断章.僕と綿花の冒険
僕は、森の中で綿花と散歩をしていた。辺りは雨上がりで湿っていたが、歩きにくいことは無かった。
「一本くらい、倒してもいいよね。どうせまた生えるだろうし」
足場を確認して、木の幹に蹴りをいれる。鈍った体には丁度いい運動だ。
数発蹴れば、木の幹はひびが入って倒れた。鳥が数羽、飛びだったが、それだけだ。
僕の脚力だけで倒した訳でもない。
「これで魔術が使えればな。そうだろ?」
「きゅきゅ」
今の蹴りには魔術を流し込んだ。魔力は、魔術を扱うためだけではなく、体力や筋力など、身体もサポートさせることにも使える。それには訓練が必要で、しかも魔力の消費量が多い。
つまり、凄く燃費が悪い。だから、僕は接触する瞬間に魔力を流す。
「魔力を使わないジノは化け物だし」
ついでに、僕は魔術と相性が悪いらしく、使えない。
それよりもこんな所に僕がいるとばれたら、ルドニークとヘンリーに怒られると思う。否、確実に怒られる。
「綿花、パン食べるかい」
帽子の上には綿花の特等席だ。パンを千切って綿花に食べさせる。
「きゅー!」
突然、綿花が鳴き出した。辺りを見回すと、馬に乗った小さな子が猛スピードでかけて行く。亡命者だろう。
「後でヘンリーに言っとくか」
「きゅ、きゅー」
しかし、その子が走り去っても、綿花は鳴きやまなかった。むしろ、余計にパニックになっているような。
「綿花、どうしたんだい?」
綿花を抱き上げて、顔を見るが、勿論動物の表情はよくわからない。
「ん? なんか怖いのかなぁ」
確かにさっきから地面が揺れているが、工場近くや、工場都市などでは、いつもの事だったし、気にするほどの事でもない気がする。
「ぅめー!」
「何がおいしいの?」
振り替えったら、綿花そっくりの羊。
その一匹に続いて、大群が押し寄せてきた。
「て、天羊じゃないかぁ……。良かったな、綿花とお友達に……なれませんよね」
僕は綿花を抱き締めたまま走り出すも、天羊の波に飲まれたのでした。
どこまで流されるのだろうか。
××××××
空は、過ぎていく。
それでもって、下はモフモフだ。
「ふむ、意外と乗り心地いいな」
「きゅ…………」
「おー、我が国の兵士たちが見えるなぁ。綿花、みんな口が大きいね」
「…………」
「ごめん。現実を受け入れる」
ロテリアの兵たちは僕を見て何か叫んでいたが、どうしようもない。仕方ないから手を振っておいた。
そういえば、ここはもうシャルル帝国内だ。
敵地に丸腰の元王族。
今、王族だったら、大変だった。
「あのー!」
「あぁ、幻覚が聞こえる」
「それは、幻聴ですよ!」
声に振り返ると、同じく巻き込まれたらしい人物がいた。
向こうは僕を知っているみたいだが、生憎こっちは知らない。
「ロイゼン様! お目にかかれて光えひっ……光栄です!」
「誰さ?」
もう一回舌を噛めとか、思ってないし。怪しいから素性を聞いてやっただけだ。
その青年は、人懐っこそうな笑みを浮かべ、叫んだ。
「ロテリア軍第一兵団所属の、ネッロ・ブレガです! 現在シャルルのスパイ中!」
「それは、言っちゃ駄目でしょ」
「何でですか?」
「僕も団員知らないんだから! 言っちゃ駄目でしょ!」
「だ、大丈夫です! 俺、幸運の男ですし!」
「…………」
彼は至急に兵団を抜けるべきだと、ごく自然に考えた。どう考えても、馬鹿ではないか。
僕は、叫んでいるネッロを放置し、しばし空の景色を満喫することになった。
「そういえば、ロイゼン様は何をしているんですかぁ?」
見てわからんのか、こいつ。
「流されてるんだよね。助けてくれない?」
「あぁ、駄目ですよ」
ネッロは、急に真面目腐った顔で僕を見つめた。
なんとなく、緊張感が走る。そう言えば、こんなんでも、第一兵団の団員だ。シャルルでは彼らの助言を聞くべきだろう。
「流れには、身を任せるしかありません」
「……アドバイスありがとう」
彼らの話は二度と聞かない。
××××××
さて、夜が明けてほんのり暁色の羊の上で、僕は目を覚ました。
目の前に巨大な壁が見える。一応壁の中は皇族領だったはず。
「流石に、軍が張り付いてるね」
しかし、門周辺のみだ。一度追い払われた羊は、少し移動し、森の中から門を乗り越えた。
「おぉ! 田舎だなぁ」
町が広がっていると思いきや、また同じような風景。時々村が見える。
しばらくすると、巨大な建物が見えた。子供の声が聞こえる。微かに青みがかった白い壁。
「……お城?」
まあ、後で分かったけど、お城ではなかった。
「綿花、僕、もう少し可愛い子と巡り会いたかったな」
「きゅ?」
「なんか、まっしぐらに向かってるよ。あの建物に」
「…………」
「ジノは元気かなぁ……」
「……きゅー」
「こんなことなら、アリスティをナンパしときゃ良かったなぁ。からかう方が面白いけど、なんか散り際の心残りだ」
僕は、運命には抗わない派だ。革命は、運命だったんだよ、多分。ミキナにも会いたかったな。
「…………」
「………………」
「ま、こんなにあっさり散れたら幸せだよね」
迫り来る建物に、ため息をついてやったのだった。




