3話 人類の友について
朝、教室の扉をカラリと開けるとそこにはすでに彼女が、舞島がいてまさに今脱いだ服を自分の机に置くところだった。
「あーごめん。ちょっとあれ、とってきてくれないかな」
スカートに手をかける彼女は窓に干してあるTシャツをチラと見た。
「いいけど。なんか…大きくなった?」
「なにが?」
「なにってその、胸が」
レギンスを履こうとしてぴょんぴょん跳ねていた彼女は自分の胸を右手で直に軽く揉んだ。
「んー?そうかな。あんま変わらないような気がするけど」
「身長と一緒よ。自分じゃ気づかないもんなんよ」
「あーねこみたいなものね」
「猫?」
Tシャツを物干し代わりのロープから外し少し丸めて疑問と一緒に軽く投げると彼女は右手でそれを受けて「ん」といった。
「そう。ねこってなんか急に大きくなる気しない?特に他の家のこって」
「いわれれば?でもそういうのってだいたい例えに出すの赤ちゃんなんよ。写真だけで成長を見るからこないだ生まれたと思ったのに気づいたらもう立ってる。みたいなことでしょ」
「そうそう。でも赤ちゃんよりねこのほうがはっきりしてるよ。うまく言えないけど目つきっていうか顔?が変わるじゃない急に」
僕は自分の机の椅子を引いてとすん。とそれにお尻から落ちるように座り机の引き出しから書きかけの絵と鉛筆を1本取り出した。
「それでいうと犬はちがうん?どっちも代表的なペットだけど。」
Tシャツを着るのに手間取っている彼女のほうを見ながら鉛筆を持ち紙の隅にくるくると丸を書いた。
「いぬはずっと変わらない気がするなぁ。顔は変わらないで大きさだけ変わってる気がする。写真じゃサイズはわからないもん。顔よ」
着替えを終えた彼女が鏡の前で2,3回回った。
「重要なのは顔なんな。」
口には出さなかったが顔を重視するのは男だけじゃないのかと思った。
「てことは私のおっぱいはねこってことになるのかな。私のおっぱいは人類の友だったのか」
「人類の友」
「しらない?ねこって人類の友って呼ばれてるんだよ」
机を挟んで僕の前に立った彼女は前かがみになって僕の顔を見ながら「にゃあ」と言った。
「それ、たぶん犬なんよ。猫は人類の支配者なんよ。」
彼女に倣って「わん」と言い、机の上に置いた紙を見られる前にすっと引き出しに戻して代わりにスケッチブックを取り出した。
「てことは私のおっぱいは人を支配できるってことだね」
ふふと彼女は今まで見たことがないようななにか含みのある笑い方をすると僕の目をじっと見た。
「な、なんかちょっと怖いんよ…」
この日、ネコは僕だった。