0>幕前:川のほとりで
第五幕最終節まで、あと30節。
●幕前 川のほとりで
Ⅲ
約束した川のほとりまで来ると、青年は止まったようにゆっくりと流れる川の水面を覗き込んでいた。
しばらく黙って様子を観察していたが、川面に映る自身の顔を見ているようだ。顔の角度を変えているので、いくつかの表情を試しているのかもしれない。
ふざけている訳ではなさそうだが、目的はわかりかねる。
――何をしている?
声をかけると、こちらの存在に気づいた青年は、後ろから見られていたことに気恥ずかしさを感じたのか、はにかむように笑った。
――練習です。
――練習?
――これから対決する相手と、どんな顔で向き合うのが、いいだろうって……。
――結論は出たのか?
――難しいですね。いくつか考えてみたんですけど、どれもピンとこなくて……結局、出たとこ勝負になりそうです。
青年は、緊張しているようでもあり、楽しみにしているようでもあった。
これから彼は、どうしても困ったときに、一生に一度しか使えない権利を行使しようとしている。
その権利に伴う代償と、重さについてはすでに説明済みだ。
撤回できるとしたら、今、この瞬間が最後だった。
――本当に、いいのだな? 言っておくが、確実に、失うもののほうが大きいぞ。
この最終審問に即答できた者は、知っている限り数名しかいない。
――はい、問題ありません。
青年はまっすぐな眼差しで答えた。その瞳には揺るぎない決意の色が宿っている。
こちらに任されているのは介添えであり、決断と選択は本人にしか許されていない。できるのは、あくまで手助けであり、場や流れを整えることのみである。
ならば応えるしかあるまい。
たとえ、どのような結末を迎えたとしても、その道行きを見届けることが与えられた役割なのだから。
読んでくださってありがとうございました。
ブクマ・ポイント・ご感想、すべてが力になります。
どうか、最後の風景まで見届けていただけますと嬉しいです。
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次節:第一幕 第一節「キズモノ」
5/23(土) 12:00 公開予定
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