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無音の魔術師  作者: 芹沢十嘉
第二章 学園
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断章.己が道を行け


 あいつは化け物だ。

 どうして奴を殺さなかったんだ。

 あれの所為で、自分たちがどれだけの被害を受けたことか。

 白き森にいるロテリアの軍人さんは、いつもそんなことを話している。

 だけど、誰も、何も言わない。

 僕の兄を悪く言っているのに、誰も、何もしない。

 ゼシカは一年くらい待っても、帰ってこなかった。約束してたのに、会いに来なかった。

 待っていたけど、会えなかった。

 会いたいのに、会えない。

 僕は、八歳になっていた。


××××××


 外を眺めると、雨が降っていた。ゼシカがいなくなったのは、雪が降っている寒い冬だった。金髪のエルフたちに連れて行かれて、帰ってこなかった。それから人間が森に来て、ゼシカは森の外に行ってしまったらしい。


『オリガ様、誰とも話したがらないらしいぜ』


『そりゃあ、小さい頃に色々あれば、ああなるさ』


『良く笑う子だったのにな』


『兄貴の無愛想が移ったのかもな』


 また、みんなが僕の兄を悪くいっている。あいつらにわかるわけ無いのに。

 ゼシカは、優しかった。

 子供だからと僕を甘やかしてくれなかったし、それでも、しっかり僕の兄だったんだ。

 僕は、ロテリアの人が大嫌いだ。

 いつかこいつらの為に戦うなんて絶対に嫌だ。

「……ゼシカに、会いに行く」

 僕は大きくなった。ゼシカ程じゃないけど、魔術だって使える。馬にだってもう一人で乗れる様になった。

 今なら、出来る。

 少し大きめのバッグは用意してある。平民の服も、使用人から貰ってある。数日分のご飯に果物やビスケット。お金も今まで貯めた分が沢山ある。

 長く伸びた髪は縛ってある下から、ハサミで切り落とす。

 帽子を深く被って、窓を開ける。魔術を使えば行ける筈だ。

 その時、ドアが開いた。

「……!?」

「オリガ」

 それは、お父様だった。

 目を見開いたお父様は、少し瞬きをしてから、呟いた。

「平民ごっこか。似合っているぞ」

「え? あ、うん!」

 手招きするお父様に近付くと、首にペンダントをかけられた。メフィルスの紋様が彫られた、お父様のペンダントだ。


「己が道を行け、信じたものを疑うな」


「お父様?」

「エルフの教えだ」

 そしてお父様は、もう一つ、僕に手渡した。

「これって」

 木彫りのうさぎ。ゼシカの部屋にあったやつだ。

 お父様は僕を抱き締めると、頭を撫でて立ち上がった。

「……」

 そして、何も言わずに部屋を出ていった。


××××××


「良かったのか、ヨハン」

 次の日、オリガはもう、いなかった。馬小屋から、一番気に入っていた馬がいなくなっていた。

「あいつも、自分の行動に責任くらい持てるでしょう」

「全く、お前は本当に子供に厳しいな」

「あなたは甘過ぎるのでは」

「ははは、違いない」

 武器をそろえ、ロテリアの軍服に身を包む。窓の外を見れば、エルフたちはみな、同じ軍服を着ていた。

「手元から子供が去っていった同士、背中を守り合わないか?」

「あなたを守るのは我々の役目ですが」

「アサラベル家は終わりだよ。メフィルスも、なんだろう? ペンダントをしていない」

 外に出れば、出兵準備の済んだエルフたちが集まっていた。雨上がりの地面はぬかるみ、気持ちが悪い。

 集まりの端の方で、イヴァン様は立ち止まる。

「ヨハン、お前は不器用な男だよ」

「……」

「己が道を行く奴だよな。ゼシカを使用人にしたのは、ハーフエルフである彼が兵士になるのを避ける為だろう」

「別に。……ただ、人手が足りなかったんですよ」

「そうか」

 オリガは、無事に国境を越えられただろうか。ゼシカの行る場所は知っているのだろうか。

「二人とも、大丈夫だ」

「…………」

 彼が隣にいて良かったと、今は素直に思える。

 願わくば、戦場で我が子と相見えないことを。


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