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20/24

Anguish of heresy

…………………………

………………………………………


Matoba's side_


 村人から俺に向けられる奇怪な視線に慣れない。

 そんな事を思いながら、咲夜達が待つ旅館へと足を進める事、ニ十分。

 あの現場の諸々の後処理が終わって、もう時刻は16時を回っている。

 慧音さんに大口を叩いたが――――正直に言おう。

 

 策など何もない。


 いや、正確にはこれからすべきことは大体検討はついている。

 村全体の軍備の向上。

 そして、『賢者』とやらへの意見具申。

 ……まぁ、口で言うのは簡単だが、事はそれほど単純ではない。

 特に、幻想卿の管理側と対面など、今想像しても胃が痛くなる。

 俺はいつから政治家になった?


 ……こんな感じで、これからの行動は全くまとまっていない訳だ。

 出しゃばり……を通り越して、分不相応と言うのは十分承知している。

 だが、俺はどうしてもこの人里の軍事を掌握……いや、政権にすらも唾を付けておく必要がある。


 俺は咲夜に、『日本政府の幻想卿介入』を提案した。

 が、甘かった。

 あれから少し妖怪について聞いて回ったが……強力すぎる。

 鬼を一匹駆除する74式クラスの二世代戦車がいる。吸血鬼を一匹駆除するのに旧アパッチクラスの攻撃ヘリがいる。

 歩兵? お話にならない。低級妖怪に向け、砲で地域射撃からの制圧行動が精々だ。


 まぁ兎に角、人類が……いや自衛隊でさえ負けるとは思えないが、妖怪を殲滅するまでに何人死ぬ?

 これほどまで、不可解で強力な種が『博麗大結界』とやらの薄皮一枚で日本に押し込められているのだ。

 そんな連中がもし、日本で暴れてみろ。

 第一、自衛隊は国内の揉め事にはテロ意外ノータッチだ。同和(偽右翼)絡みのウヨとサヨと法律がうるさい。

 そして、万一動けたとしても、国内有事時の指揮系統が貧弱なのでやっぱり死人が量産される。

『自衛隊は軍隊ではない』のだから仕方がない。クソ笑えるけどな。

 

