彼氏5
彼女は見た目と中身が一致しない。
放課後、教室で待っている彼女を迎えに行くと、彼女は窓の前に立っていた。
秋の夕方の風は寒いのに窓を開けて、癖のある柔らかい髪は風で少し揺れている。ピンク色のイヤホンをつけているから俺が来たのにも気づいてない。一応勉強しているらしく、日本史の教科書を眺めている。
あ、今笑った、よな?
さては気に入ってる武士かなんかが出てきたんだな。
音が鳴らないカメラで写真を撮ってから俺はゆっくり彼女に近づいて、まだ気づかない彼女の耳を両手で塞いだ。イヤホンの冷たい感触が手のひらにつく。
ビクッとなって彼女が振り向いた。
「…なんだ、びっくりさせないでよ。」
さっきまでのうさぎのような姿は何処へやら、表情を変えずに言い放つ。
「あ、わりぃ」
「ちょっと待って、今片付けるから」
たったったっと自分の席に走って行って、リュックに日本史の教科書を大切そうにしまう。そして一言、
「来るの遅い。」
「ああ、あんたに………いや、なんもねぇ、悪いな」
危ない、あんたに見惚れてたって言いそうになった。おまけに盗撮した俺って……、これ捕まるのか?
「何言いかけたのか言ってよ、気になるじゃん」
リュックを背負った彼女が俺の正面に迫ってきた。
「言わねーよ、」
「えー、やだ」
まだ引き下がらない。
「うるせー、キスするぞ」
言ってやった。
「ぇ……は、はぁっ?何言ってのっ」
口では強気なものの、彼女の顔は真っ赤だ。
うさぎみたいなのもいいけど、こういう猫みたいなのも、なかなか良き。