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「エロ兵士、頭さげてて」
博麗はそう言いって何処からともなく、一枚の紙切れを取り出した。
そして一歩足をまえにだすと、件の妖怪を睨み付ける。
それと同時に、博麗の持つ紙切れ(いや、札か?)が強烈な光を放った。更に、博麗を基点とし、辺り一帯の空気が歪み、風が渦を巻き始める。
「何だこりゃぁ!? おい、博麗! 手品ならあとにしろ・・・!! 退け、俺が決着着けてやる!」
俺は左手で目を保護し、右手で89式小銃の握把をこれでもかと握り、博麗に皮肉混じりの軽口を吐いた。
何でそんな事言ったのかって?
決まってんだろ! 納得いかないからだ!
俺は『大人』で『男』で、しかも『陸上自衛官』なんだ。
何故こんな小娘にのケツについてんだ!?
「吠えるな、エロ兵士! あんたがあれだけ攻撃しても、翠香は全く動じなかった。 出てこられても邪魔なだけよ!」
博麗はかなり切羽詰まった表情で、眼前の妖怪を睨みながら俺を一括する。
事実だけに、俺は歯噛みしながら何とか声を張り上げた。
「あ・・・・・・あぁ!? 舐めるな、まだだ・・・! まだ、銃剣がある!! お前の手品ごときに俺が・・・」
『負ける筈がない』
そう言おうとした瞬間、妖怪は動いた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
汚ぇ声だ。
地の底から這い出て来る、醜悪な魑魅魍魎のような声をしているクセに、姿はやはり幼女のままと来ている。
「手品かどうか、その目で見てなさいよ。何故、この世界の人間が・・・『補食される側の生き物』が、どうやって生を勝ち取って来たかを!」
博麗は大きく足を広げると、堂々と妖怪に対峙する。
奴はもうそこまで来ている。時間はない。
「御免なさい、少し眠ってて、翠香。・・・霊符ッ・・・!」
紙切れを振りかぶり、力強く前に出す博麗。
そして、
「 夢想封印!! 」
次の瞬間、俺は光に飲まれた。
いや、実際飲まれたのは例の妖怪であったが・・・。
その壮大な光景に、俺はだらしなく口を半開きにし、ただただ茫然としていた。
やがて謎の光源は消滅し、幼女姿の鬼は、激しく破損した境内に、うつ伏せに倒れていた。
その事に安堵している自分に、少し苛立ちを覚えながら、俺は博麗に声をかけた。
「やったのか・・・?」
「まだよ!! ついてきて!」
博麗はそう言って倒れて伏した鬼に背を向けると、神社の裏手へと走って行く。
俺はいまいち、現状を理解する事ができず、鬼を見ながら冷や汗を垂らしていた。
すると・・・
「う・・・あぁぁ・・・・・・」
「嘘だろ!?」
鬼が、立ち上がろうとしている。
博麗が放った、ムソウ何とか(夢想転生なら知ってるが・・・)のせいで、境内は壊滅状態だ。よって、 その威力の高さは容易に想像出来た。
だが、それを直撃したはずの鬼は、ゆっくり身を起こすと、片膝をついてこちらを睨んでいる。
「こいつまだ動けんのか!?」
俺は咄嗟に右腰の銃剣を引き抜き、順手に構えた。
「こら、馬鹿兵士! さっさと来なさい!」
しかし、いつの間にか戻って来た博麗が、俺の後頭部をシバき、再び自分についてくるよう促す。
・・・・・・痛い。
俺は舌打ちをして銃剣を鞘に納め、博麗の後をおった。
「はぁ、はぁ・・・」
「で、博麗!! 何処に行くきだ!?」
俺は少しスピードを上げ、博麗と並走しながら彼女に質問する。
だが、この女、荒い息を吐きながら死にそうな面で走るだけで意図がさっぱりだ。
走った時間は、体感的に2~3分程度。その間に俺たちは木々をかぎ分け、『この場所』にやって来た。
「ここは?」
俺は二回程深呼吸をして、乱れかけた呼吸を整えてから博麗に声をかけた。
「はぁ、はあ、・・・っさい。ちょっ、ちょっとゲホ待って」
博麗は顔を真っ青にしながら荒い呼吸を繰返し、膝にてをついている。
「運動不足だろ。もうちょい若頑張れよ、十代」 「黙れゴリラ」
「ゴ・・・、まぁいい。で、ここは何処で、お前は俺に何をさせたい?」
そう言って辺りを見回す。・・・と言っても、周囲には相変わらず草木と、藻で緑色には濁りまくった池しかなく、何故博麗が必死な顔をさらしてまで俺をここに連れて来たのか謎だ。
逃げるなら、もっと走らないと意味がないと思うし・・・はて?