 妖怪からの直接被害だけじゃない。

 幻想卿には魔法やら霊力やらよく分からん資源 (になるかもしれない)エネルギーがしこたまある。

 E=mc²の公式が生まれると人間は原子力発電より先に核弾頭を作った。

 まぁそういう事だ。人間は新しい物は、とりあえず軍事利用する癖がある。

 その『新しい物』が世界的に見て、均一に入手できるならいいが、幻想卿は日本にしかない。

 戦争の原理は資源と金の奪い合い。

 日本が戦場になる……かどうかは知らんが、いい結果にはならない可能性が高い。

 新兵器出来たけど日本の人口一億切りましたとか……、嫌だぞ俺は。


 つまり、俺の本当の目的は『幻想卿の人間が外界に援助を求める事を阻止すること』だ。

 幻想卿の人間には悪いが、俺の親や友人が死ぬ確率が跳ね上がる事の方が嫌だ。


…………………………

…………………………………


「遅かったわね。どうだったの?」 

 俺が旅館に戻り、咲夜達の部屋を訪れる。

 目の前には、当の咲哉が座敷に座って茶を飲んでいる。

「……駄目だったよ。最悪だ」

 俺はそう言って八九式と装具一式を床に置いた。

「……そう。残念だわ」

「あぁ。フランさんは?」

「奥の部屋で、まだご就寝中よ。静かにお願い」

「おい、まだ寝てんのかよ……。大丈夫か?」

「見ず知らずの土地だもの。お体は兎も角、精神的に緊張してたんでしょう」

「それもそうだな。……じゃ、俺も少し休むわ」

 俺はそう言って、畳の上に横になった。

 だが……、


「ちょっと待って。そのまま寝るの?」

 咲夜の声に閉じかけた目を再び開いた。

 何やら不満そうな声色だ。

 無視して寝てやろうかと思ったが、後々めんどくさそうだったので嫌々応答してやる。

「何だ? 昨日は徹夜だったから眠い。後でいいか?」

 そんな俺に、咲夜は神妙な表情で一言。


「………お風呂入ったら?」


「………………臭い?」

「……生乾きの洗濯物の匂いがするわ。プラス煙草の匂いね」

「………………………………………」

 基本的に自衛官は、演習中は風呂に入らない。

 歯も磨かない。

 で、そんな状況の中、一週間生活するのなんかザラである。

 ……いや、歯を磨くのは個人の自由だが、そんな水があるなら俺は飲むね。

 そんな中で、戦闘行動や、各種作業を行うため演習中の自衛官は基本的に不衛生。 

 その結果、ゴキブリとか蝿とか寄って来るが、そんなもん熊とかスズメバチに比べたら友達である。

 今は演習中ではないが、それ以上に面倒な状況。

 自分の身なりに適当になるのは、仕方ない。


 ……まぁ、自分でも何を言いたいのか分からなくなって来たので、簡潔にまとめると……、風呂より寝たい。面倒くさい。

 

 しかし、咲夜と奥の部屋にはフランさんもいる。

 正直、フランさんは幼すぎるが、咲夜は滅茶苦茶美人なので『アレ』の対象になるかと聞かれれば、勿論YESだ。

 俺も男だから、そりゃもうフル勃✕よ。

 おう。

 まぁ、そんな女から『臭い』って言われたらなぁ。

 多少、……なんだろう? 心に刺さるモノがある。

 それに、咲夜は俺の境遇も理解してくれてるから、なんか申し訳ない表情で言ってきたしぃ。


「…………風呂入ってくるわ」

 俺はそう言って、背嚢の中から新しい迷彩服と下着、入浴セットを取り出した。

「えぇ、行ってらっしゃい。……それも持って行くの?」

 そう言って咲夜は八九式小銃を指した。

「おう。……俺の相棒だからな」

 本当は小銃なんざ、ただの仕事道具以外のなにものでもなかった。

 咲夜達を信用していないわけではないが、念には念を入れよう。

 この世界では、俺の一挙手一動がどんな結果に繋がるか分からない。


「……ところで、咲夜。一つ聞いていいか?」

「何かしら? 露天風呂なら……」

「いや、そうじゃなくて……、うまく言えないんだが……」

「?」

「他人の……、姿を真似る妖怪とか、魔法とかは存在するのか」

「……いきなりね。……そうね、妖怪だったら『鵺』とかじゃない? 魔法はよく分からないわ」

「ヌエ?」

「えぇ。後で教えてあげるから、早くお風呂に行って来なさい」




…………………………………

………………………………………………


 身なりを整えた俺は、部屋に戻る前に適当な屋台で握り飯八つを腹に押し込み、その後泥の様に眠った。

 正直、この幻想卿を訪れて一番テンションが上がったのは、恐らくこの瞬間だ。

 今、俺のストレスは最高潮に達している。

 あと二十時間もしない内に西村司令に面会し、多分その場で思いついたであろう戦術の能書きを垂れないといけない。


 妖怪共に、戦争を仕掛ける準備をする為に。


 取り敢えず、当面の目標は『里の軍事権の掌握』だ。

 その為には、必要以上に自分を大きく見せなくてはならない。

 ………かなり、荷が重い。

 だが、一旦夢の世界へ逃げてしまえば、知ったことではない。

 

「……………あ。しまった!!」


 そして、こちらの世界に戻って来たのは、ほんの数分前。

 時刻は0645。つまり午前六時四十五分。

 覚醒し、寝ぼけ眼で盛大な小便をかまそうとした俺は、驚愕の事実を目にする。 


「な、何ゼン君!? どうしたの?」

「……約束ごとに遅刻でもしたの? しっかりしなさいよ、あなた軍人でしょう?」

 俺のその声に応答があった。

 フランさんと咲夜だな。

「違うわ。西村司令との面会は1800からだ。昨日言っただろ」

 俺がしかめっ面でそう答えると、咲夜も同じような顔でため息をついた。

「はぁ……。じゃあ何よ?」

 俺は神妙な表情で咲夜を見つめると……、

「死活問題だ」

「なんでよ? さっさと吐きなさい。事によっては協力してあげなくもないわよ」

「……いや、男ってさ、起床してすぐにはションベン出来ないじゃん。で、『収まるまで』タバコ吸ってようかと思ったんだが……」

「ねー、咲夜。男の人って起きたばっかりの時はおしっこ出ないの?」

「……………………………………え? い、妹様……あぁ、えぇと……」

「ねーねー、何で? 咲夜ぁ?」

「………………………………………………………………………………。的場ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ちょっ、バカ野郎! 不安定な人かお前は!? ナイフをしまえ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 立つな、座ってろ!!」

