1.
「ミランダ、あのね、言いにくいんだけど、こんなに多く選んでもらってもまだ男の子か女の子かもわかっていないから……」
お抱えの針子と商人を呼びつけて、まだこの世に生を受けてすらいない子どもの服について熱心に相談を交わすミランダに私は控え気味な言葉をかける。
私がハリンストン屋敷に一時帰省してからわずか一時間もせずにミランダによって呼び出された彼らとの会議はもうかれこれ数時間もの間、休むことなく続けられている。
それこそ一番の関係者である私が聞いているだけでも疲れてしまうほどに――とはいえその原因を作ったのは間違いなく私なのだが。
「お姉様、私は産まれてくるのが男の子でも女の子でも構いませんわ! ブラントン家の御令息と違って」
ミランダは『ブラントン家』をやけに強調する。
私も一応ブラントン家の一員なんだけどなぁ……。
本没収騒動の時はエリオットと歩み寄ったかのように思えたが、そうでもなかったらしい。その証拠にミランダは未だにエリオットの、私の旦那様の名前を呼ぼうとしない。
まぁ、いろいろあるんだろう。
私もなかなかにシスコンの自覚はあるが、ミランダもミランダでお姉ちゃんっ子なのだ。
「まぁ……ほどほどに、ね?」
「はい!」
ミランダは任せて! と言った様子で力強く返事すると、再び針子と商人と顔を突き合わせてやれこの生地がいいだの、このデザインがいいだのと意見交換を再開した。
こうなったのはついミランダに愚痴を零してしまったせいだ。
お医者様に『奥様の腹の中にはお子が宿っております』告げられた時、私はエリオットがボソッと「女の子だといいのだが……」と呟いたのを聞いてしまったのだ。
一般的に貴族の家で生まれる子どもは、跡取りの問題などの関係から男子が望まれることが多い。だがエリオットは長男ではないため、ブラントンの家を継ぐことない。
実際長兄や次兄と違い、本家からは少し外れた場所に屋敷を構えて暮らしている。
だから跡取り問題を抱える予定のない我が子を、女の子がいいと彼が望むことに異議などないのだ。
――彼が始めから女の子を望んでさえいれば。
ブラントンは騎士の家系で、何度かエリオットのご両親やお兄様とお会いさせてもらった際に、子どもは男子を! と強く願われたのだ。
もちろん男女の産み分けなどできるわけがない。
その時は軽く流していたのだが、その後エリオットから最低でも男の子は二人欲しいのだと彼の思い描く未来の家庭図を聞かされた。
だからいつかは男の子が生まれて来てくれれば……なんて考えていた。
なのに、女の子がいいなってどういうことよ!!
私との間に優秀なブラントンの血を引く男児はいらないとでも言うわけ!?
――とそんな苛立ちを、ユリアンナとユタリアは同一人物であるとハッキリと証明し、距離が少しは近づいたとはいえ、エリオット本人にぶつけることはできない。
相手がデリカシーをゴッソリと母親のお腹の中に置いてきてしまったライボルトなら、その襟ぐりを掴んで抗議できただろうに……。
別にライボルトと結婚したいとは思わないのだ。
ライボルトとリーゼロット様はいい夫婦になるだろうと陰からはみ出しながら応援したいと思っている。だが二人の関係が羨ましいとは思う。
まさか貴族のご令嬢の見本であったはずのリーゼロット様が本の感想の交わし合いであんなに声を荒らげるなんて……。
エリオットから「また行くのか?」と眉を顰められつつ、その二人のお茶会もとい感想会に参加させてもらうのだが、あんなことを毎週末しているなんて、なんと羨ましいことか!
あれくらい遠慮なく相手と語り合えるなんて……。
私とエリオットでは到底あんな関係になれそうはない。
――なんて幸せ絶頂期を迎えている二人に相談できず、だからといってまだ結婚もしていない妹にこんな暗い話を相談するのもどうかと思いつつも、ついつい聞き上手なミランダにやんわりと、ふんわりと、マイルドにして包み込んだ愚痴を零してしまったのだ。
だが私の話を最後までしっかりと聴いてくれたミランダは私の思いもよらない方向へと怒りを爆発させた。
「私もエリオット様のお気持ちがわからないわけではありませんわ。お姉様似の女の子が生まれたら、私なら絶対溺愛してしまいますもの! ですけど、それは産まれてくるのが男の子だったとしても同じこと! どちらかだけを望むなんてお姉様のお腹の中の赤ちゃんに失礼ですわ!!」
そしてお茶を置いて、使用人に針子と商人を呼びつけさせて今に至る――と。




