断章.会いたい人
暗い緑かがった髪、同じ色の瞳。お父さんと同じ、ハーフエルフ。
ベッドに横たわる、傷だらけの少年は、ずっと何かにうなされていた。
「何が、あったんだ……」
傍らのお父さんは顔色が悪くて、お母さんは、そんなお父さんを心配そうに見ている。
苦しそう。辛そう。
私は彼の手を握ると、大丈夫だよ、と囁く。
握り返してくることは無かったけど。
××××××
ゼシカくんは、働き者だ。
怪我が少し良くなったと思ったら、村に出て、お手伝いを始めた。
意外と行動力があるみたい。
「今日も手伝いに行くのね?」
彼は軽く頷いた。
余り感情を出さないゼシカくんは、木や草花を見ると顔を綻ばせる。
初めは少し怖かったけれど、直ぐに良い人だと分かった。
「私も行って良い?」
すると目を見開いた後、苦笑して頷いてくれた。まるで、面倒見の良いお兄ちゃんみたいな表情だ。
傷付いている彼の優しさに、私は甘えているんだ。私たちが恩人だから、愛想良くしてくれているのかも知れない。
私は、胸の前で手を握りしめる。
それでもドクドクと心臓が音を立てているな、と思った。
背の高めな私よりもまだ、背の高いゼシカくんと並んで歩く。
彼は話すことが出来ないから、私が一方的に話しかける。見上げると、彼の髪の毛が風にふわふわ揺れていた。
彼はたまにメモ帳で気になることを聞いてくるが、基本は私の話を聞いているだけだ。
私の方は向かない。
でも、時折綻ぶ横顔を見るだけで、私は充分だった。
××××××
「ありがとうね、二人とも」
「いえいえ。いつもお世話になっているし、おあいこよ」
でもおばさんは、クッキーをくれた。美味しいから大好きだ。
私はゼシカくんを引き連れて、少し歩く。この季節は日向にいた方が、良い。
「……」
「どうしたの?」
彼の視線の先には、家があった。もっと言うと、弓矢が壁に立て掛けられていて、どうやらそれを見ているらしい。
ゼシカくんの口が動いた。
「………………」
誰かの名前だ、と分かってしまった。
あまりに寂しそうな表情だから。
あまりに愛しげな瞳だから。
「会いたい人、なのね」
思わず呟けば、目を見張ったゼシカくんを見れた。
どんな人なのだろうか。彼の会いたい人は。俯いた彼に、笑いかける。
すると、ゼシカくんはメモ帳に何かを書いて、私に見せた。
「アリスティさんって言うんだ」
「……」
「好きなのね」
するとゼシカくんは勢い良く首を横に振った。
頬が微かに赤いから、あまりに説得力はなかったけれど。不満げに私を睨む。
『彼女は、俺が仕えていた人です。別に、好きとかそう言える対象ではない』
また、無表情に戻ったゼシカくん。だが、その言葉が、どこか言い訳めいているのを私は感じた。
「でも、会いたいんでしょう?」
「…………」
ゼシカくんは溜め息を吐くと、微かに苦笑した。
認めたのか、私がしつこくて呆れたのか、それ以外か。
ゼシカくんは、また何かを書いたメモ帳を私に渡すと、歩いていってしまった。
『特に俺の好みではなかった。だが、彼女の金髪は誰よりも、綺麗だった』
私の入る隙は無いな、なんて、思わせるには充分だった。
そして同時に、私がどうして、彼の会いたい人が気になったのかを分かってしまい、居た堪れない気持ちになってしまった。