「45口径だ」

「黙れ!!」


 で、完全にヒスった咲夜をフランさんと二人がかりでなだめるのに十分を要した。

 その間、『変態』やら『セクハラ野郎』やら『22口径 完全被甲弾(フルメタルジャケット)』などと酷い事をいわれた。

 

 あー……ぶっちゃけ言って……………クッソ面白かったけどな。

 俺は朴念仁じゃねぇ。

 勿論わざとよ。

 いやー、仕事した。仕事したわぁ(笑)。

 だがあまりやり過ぎると、命と45口径が失われかねない。

 ……使いどころが肝心だな。


 顔を真っ赤にして怒る咲夜。それを笑いながら止めようとするフランさん。

 何だかんだで、今はすごく楽しい。

 だが何故だろう? 


 ……少し泣きそうになった。

 

 あぁ、本当は戦争なんてしたくない。

 痛いのは嫌だなぁ……。

 まだ死にたくねぇ……。




……………………………………………

………………………………………………………………


「……我慢しなさいよ」

「死活問題だって言っただろ。タバコはこの世界で唯一の俺の楽しみなんだ」

 そう、勃✕が最大射角になった俺が、タバコのパッケージを取り出したはいいが、残り二本しかなかった。

 西村司令との面会まで時間はある。

 汚れた迷彩服と下着を適当に洗濯し、咲夜にその事を相談してみた。

 そして案内されたのが……、

「またここに来るとはな……」

「ねぇ、ゼン君。なにここ? 倉庫?」

「倉庫って……。ここは香霖堂。一応お店ですよ」

「……えー……。何屋さんなの?」

「…………さぁ? しかし、こんな所にタバコあるのかねぇ」

「こんな所って……。葉巻なら村の雑貨店にあるけど……」

「バァカ、あれは肺に入れないだろ。邪道もいいとこだ。俺はタバコが欲しいんだ。じゃなきゃ、こんな陰気臭いとこにはホイホイ付いてこない」

「……? 的場、もしかして香霖堂を知っているの?」

「あぁ、一度来た事がある。ここの店主とも知り合いだ」

 俺のその答えに、十六夜は訝し気に眉を寄せた。

「………どうやって? 博麗神社から移動して来たのは前に聞いたけど、それなりの距離があるし、妖怪も出るのよ?」

  ………………そう言えば、そうだな。

 よく無事だったもんだ。



 …………………………………何だ? この違和感は?

 



「まぁ、無事に生きてるんだからいいじゃねぇか」

「的場、あなたはどうやって紅魔館に侵入したの? それも窓から……。それに、亀に乗って来たってどういうこと?」

 まったく、この女は何を言っているんだ?

