幼い日の記憶
昔の話だが、ハクリには女の子の幼馴染がいた。天真爛漫でたまにドジを踏んではハクリの元へと泣きついてくる、妹みたいな存在だった。ハクリは当時恋愛の『れ』の字も知らなかったが、その子が好きだったし、多分女の子もハクリの事が好きだったんだと思う。
……でもーー
「………」
「おはようございますマスター。悪い夢でも見ましたか?」
自室での目覚めはいつぶりであろうか、朝の日差しが差し込み、視界にはルリが心配気味にハクリを見ている姿が映り込む。
ルリに指摘され、目尻に浮かんだ涙を拭き取る。
「……いや、何でもない。おはようルリ」
安心させようと、優しい笑みを零す。ハクリ自身何故涙が出てきたのかは不明であり、何よりルリを心配させたくなかった。
「はい!ヤヨイ先生曰くもうちょっとしたら出発らしいので、マスターも早く準備を済ませちゃって下さい!」
「もうそんな時間か…おっけーパパッと済ませるから下で待っててくれ」
「はーい!早くしないと置いてっちゃいますからね!」
やけにハイテンションなルリは、満面の笑みのまま上機嫌に部屋を出て行った。残っていたハクリは颯爽と着替えを済まし、パソコンと向き直る。
「……そういやルリと初めて会ったのここだったな」
不意に頭を過ぎる懐かしい記憶。出ないはずの広告から今の今までに繋がっていると思うと、つくづく人生というものは何が起こるか分かったものではない。
突然連れてこられて今思う。あの時は散々な展開が相次いできたけど、今はこうして上手くやって……
アレ?
ーー俺はそもそも上手くやっていけているのか?むしろ失敗続きじゃないのか?……何が成功で失敗なのかーー
「…結局はまだ受け入れられてないのかなぁ」
そんなことを呟きながら伸びをする。現実離れしたあの世界が好きだ。あの仲間達が好きだ。あの日常が好きだ。
こんなに好きだらけなのに、ハクリはまだ自分で成し遂げた成功を収めていない事に気が付かされる。
「……いつか俺だって」
パソコンのモニターに手を伸ばし、そう釘付ける。
椅子から立てば決心は硬いものになり、自身の自信へと繋がっていく…そんな気がした。
 




