ご主人のご友人
大変お待たせしました。
ご主人には仲のええご友人が一人おる。
もちろん、あのご主人のご友人が、そのお一人だけとは思ってへんけど、わいとご主人の家まで来るんは、そのお人だけやった。
つかむしろあれは入り浸ってるんやないけ。
「おー、ぶさ猫、今日も変わらずぶさいくだなー」
「よお、でぶすけ。今日もむっちり肥えてんなあ」
「はっは、いつ見てもおっさんくっせえよな、まじで」
「トロなあ、お前。運動神経あんのかこら。猫に思えねえぞお」
ご友人はわいを見るたびに、そうからかってきはる。
もちろん大人なわいは怒りもせんで、流したるけどな。
「ぶさ可愛って言葉を知らないのか?」
「そのむっちり感が可愛いんだっ」
「そのおっさん顔と中身のギャップがいいんじゃないか!」
「ジャンプして飛び移れず背中から転がり落ちる、その姿がもんどりうつほどラブリーなんだろう!?」
そしてご主人、ご友人がそう言うたびにフォローにもならんことを言って一々反論しはるの、やめたれや。
それ何や、わいの心の中に秋風が吹くねん。
「大の大人の男が飼い猫にメロメロなんてみっともねー」
「おま、正直キモイわ」
とご友人の辛辣なセリフにもご主人は平然としてこう応えはる。
「飼い猫にメロメロにならん飼い主の方がおかしい」
「すべてはハニーの魅力がすさまじいからだ。可愛いハニーを愛でて何が悪い」
…………ご主人、わいはもう何も言わんとするわ…………。
しかし、わいへの反応は異なるお二人やけど、仲が良いのはほんまやで。
幼馴染、言うんやて。
気心がしれてて楽なんやと。
休みの前の日なんかは、お二人でビール片手によく夜中まで談笑してはるわ。
ご主人が手放さないのでわいはその間ずっとご主人の膝の上やけどな。
やから、これはご主人には内緒やで。
ご主人は酒に弱いらしいわ。
飲んでると必ずと言っていいほど、酔いつぶれて眠ってしまうねん。
ご主人が眠ってしまわれると、ご友人は足音忍ばせこちらに近づいてきはる。
そして、ご主人の顔を覗き込むようにして、ご主人がちゃんと眠ってはるか確認をし。
酔って眠ってしまわれたご主人の腕から抜き取るように、ご友人はわいをそっと抱き寄せると。
「もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ~! ほんとたまんねー! このむにむには何事! 毛並みのさらさらふわふふわ、あり得ねーんだけど。超、気持いいー! あー、もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふたまんねー!」
高速スリスリなでなでを繰り返されるんやわ。
スリスリすんのもなでなですんのもかまへんけど、高速はあかん。
それはやめてえな、わいハゲてまうで。
しかし、このご主人のご友人。
ええキャラしてはりますやろ?
さすがはご主人のご友人や。
類は友を呼ぶて、ほんまやな。
次回で最終話です。