 たった数日前のことだ。もう忘れたのか……。


「はぁ? 何を言ってんだ。俺が紅魔館の窓から侵入した? バカ言うな。ちゃんと客として迎え入れてもらっただろうが」

 何だろう。

 ひどく頭痛がする。


 俺の言葉に、咲夜どころかフランさんさえも困惑した表情を作る。

「……ゼン君?」

「ちょっとあなた、大丈夫? ちゃんと窓のお金、払ってくれたじゃない」

 待て、何かがおかしい。

 俺はもとより、彼女たちがふざけている様には見えないが……。

「おいおい、しっかりしろよ二人とも。ちゃんと紅魔館案内してくれただろ。……誰だったか? あー……そうだ、門番の紅さん。紅 美鈴さんが案内係で」

「……え?」

「その後、ノーレッジさんとこの図書館で小悪魔さんと話して、スカーレットさんとアールグレイ飲んだろ。しかし、ホフゴブリンだったか? 彼にはビビったね」

「的場、あなた一体……」


「おいおい、人の店の前で騒がしいな」


 第三者の声が店先から聞こえ、背の高い(俺と同程度)優男が姿を現わした。

「霖之助さん……」

「よう、森近」

「………………誰?」

 咲夜、俺そしてフランさんの声が重なった。

 彼、森近 霖之助は気だるそうに後頭部を掻きながら頭を垂らした。

「いらっしゃい。ようこそ香霖堂へ」


…………………………………

……………………………………………………


「何だこれ? 吸えんの??」

「あぁ、問題ないよ。たかだか二十年前のタバコだ」

「……二十年って。肺が腐ったらどうすんだ。 も-ちょっとさぁ……こう……何というか。……新し目なのないのか? 俺は健康志向なんだ」

「………止めてしまえ」

「やだ」

「……ま、ないことはないが……、値は張るよ?」

「あぁ、それでいい」

 俺はマイルドセブンのカートン四箱と二円を交換し、安堵のため息を付いた。

 ……何か所々破けて、パッケージがえらい濁っているが……、文句は言うまい。


「しかし、的場君。数日も経たない内に、何があったんだい?」

「んー?」

 俺はカートンを雑納に収納しながら、気のない返事を森近に返した。

 すると彼は、カウンターの裏にある椅子に腰掛け、読みかけの本から目を離さないまま、人差し指を伸ばした。

 その先にはフランさんと咲夜の姿があった。

 咲夜は兎も角、フランさんは店の商品を興味深げにいじり、時たま困惑と興奮が入り混じった笑顔をみせる。

「咲夜とは顔見知りだが……もう一人は、正直おどろいたよ。悪名高い『悪魔の妹』が、君のツレとはね」

「あぁ、まぁ成行きだ。確かに、ちとヤバイとこはあるが……話してみればかわいいもんよ。あんまり邪見にしないでくれよ?」

「そんな事はしまいさ。僕にとって、お客様は全員神様だからね」

「なら良かった」

 俺は森近がいるカウンターの前に立つ。

 そして、何も言わずに背嚢から人の頭ほどの大きさを持つ風呂敷を取り出し、その中身を一瞬森近に見せた。

「さすがは外来人。金持ちだね」

「茶化すな。詮索も無しだ」

「失礼。しかし、これは太客だ。……何をご入用かな?」

「武器が欲しい。『俺の世界』の、とびきり強烈なやつだ」

 森近は思慮深げに俺の顔を見上げてくる。

 この札束の山を見ても完全な能面。

 感情が見えない。

 くえない野郎だ。

「……いいよ、応じよう。ただ、一つ条件がある。今から君が見るものは一切他言しないでくれ。お互い、色々あるだろ?」

「分かった、任せろ。……咲夜、フランさんを暫く頼む」

 俺はさり気なく咲夜の側に立つと、そう耳打ちする。

「アナタに言われなくてもそうするわ。……あんまり悪い事はしないことね」

 一瞬、先程の会話を聞かれていたのではないかと危惧したが、彼女はフランさんの方を向いたまま、意地悪気に微笑んでいる。

 ……んだよ、ただの皮肉か。

「オトナの付き合いだ。一緒に来るか?」

「嫌よ、気持ち悪い。さっさと行って来なさい。霖之助さんにあまり迷惑かけちゃダメよ」

「あぁ、『あまり』迷惑はかけんよ」

 ……盛大に迷惑をかけるかもしれんが。



…………………………………

……………………………………………………


「……マジかよ。ここに入るのか? 何か変な害虫とかいないだろうな?」

「……的場君。毎回思うが、君が軍人だと言う事を忘れそうになるよ」

「うるせー。俺も人間なんだ。キモイもんはキモイ」

 香霖堂から徒歩一分ほどして、俺は……何かよく分からん掘っ立て小屋みたいなとこに連れ出された。

 入り口を開けると、何か全体的に暗くて薄暗い。もう冬に片脚を突っ込んでいる季節なのに、何かジメっとしている。

 ここで暮らすくらいなら……なんかもう、掩体とかの方かましだな。

 まぁ文句は兎も角、更にその地下があり、俺は今階段を嫌々下っているところだ。

