温泉回
「ほええ…これが温泉ですか。何だか懐かしい感じがします」
ハクリ達が向かった先は、地元でもかなり有名な観光場所の一つである温泉。朝方なのもあり、人は少なめである。
全日の夜、一斉報道でテレビにハクリ達の姿が映し出された。いつ撮影したのか分からない映像まであり、少々困惑しながらも、リランはハクリ達のことを丁寧に説明してくれた。そのせいか、今日向けられている目はそこまで痛くはない。
「さて、向かうとしようか」
ヤヨイが先陣を切り、先へ歩んでいく。
暖簾をくぐれば下駄箱があり、ハクリは丁寧にここのルールを説明する。
「ーーとまぁこんな感じですかね。あと、湯船にタオルはつけないくらいです」
「ほぇー。私たちの世界とはまた別のルールがあるんだね。こりゃ注意しないと」
「まぁそこまで堅苦しい決まり事ではないので、ゆっくり身を養う事が出来ますわね」
「それじゃあ男湯はこっちなので俺は失礼します」
女性陣と別れを告げ、ハクリは一人男湯へと足を運ぶ。露天風呂は前日の痛い思い出から味わうことが出来たが、おんせんはまた別のものである。久方ぶりの温泉に入る事が出来るとなると、ハクリのテンションは上げ上げだった。
「うひゃーやっぱでかいなぁ」
浴場には既に数人が湯船で世間話をしていたが、それを気にさせない広さを誇るのが子の温泉のいい所である。
とりあえずシャワーを浴びて、体の汚れを流す……っておい。
何で俺の風呂シーンなんて流してるわけ?
全然サービスしてないじゃないか。
……ってな理由でーー
「おー!大きいなぁ!」
「こらミナヅキ、あんまりはしゃぎ立てるんじゃない。ほかの方々に迷惑だろう」
「それにしても広いですね。昨日の露天風呂なんか比じゃないですよ」
「そうですわね。これだけ広々していると少し不安になりますが…」
「ここの温泉はお昼頃から人が多く来る。今来て正解」
タオルで白い柔肌を包み隠した幻想的な美女達を前に、既に湯船に使っていた歳食った者達は感嘆の声を上げる。
「ほぉ~こりゃべっぴんさんの御来場だね〜」
「ええもん見ましたわ〜。寿命がまた延びたわい」
「お嬢様方、ちとババアの世間話につきおうてくれんかの〜?」
突然訪れた女性陣が眩い程に美しい事は当然で、方や女神のように白い翼を生やし、方や可愛らしい犬のような耳と尻尾を見せている。それを見た老婆達が興味を示さないという事は無に等しかった。
昨日と一変した自分に対する対応に、少々引け気味になりながらも、話の輪に混ざる。
「楽しそうだね。ヤヨイ」
「そうですね。ヤヨイ先生、気を抜く事が出来ないから今は落ち着いているみたいです」
ヤヨイとイタチ、ウェイリィが湯船で話に花を咲かせている中、ルリとミナヅキはシャワーを浴びる。
「結構きつかったよねぇ。出発から到着までほとんど休み無しでさぁ」
「まぁ急いでましたし、私は満足ですよ!」
ルリの回答に、ミナヅキは微笑ましい顔をする。
この笑みを見ているだけで、ミナヅキはどこか癒されるような、そんな気がした。
「でもまぁ今日からあと2日はルリちゃん達は暇なんだし、満喫してきなよ」
「でもミナヅキさんやヤヨイさんは講習があるんですよね?何だが悪い気がします…」
「大丈夫大丈夫。私とヤヨイだってこの世界の機甲法ってものを知りたかったし…って言っても本当に短期間しかないから敷き詰めないとだけど」
苦笑いをしながらそう伝えたミナヅキ。
ルリがミナヅキに初めて会った時に抱いた感情は、至って良好的なものだった。目上の人だとは分っていながらも、どこかクラスメイトの中にいてもおかしくないような、そんな感じだ。だから話している時は楽しいし、何故だかは分からないが、ミナヅキとならばクラスメイトと話している時間のような気分になれた。寂しくないと言えば嘘になるが、ミナヅキと居れば少しは心が安らいだ。
「あまり無理はしないで下さい!困った時は私に頼ってくださいね!」
胸を張りながらそう告げるルリ。
少しの時間ぽけーっとそれを眺めていたミナヅキ。突然吹き出して笑い出した。
「な、私何かおかしな事言いましたか!?」
「い、いや…ふふっ。何だか昔のヤヨイみたいに見えてさ」
「私が昔のヤヨイ先生ですか?」
シャワーを止め、ルリの方を向く。
「ヤヨイはね、昔っから世話焼きなんだよ。弱い人を強いひとから守って、何より悪を嫌う正義の味方みたいな人だったよ。私もよくその無茶に付き合わされたっけ…」
「や、ヤヨイ先生らしいですね…」
「困ってる人を見かけたら助けずにはいられない。それがヤヨイなんだよね…でも、その『優しさ』が私とヤヨイに一つの障害を生まれさせた…」
急に表情を曇らせるミナヅキ。それを不思議に思ったルリは、首をかしげた…。しかし、ミナヅキは取り戻すように笑みを零した。
「さ、昔話はこれでおしまいっ!あのおばさん達居なくなったみたいだし、早く私達もお湯に浸かろっ!」
子供のように駆けていくミナヅキ。何がなんだか分からないままのルリは、ただ後に付いていくことしか出来なかった。




