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銀の乙女は愛されて  作者: リシエ
禁忌の森
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1 禁忌の森と灰色の塔

 王都の西には、果てしない広さを誇る原生林が横たわっていた。

 そこには猛獣がのさばり、数えきれないほどの毒草が群生している。人呼んで「禁忌の森」。建国から百五十年、幸いにして大きな被害は出ていなかったが、人々はその深い緑の奥底を本能的に恐れていた。

 かつて、森を挟んだ王領で王国史上初の「魔女の子」が見つかった際、その子が森を出入りしていたことがある。命知らずの大人たちが後を追って森へ足を踏み入れたが、発見された時には皆、獣に食い散らかされた無惨な姿に変わり果てていた。しかし、犠牲者が貧しい平民ばかりであったため、代官はその事実を握りつぶし、国へ報告することはなかった。


 やがて王都の人口が増え、居住区が手狭になると、王は禁忌の森の開墾を許可した。伐採された木材を王都へ流通させる権利は、強大な力を持つギルドの手に渡る。

 腕っぷしに自信のある平民たちは、日雇いの労力としてこぞって森へ入り、木々を切り倒していった。

 だが数ヶ月後、「森の奥深くに魔女の住処がある」という不穏な噂が代官の耳に届く。その真偽を確かめるべく、一隊の騎士が派遣されることとなった。


***


 夕暮れ時の禁忌の森は、不気味なほどに静まり返っていた。

 天を突くほどに高くそびえる巨木たちが空を覆い隠し、深い緑の天蓋が沈みゆく陽光を拒絶している。森の底には、どろりとした濃い影が這い寄っていた。


 「ルイ閣下! ご報告があります!」

 声を上げたのは、二年前、わずか十二歳という異例の速さで騎士に叙任された少年、ディランだった。彼は息を切らしながら、隊長であるルイのもとへ駆け寄る。

「どうした、ディラン。何を見た」

 ルイが足を止めると、中隊長のトーマや他の騎士、そして同行していた修道士も歩みを止めた。

「はい……塔を見つけました。この先の開けた場所に、とてつもなく巨大な石の塔が立っています」

 トーマ中隊長が空を見上げる。すでに日は傾き、森は夜の帳に包まれようとしていた。

「これ以上の深入りは危険です。ルイ閣下、皆様はこちらでお待ちください。私とディラン、ミルの三人、それにゾリュ修道士様で偵察に向かいます」

トーマはそう告げると、ディランたちを連れて影の深まる森の奥へと足を踏み入れた。


 辿り着いた先には、異様な光景が広がっていた。

 そこには見上げるほどの高さの石造りの塔が、ひっそりと、しかし確固たる存在感を放って立っていた。入り口らしきものは見当たらず、地上からかなりの高さの位置に、かろうじて扉ほどの大きさの窓が一つあるきりだ。

「……信じられん。入り口がないだと? それにこの高さ、一個人が所有するにはあまりに異常だ」

 トーマが唸るように漏らす。巨木に迫るその塔は、周囲を威圧するような静寂を纏っていた。ディランは長い制服の裾を握る。白地に刺繍された騎士団のシンボルの赤色は、夕方の光線の下なのにやけに目に刺さる。

「ディラン、お前の目は確かだ。だが、ここに何者かが住んでいるのだとしたら……それは到底、人間とは思えん」

 トーマが隣のゾリュ修道士に視線を向けると、修道士はゆっくりと首を振った。

「いいえ、トーマ閣下。ここに居る者は、例え人ならざる者であっても、神の御心に背く存在ではないと……慈愛の女神ディーヌ様が仰っておられるようです」

 ゾリュは聖句を繰り返し唱え、神の言葉に耳を澄ませていた。その灰色の瞳には、確かな確信が宿っている。

「そうか。ならば、ここは魔女の住処ではないのだな?」

「ええ、左様にございます。魔女の噂は、ただの迷信に過ぎなかったのでしょう」

 ゾリュは深く頷き、再び目を閉じて瞑想に耽った。

「わかった。感謝いたします、ゾリュ様。……ディラン、ミル、引き上げるぞ。報告に戻る」

「「はっ!」」


***


 騎士たちが塔を見上げ、驚愕に震えていたその頃。

 塔の主は、石壁の中で静かな夕餉(ゆうげ)の時間を過ごしていた。

「はい、リシエ。甘いカボチャのスープよ」

 二階の食堂で、二十五歳ほどの女性が、十歳くらいの少女に(さじ)を差し出していた。

 少女の瞳は、右が太陽を溶かし込んだような金色、左が冬の空を切り取ったような灰色をしていた。腰まで伸びた銀髪を流し、簡素な白いワンピースに身を包んでいる。

 驚くほど整った容姿を持ちながらも、少女の表情は凍りついたように動かず、虚ろな双眸(そうぼう)はただ目の前の景色を映し出しているだけだった。

 それでも、女性が食事を運べばそれを口にし、髪を撫でれば、ほんのわずかだけ目元が和らぐ。そんな微かな反応だけが、彼女が生きていることの証明だった。


 「ねぇ、リシエ。いつになったら、その唇で私を『ナタリー』って呼んでくれるの?」

 問いかける女性の唇が、わずかに震える。


 ――『ナーティ』でもいいわ。


 その言葉は、結局最後まで、口にされることはなかった。

「リシエ」という名前は元々この物語のキャラにつけたものですが、物語の製作が思ったより長引いてしまって、名前の響きの愛着がわいて、この名前で先に活動というか、アカウント名にしてしまいました。これからも物語の「リシエ」と、物語制作の「リシエ」と、よろしくお願いいたします。

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