 次第に薄暗くなって行ったので、俺は私物のライトを点けた。

「うぉ!? まぶしい! 的場君、何だそれは?! 消してくれ!」

「ん? おぉ、わりぃ」

 あ。

 間違ってシュアファイアーつけちった。

 L字ライトは……あった。

 先程誤って点けたライトはタクティカルライトの類なので、すこし……光力が強かった(1000ルーメン)。

 で、このL字ライトは30ルーメン位の明るさなのでオメメにも優しい。

「勘弁してもらいたいね。危うく失明するかと思った」

「……大げさだろ。目に直射したわけでもないのに……」

 そんなこんなで、俺は黙々と森近の後に続く。


 そして――――――


…………………………………

…………………………………………………


izayoi's side_


「……なにこれ? こけし? 何に使うの?」

「……………………」

「ねぇ、咲夜ぁ。聞いてるの?」

「………………………………………」

「ちょっ、ちょっとぉ……。無視しないでよ!」

 何となく気の抜けたフランドールの声に、咲夜は相変わらずのしかめっ面をかましている。

 ありてい言うと、咲夜は今滅茶苦茶機嫌が悪い。

 どうもこうも、発端はフランドールが右手に持っている商品だ。

 フランドールは『こけし』と勘違いしているが、これはどう考えても……。

「妹様」

「ん?」

「もしかして、ワザとやってます?」

「? え?? な、何を? 咲夜なんか怖いよ?」

 フランドールの反応を見て、咲夜は大きくため息を付いた。

 今回、的場はセーフだが、霖之助はアウトだ。

 まさか店にこんな『いかがわしい物』を堂々と陳列しておくなど、どうかしている。

 後でヤキを入れておこうか……などと考える咲夜であった。

「はぁ、何で私の周りの男は変なのばっかりなのかしら……」


「そ、それにしてもゼン君達遅いね? 何してるのかな……」

 フランドールは、咲夜の緊線に触雷しかけた事を何となく察すると、さり気なく話題を変えた。

「さぁ、どうでしょうか。まぁ大したことはしてないでしょう」

 せせこましい奴だ、と咲夜は思った。

 どうやら的場はこの世界へ、過多な干渉をすることを望んでいる様には見えない。

 だが、それは軍人………いや、『自衛官』としてであって、彼個人としてはどうなのだろうか?

 そうでなければ、自ら妖怪と戦闘をしたり、人里自警団の幕僚と対面したりはしないだろう。

 そこが気がかりだ。

 一体、彼には何の思惑があって――――――――


「……咲夜」

「はい? 何でしょう、妹さ……」

 フランドールの声によって思考を遮られた咲夜は一瞬我に返り、そして数本のナイフを握りしめた。

 外から感じる禍々しい妖気。

 妖怪だ。近付いて来る。

「何かな!? 確かめに行こうよ、咲夜!!」

 咲夜が声を掛ける前に、フランドールは満面の笑みを浮かべて香霖堂の外へ飛び出してしまった。

「……あ、お待ちください妹様!」

 咲夜は急いでフランドールの後を追いかけた。

 入り口のドアを開き、周囲を見渡す―――――と同時に眼前に何かの肉片が降り注いだ。

「咲夜!! この人たち、遊んでくれるって!」

 フランドールの声が聞こえ、その方向に目を向けると、人型で体長三メートル超の妖怪が三体。

 彼らの種名は忘れたが、凶暴な種族だ。

 たまに森に迷い込んだ外来人を食べている。

 因みに、もう一体いたようだが、フランドールの側でひき肉になっている。

 咲夜は何も言わずにナイフを投てき。

 四本のナイフは寸分たがわず、妖怪の眉間に突き刺さる。

「すごーい! やっぱり咲夜のナイフ投げは見ごたえあるね」

「ありがとうございます」

 咲夜は慇懃に頭を下げるも、これからどうしようかと考えあぐねていた。

 相手はいわば力だけの種族だ。

 自分一人でも十分に対応できるし、フランドールの足元にも及ばないだろう。

 だが、妹様もなんだか喜んでいるみたいだし彼女に任せようか?


 などと考えた矢先、もう一体の妖怪の頭が盛大に破裂した。

「何あれ!? すごい、咲夜の新技?!」

「いえ、違います。……遅かったわね、貴方達」


 咲夜が声を送った先には、何かの道具を構える霖之助と、間の抜けた顔をして妖怪を見つめる的場の姿があった。


……………………………………

……………………………………………………


 matoba,s side_


「何だあれ? 気持ち悪いな……」

「近頃、僕の家に頓着している妖怪連中だ。鬱陶しかったし、処分できてよかったよ」

「……それは? 何かあの化け物の頭、吹っ飛んだが?」

「ミニ八卦炉。魔力の増幅装置だ」

「……それもくれよ」

「魔力の増幅装置だと言ったろ。君には持ち腐れだ」

 武器の補充を終えた俺は外に出ると、……なんかよく分からない状況下に置かれてしまった。

 

