2話 平和の象徴について
「なにかいてるの」
自分の席から教室の前の教卓に設置してあるテレビでいつかのダンス大会のビデオを見ていた舞島が窓の外を見ながら絵をかいていた僕の左に椅子を持ってきて腰かけた。
「鳩」
「はと」
「うん、鳩。そこの」
鉛筆で窓の外でなにかをついばんでいる鳩を指す。
「これは見ていいんだ」
彼女が絵を見ながら以外そうに聞いてきた。
「別に模写だし。見られたくないのは一時創作だけなんよ」
「ふーん。ところでさ」
自分から絵に話を振った割に全く興味がなかったようで彼女はすぐに話を変えた。
「なに」
「鳩って平和の象徴っていうじゃん?」
絵ではなく本物の鳩を二人で見ながら会話を続けた。
「いうね」
「鳩に平和ってイメージなくない?」
「確かにないかも」
「だよね。もっといい鳥いるよね」
彼女は右手で頬杖をついて鳩から僕のスケッチブック上の鳩に目線を移動させた。僕も窓の外から手元に再び目をやった。
「そもそも鳥じゃなくてもいいんよ。兎とかのほうが平和だよ。ふわふわだし」
スケッチブックの余白にひらがなで「うさぎ」と小さく書いた。
「そこはやっぱり空飛ぶから自由で、自由だから平和ってことなんじゃないの?」
「それだわ。いぇーい」
ハイタッチでもしようかと鉛筆を左手に持ち替え右手を上げたが彼女はそれには応じなかった。少し気まずくなりすぐに鉛筆を右手に持った。
「だとしてもさ、鳩はないよね」
「じゃあ何が平和の象徴なんよ」
「えー…にわとり?おいしいから」
続けて彼女は小さな声で「干支だし」とも言った。
「おいしいからって…闘鶏ってあれ鶏じゃなかったっけ。争いまくりじゃん」
「うさぎ」よりもすこし大きい字で「にわとり」と書いた。
「とーけー。じゃーだめかー。なんか他ある?」
「僕、鳥が平和って感じしないからなぁ。烏とか?」
少し考えて「にわとり」よりも大きく「からす」と書いた。
「真逆じゃん。平和の逆だよ。」
「平和の逆はまた別の平和…」
スケッチブックをさかさまにして鳩の絵と同じくらいの大きさの烏の絵を簡単に描いた。
「なにそれ」
何とも言えない微妙な空気が流れた。左手で頬杖をついて彼女のほうに顔をむけると何のことかさっぱりというように彼女の口角と眉は少し上がっていた。
「別に…やっぱり平和の象徴は兎でよくない?四捨五入したら鳥だし」
「なんで?」
彼女は「干支だから?」と小さな声で言った。彼女の中では平和と聞いたら干支が真っ先に出るようだった。
「数え方がね…1羽2羽って数えるんよ」
「いや『ししゃごにゅう』ってなに?」
再び微妙な空気が流れた。
遠くの方で烏が2羽飛ぶのが見えた。




