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無音の魔術師  作者: 芹沢十嘉
第二章 学園
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断章.僕と綿花の冒険


  僕は、森の中で綿花と散歩をしていた。辺りは雨上がりで湿っていたが、歩きにくいことは無かった。

「一本くらい、倒してもいいよね。どうせまた生えるだろうし」

 足場を確認して、木の幹に蹴りをいれる。鈍った体には丁度いい運動だ。

 数発蹴れば、木の幹はひびが入って倒れた。鳥が数羽、飛びだったが、それだけだ。

 僕の脚力だけで倒した訳でもない。

「これで魔術が使えればな。そうだろ?」

「きゅきゅ」

 今の蹴りには魔術を流し込んだ。魔力は、魔術を扱うためだけではなく、体力や筋力など、身体もサポートさせることにも使える。それには訓練が必要で、しかも魔力の消費量が多い。

 つまり、凄く燃費が悪い。だから、僕は接触する瞬間に魔力を流す。

「魔力を使わないジノは化け物だし」

 ついでに、僕は魔術と相性が悪いらしく、使えない。

 それよりもこんな所に僕がいるとばれたら、ルドニークとヘンリーに怒られると思う。否、確実に怒られる。

「綿花、パン食べるかい」

 帽子の上には綿花の特等席だ。パンを千切って綿花に食べさせる。

「きゅー!」

 突然、綿花が鳴き出した。辺りを見回すと、馬に乗った小さな子が猛スピードでかけて行く。亡命者だろう。

「後でヘンリーに言っとくか」

「きゅ、きゅー」

 しかし、その子が走り去っても、綿花は鳴きやまなかった。むしろ、余計にパニックになっているような。

「綿花、どうしたんだい?」

 綿花を抱き上げて、顔を見るが、勿論動物の表情はよくわからない。

「ん? なんか怖いのかなぁ」

 確かにさっきから地面が揺れているが、工場近くや、工場都市などでは、いつもの事だったし、気にするほどの事でもない気がする。

「ぅめー!」

「何がおいしいの?」

 振り替えったら、綿花そっくりの羊。

 その一匹に続いて、大群が押し寄せてきた。

「て、天羊じゃないかぁ……。良かったな、綿花とお友達に……なれませんよね」

 僕は綿花を抱き締めたまま走り出すも、天羊の波に飲まれたのでした。

 どこまで流されるのだろうか。


××××××


 空は、過ぎていく。

 それでもって、下はモフモフだ。

「ふむ、意外と乗り心地いいな」

「きゅ…………」

「おー、我が国の兵士たちが見えるなぁ。綿花、みんな口が大きいね」

「…………」

「ごめん。現実を受け入れる」

 ロテリアの兵たちは僕を見て何か叫んでいたが、どうしようもない。仕方ないから手を振っておいた。

 そういえば、ここはもうシャルル帝国内だ。

 敵地に丸腰の元王族。

 今、王族だったら、大変だった。

「あのー!」

「あぁ、幻覚が聞こえる」

「それは、幻聴ですよ!」

 声に振り返ると、同じく巻き込まれたらしい人物がいた。

 向こうは僕を知っているみたいだが、生憎こっちは知らない。

「ロイゼン様! お目にかかれて光えひっ……光栄です!」

「誰さ?」

 もう一回舌を噛めとか、思ってないし。怪しいから素性を聞いてやっただけだ。

 その青年は、人懐っこそうな笑みを浮かべ、叫んだ。

「ロテリア軍第一兵団所属の、ネッロ・ブレガです! 現在シャルルのスパイ中!」

「それは、言っちゃ駄目でしょ」

「何でですか?」

「僕も団員知らないんだから! 言っちゃ駄目でしょ!」

「だ、大丈夫です! 俺、幸運の男ですし!」

「…………」

 彼は至急に兵団を抜けるべきだと、ごく自然に考えた。どう考えても、馬鹿ではないか。

 僕は、叫んでいるネッロを放置し、しばし空の景色を満喫することになった。

「そういえば、ロイゼン様は何をしているんですかぁ?」

 見てわからんのか、こいつ。

「流されてるんだよね。助けてくれない?」

「あぁ、駄目ですよ」

 ネッロは、急に真面目腐った顔で僕を見つめた。

 なんとなく、緊張感が走る。そう言えば、こんなんでも、第一兵団の団員だ。シャルルでは彼らの助言を聞くべきだろう。

「流れには、身を任せるしかありません」

「……アドバイスありがとう」

 彼らの話は二度と聞かない。


××××××


 さて、夜が明けてほんのり暁色の羊の上で、僕は目を覚ました。

 目の前に巨大な壁が見える。一応壁の中は皇族領だったはず。

「流石に、軍が張り付いてるね」

 しかし、門周辺のみだ。一度追い払われた羊は、少し移動し、森の中から門を乗り越えた。

「おぉ! 田舎だなぁ」

 町が広がっていると思いきや、また同じような風景。時々村が見える。

 しばらくすると、巨大な建物が見えた。子供の声が聞こえる。微かに青みがかった白い壁。

「……お城?」

 まあ、後で分かったけど、お城ではなかった。

「綿花、僕、もう少し可愛い子と巡り会いたかったな」

「きゅ?」

「なんか、まっしぐらに向かってるよ。あの建物に」

「…………」

「ジノは元気かなぁ……」

「……きゅー」

「こんなことなら、アリスティをナンパしときゃ良かったなぁ。からかう方が面白いけど、なんか散り際の心残りだ」

 僕は、運命には抗わない派だ。革命は、運命だったんだよ、多分。ミキナにも会いたかったな。

「…………」

「………………」

「ま、こんなにあっさり散れたら幸せだよね」

 迫り来る建物に、ため息をついてやったのだった。



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