 血まみれで、超機嫌良さそうなフランさん。

 今しがた、妖怪をナイフだけで屠った咲夜。

 そして、謎のビームをぶっ放した森近。

 で、何かデカい妖怪。


 ………幻想卿は今日も絶好調だな。

 おう。


 そうこうしている内に、もう一匹の妖怪は踵を返すと、早々に逃げ出してしまった。

「参ったな……」

「放っときゃいいだろう」

「仲間を連れて来られたらめんどくさい。的場君、後は頼んだ」

「えー。自分でどうぞ」

「これは何回もポンポン撃てる代物ではないよ」

 俺達がうだうだやってる内に、咲夜とフランさんが近付いてきた。

「あら的場、用は済んだの?」

「帰ろうよ、私お腹空いちゃった」

「お、おう」

 たった今、種を越えた虐殺劇があったわけだが、彼女らはケロッとしている。

 大したもんだ。

「……帰る前に、もう少し僕に尽力してくれてもいいだろう?」

 森近はそう言って件の妖怪を指した。

 もう百五十メートルほど間隔が空いてしまっている。

 咲夜もフランさんも動かず、不平タラタラで帰る気満々だ。

 仕方ない、やってやるか。

 まぁ、森近とはこれからも長い付き合いになりそうだしな。


「……総員、耳を塞げ」

「? 何やってんの、ゼン君?」

 俺はその場に伏せ、近付いてきたフランさんを咲夜がやんわりと引き離した。







 待たせたな、八九式小銃。

 お前の出番だ。



 


 銃口を奴に指向し、弾倉を叩き込む。

 空砲ではない。弾倉から覗く、鈍色に輝く弾頭は5.56mm完全被甲の実包。 

 槓桿を引き、初弾を薬室に叩き込んだ。

 そして、金属がこすれ合う甲高い音は、『こいつ』の産声に聞こえた。

 俺が手中に握るのは、もはや棍棒変わりの鉄塊ではない。人類が五百年の歳月をかけ、『同類』を……『生物』を……ぶっ壊すためだけに生まれてきた『兵器』。


 切り替え軸を回転させ、射撃速度は『単発』。

 床尾をしっかりと肩に圧着させ、自分の顔が歪む程の頬付。

 照門を除き、照星を『目標』にあわせる。

 

 距離は二百メートル程までに開き、奴の姿は小指の爪程にしか見えなくなってしまった。

 だが問題ない。

 適性距離だ。

 何より……、奴は人間(普通の的)よりデカい。

 引き金のガク引きはせず、俺は奴の頭部に向け、ゆっくりと撃発をした。

 

 そして―――――――轟音。


 その銃声は、木々を――大地を――大気すらも震わせる怒号。

 魔力やら何やら、よく分からない力が支配するこの地に、質量兵器の強烈な主張が響き渡った。

 銃口から放たれた弾丸は、空気を切り裂きソニックブームを発生させ、六条右転腔線の恩恵を受け、ジャイロ回転をしながら突き進む。

 一度飛び出したらもう止まらない。

 射線上にあるものが、主にとって敵だろうが味方だろうが、関係ない。

 こいつの目的はただ一つ。

 


 そして、その弾頭は明確な殺意を持って妖怪に着弾する。


 その威力、1760ジュール。初速940m/s……。

 野球ボールが、時速540㎞でぶっ飛んで来るのと同等の衝撃力。

 弾頭は妖怪の頭に風穴を開けるには容易な力を持っていた。




「……効果有り。射撃終了」

 俺は安全装置を掛け、弾倉を取出し、槓桿を引いて薬室内を確認した。

 ……何か照準が微妙にずれている。

 胴体を狙ったが、頭に当たった。

 だが、結果オーライ。


 俺はポカンと銃と妖怪を眺め見ている三人に振り返ると声を上げた。

「終わったぞ、森近」

「……あ、あぁ。その、すごいなそれは。あんなに遠くの妖怪を……」

「ん? おう。あとな、銃が凄いんじゃない。俺の腕が凄いんだ」

 俺は全力のドヤ顔を決めると、薬室から取り出した実包を弾倉に戻した。





 






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