気の色の暗さが似ていた。

「やあ、イリーナ。こいつ誰や?」

「知らない人」

「本人に聞いてくれよ」

「そう言えば、最近同じような事言われたなぁ」

「なら、学んだらいいじゃないか」

「君には嫌や。ナンパ男」

 やけに突っ掛かってくる。まぁ、用があったのはこの男だし、丁度良いはずなのだが、妙に気に食わない。

 イリーナと呼ばれた子は溜め息を吐くと、僕らを見てくる。

「あ、もしかして、君の彼女さん? だから怒ってるわけ? もしそうなら、謝るよ」

「……違うわ。僕のライバルが強そうな奴とやり合う言うのが腹立つ」

「誉めても何にもでないよ。あと、やり合う気もない」

「僕と手合わせするんならええけど、イリーナは駄目や」

 どう見たって、嫉妬ではないか。目を見ればわかる。

 僕は頬がひきつるのを感じつつ、目を逸らせないまま、赤髪の弟くんを見つめた。

「ナンパ男、僕と手合わせせえへん?」

「嫌だね。君、強いんだろ? 死んじゃうじゃん」

「何言うとんねん。殺すわけないやろ」

「…………」

 半殺しか。

 どう考えてもここは流されるべきではなく、避けて通る道だ。

「……僕、友人探してるんで。では!」

 自分はウサギだ。逃げるウサギだ。とか言い聞かせて走り出す。

 こんなところで戦闘を起こしたら、本当に正体がばれる気がする。

「ちょ、君なんで逃げるん!?」

 あなたが怖いからだ。

 いろんな意味で。


××××××


「その程度? おにーちゃん」

「…………」

「汝舞い ……我が魂を前に灰と帰すだろう!」

 炎の塊は羊たちを連鎖的に巻き込み、爆発を起こしていく。

 それでも羊が減った気がしない。と言うか、何故羊を狩らなくては行けないのか。ただ、大移動に巻き込まれただけなのに。白き森にいた頃は、たまにい今と似たような事もあったが、何するでもなくやり過ごしていた。

 それとも、俺のこの考え方自体がエルフ特有のものなのだろうか。

「手が止まってるよ。おにーちゃん。このままじゃ私が勝っちゃうよ?」

 別に魔術師は、手が止まっていたって戦える。それよりも倒した数を覚えているらしいエミルに驚きだ。俺はもちろん覚えていない。元から数えてさえいない。

 しかし、負けるのはごめんだ。勝ちの定義が行方不明になっているとしても。

 腕に魔力を注ぎ込み、辺りの羊に狙いを定め、魔方陣を展開させる。得意なのは雷だが、天羊の属性は雷。どう考えても効かない。

 仕方ないので、炎と地の魔術でなんとか倒していくも、どうにも燃費が悪い。

「さすがエルフ。武器なんか使わなくたって良いらしいなぁ」

「使ってせいぜい弓くらいだろ? 遠くから攻撃とか卑怯な奴ら」

 周りの生徒がチラチラと俺たちを見ている。気持ち悪いが、仕方がない。確かに見方によっては卑怯ものだし、エルフはこの国の裏切り者だ。変な差別をされないだけまだましな方だろう。

「弓って、結構力いるんだけどなぁ。……汝、舞い」

 エミルは小さく呟きながら、そんな生徒を覚めた目で眺めていた。

「……我が魂を前に灰と帰すだろう」

 エミルの炎。

(燃える物があればこの炎も効率よく利用できる。戦略的には初歩的だが……)

 魔術で生き物を扱おうと思うのなら、使い魔という手しかない。しかし、特別に複雑な呪文と大量の魔力を必要とする。植物でも出せれば燃やせるが、呪文の唱えられない今では無理だ。

 諦めてコツコツ狩っていくしかないだろう。

「こいつら、森から来たらしいぜ?」

「へぇ、じゃあ案外エルフが放ったのかもなぁ。お前らもなんかしたんじゃないか?」

 俺は、雷を奴らの近くに落としてやった。

 案の定、驚いた彼らは、俺を睨み付けていたが、無視してやった。

「わぁ、羊さんたち、魔術も使えるんだね! それじゃあ魔術も使えない貴族様たちは危険ですので下がった方が良いんじゃない?」

 エミルの言葉に何やら怒鳴り返している奴らを視界の外に追いやって、俺は魔力を込め始める。地面から、土の壁を生み出し、それで羊たちをできるだけ多く囲い混む。

 巻き込まれた生徒はいない。そこはさすがというわけだ。

 次に、土の壁を引き延ばし、ドームにする。完全に閉じ込めた。パラパラと砂が落ちる。あまり持たないだろう。

「ちょ、おにーちゃんそれは危ないよ!」

 それは知っている。

 俺はありったけの魔力を使い、二種類の魔方陣に込める。

 一つ目は、炎。土のドーム内で爆発させる為だ。

 二つ目は、水。これで土のドームと俺たちの間に壁を作る。

「おにーちゃん!」

 エミルは、叫びながらも出来るだけ生徒を下がらせてくれた。

 魔術を発動する。

 土のドームは爆発で吹き飛び、土と炎が飛び散る。それを水の壁は受け止めた。土は水分を含み、固くなったものの、水力に負け、弾き返され、炎は消されていく。

 最後に、その水を爆発地にぶっかけた。

「…………なんだよ、あれ」

 呟きが、聞こえた。

 煙が凄いが、校舎や生徒に被害はなかった。

 体が重たくて、立っていられなかった。地面には、燃えかすのような、灰色の粉が降ってきていた。

「陣魔術だろ? ……化け物かよ……」

 化け物。

 いつかに言われた言葉。

 この国の大半は、あいつと同じことを俺に言うのだろう。

 しかし、それを責める気にもならなかった。俺だって、彼の立場なら同じことを言う。

 ヘンリー・タウフェニスは、化け物だ、のように。


××××××


 ゼシカが運ばれていくのを、遠くで眺めていた。

 物凄い爆発だったが、それをただの水で受け止めたことが驚きだった。恐らく、水の魔術に大半の魔力をつぎ込んだのだろう。

 もしも、俺たちの仲間だったなら、彼の魔術のセンスも素直に認められたのに。彼は俺たちの脅威にしかならない。本来なら今すぐにでも、彼の信頼が自分にある間に、消すべきだ。

「…………」

「あ、ジノ」

「……は? 何故ここに?」

「んー、羊に流されて来ちゃったんだよね」

「はぁ……。バレていないよな?」

「多分? ま、ロテリアの兵士たちは知ってると思うけどねー」

「へぇ」

 こいつは馬鹿か。

 昔から、自分の事は適当な奴だったが、大きくなってからのこいつは、かなり自分自身を雑に扱っている。様に見える、とかではなく、事実だ。

「再会のちゅーする?」

「…………」

「し、視線が冷たいんですけど。良いでしょ? 僕と君の仲なんだし」

「この国ではただの変態だぞ。俺は変態にはなりたくない」

 ロテリアの習慣だからシャルルではやらないわけでなく、ロテリア人がいるということをあまり知らせるべきではない。それは、こいつを守ることにも繋がる。

「いーよ。仕方ない。ミキナに頼むから」

「そろそろ絞めるぞ」

 但し、何事にも妹が最優先だ。

 顔をしかめてロイゼンは言葉を吐く。

「このシスコンめ。僕は二の次か」

「当たり前」

「…………」

 彼は無感動に微笑んだようだった。

「あいつの喉を潰しといて。ジノ」

 残酷で、利己的で、誰よりも仲間に対しての思いが強い。肩に背負うものの重さは、俺にはわからない。




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