そんな事を考えていると、息のが整ったらしい博麗は、池の方にユラユラと近づき、その場にしゃがみ込んだ。
「おい、落ちたら面倒だ。離れたほうが・・・」 俺は件の妖怪が来ていないか、後方に注意しながら博麗に声をかけた。
だが、彼女は俺の忠告を無視し、いきなり話始めた。
「出てきて。いるんでしょ?」
・・・池に向かってな。
「博麗。なんだかんだ世話になっといてアレだが、お前は本当に・・・その、いたたまれない奴だな・・・・・・マジで」
俺は突然の博麗の奇行に目を瞑ると、『強く生きろ』という意図を込めて、彼女の肩を優しく叩いた。
まぁ、案の定博麗は舌打ちをして、俺の手を払い除けると、今度はさっきより強い口調で、池に話かけて(笑)いる。
「早く出てきてよ! このままじゃあ、私危ない人でしょ! 早く・・・てか、マジで時間無いの、お願い・・・・・・っ、まだなのぉ? 頼むから早く来いやゴラァ!!」
だんだんヒステリックになって行く博麗を見ながら、俺はタバコに火を付ける。
これからど~しようか?
この女は、・・・放置だ。なんか危ねぇ。あの妖怪も彼女ならなんとかなるだろう。
俺は徐々に後退りしながら、背をむけ走り出そうとした。
その時-―
「お願い『もう一度』助けてよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・玄爺っっ!!」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「いてて・・・」
半壊し、砂塵で視界が悪くなった境内に、彼女ーー 伊吹 翠香の声が響く。
自身の衣服についた埃を払い、首の骨を鳴らすと、苦い表情で周囲を見渡した。
「もう、霊夢のやつ、容赦がないんだから」
「ふふっ、お疲れ様、翠香」
突如、翠香とは別の女の声が境内に反響する。
だが、翠香は慌てた風もなく、淡白に「どうも」とだけ述べた。そして、幾分不機嫌な様子で、声の主に話かける。
「異変解決の為とはいえ・・・。人を騙すのは大嫌いなんだ。今後、こんな役目は勘弁だよ」
「あらあら、本来実直な貴女だからこそ、現実性が増すんじゃない。それに・・・、案外本気で怒ってなかった?」
「当たり前だ! あの野郎・・・、人間にしては力強いし、急所ばかり狙って来るし、ついでに私が10年がかりで手に入れた日本酒を奪いやがったんだ!!」
「そ、そうなの? まぁ、お酒に関しては・・・、これが殆どの要因なのでしょうけど、許してあげなさいよ。彼の世界では、未成年の飲酒は禁止されているの。尚且つ、貴女は人間で言うところでの幼児の容姿だから・・・。きっと、貴女を心配しての行動なのよ。」
その声に、翠香はとてもバツの悪そうな顔をすると、気まずそうに後頭部をかいた。
「ふぅん、正義感故に、か・・・まぁいい。 で、いつまでスキマに引きこもってるつもりだい? 姿を見せな、『八雲 紫』」
翠香はがそう言った直後、『時空が揺らいだ』
それにともない、翠香の眼前にある風景の輪郭すらも不鮮明になり、その空間上に一本の線がはしった。
そしてーー
「やっぱり止めるわ」
辺りにそんな声が響き、『歪み』と『線』は翠香の前から綺麗さっぱりと消えてしまった。
「はぁ? なんだってんだ?」
翠香は肩透かしをくらい、腰が抜けそうになったのを何とかこらえると、独り愚痴た。
「御免なさい。だって、怖ぁい巫女さまがいたものだから・・・」
「なに!?」
翠香が焦ってうしろを振り向くと、そこには荒い息をを吐きながら迫って来る、博麗霊夢の姿があった。
「翠香、紫。話は聞いていたわよ。説明して!」