都市トーナメント決勝戦
今日は都市トーナメントの2回戦。
とは言っても参加校が4校のみなので、これが決勝となる。
対戦相手は大方の予想どおり、ムーラライ商人学園を下して勝ち上がってきたミズナイツ騎士学園だった。
◇
準備を終えた俺たちは、すでに試合会場へと上がっていた。
「来たぞ!
今年も優勝期待してるぜー!」
声援に包まれて、ミズナイツ騎士学園の選手たちが入場してきた。
時間に遅れての登場だと言うのに、悪びれた様子もない。
こんな奴らが騎士を目指しているのだから、世も末である。
「みろよ、あそこ!
カノだ。
カノ・クーガーだぞ!」
声援につられて視線を向ける。
そこに黒い甲冑をまとった騎士がいた。
こいつだ。
こいつが先輩が言っていたイカルガさんの仇……。
カノは見るからに軽薄そうな男だった。
青みがかり癖のついた前髪を、目元まで垂らし指で髪先を弄っている。
ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべた表情。
軽い垂れ目で目の下の泣きぼくろが、なんとなく癪に触る。
こんな奴が本当に強いのだろうか?
まずはともかく、鑑定してみよう。
"名前:カノ・クーガー
レベル:31
スキル:剣術、毒、暗殺
※※:※の※音"
たしかにそこそこ強いが、俺たちの敵というほどではなかった。
どうしてこんなやつが、ティト先輩をして天才と言わしめたイカルガさんに勝てたのか。
不思議でならない。
「……ん?」
ふと気付いた。
ステータスに、鑑定しきれていない項目がある。
こんなことは初めてだ。
意識を集中して再度鑑定してみても、詳細がわからなかった。
一体なんなんだろうこの男は。
ただの悪党ではないのかもしれないが、正体が掴めない。
そうこうしている間に、ミズナイツ騎士学園の選手たちも試合場へと上がってきた。
「ねぇユウ。
さっきからどうしたの?」
「なにか気になることでもあるのか?」
「……いや、それが実は……」
確認してきたイーリィと先輩に、カノの正体不明のステータスについて説明しようとする。
だが答える前に、審判が近づいてきた。
「両学園!
選手まえへ!」
もう試合開始の時間か。
あの不気味なステータスについては気にはなるけど、いまは気持ちを切り替えて闘いに集中しよう。
「なんだ。
雑魚ばっかじゃねえか。
ひひっ!
これなら楽勝だぜ」
正面にたったカノ・クーガーが俺とイーリィ、そして先輩を順に眺めてから鼻で笑った。
「ぶはぁっ!
ちょ……。
笑かすなって、貧弱なガキと女ふたりが相手だぁ?」
「おい、クーガー。
俺たちの分の獲物も残しておけよぉ?」
ミズナイツの選手たちは、嘲笑する様子を隠そうともしていない。
「君たち。
試合前の私語は慎みなさい。
それでは決勝戦、はじめ!」
こうして俺たちと騎士学園による決戦の火蓋が切られた。
◇
カノが試合の開始早々、観客席になにかを合図をした。
「……つぅ⁉︎」
ティト先輩が首筋を手で押さえている。
「なんないまのは⁉︎
「きひひ……」
「どうしたんだ、ティト先輩⁉︎」
「いま、なにかが首に飛んで……。
な……に……?」
喋り切る前に、先輩が試合場に膝をついた。
「だ、大丈夫ですか、先輩⁉︎
ユウ!
先輩が!」
「こ、これは……。
しびれ薬か……⁉︎
き、気をつけろふたりとも、観客席に何者かがいるぞ」
先輩は必死に立ち上がろうとするも、やはり膝をついてしまった。
きっとなにかやってくるとは思っていたが、観客席に仲間を忍ばせて、しかも開幕早々に仕掛けてくるとは……。
カノ・クーガー。
思った以上に汚いやつだ。
「ひゃはは!
いいざまだなぁ。
ええ、おいぃ?」
「お、おのれ!
……は⁉︎
も、もしかして兄さんもこうやって⁉︎」
「はーい、半分せいかーい!
あとの半分は人質でぇす。
抵抗したらお前の大事な妹を、俺の仲間が殺しにいくって脅してやったのさぁ!
しっかし今頃気付いたのかよ、ノロマァ?
きゃはははは!」
油断した。
なんて卑怯なやつだろう。
試合というものをなんだと思っているんだ。
「ユウ!
すぐに審判に……」
「はぁい、残念でしたぁ。
審判は買収済みでぇす。
ひゃはっはー!」
カノが両腕を広げ、伸ばした舌をだらりと垂らして俺たちを嘲ってきた。
残りふたりのミズナイツの選手も、にやにやしながら俺たちを眺めている。
「きひひひひひ!
天才魔法騎士ティト!
お前さえいなければ、後は1年坊主の雑魚がふたりいるだけだ!
楽勝だぜ!
このまま全員嬲り殺しにしてやるぜー!」
カノは笑いながら剣を引き抜き、斬り掛かってきた。
◇
「……やれるものなら、やってみろよ!」
剣を鞘から引き抜く。
素早く踏み出して下方から刃を打ち合わせるように斬りあげ、カノの剣を吹き飛ばした。
「な、なにぃ⁉︎
お前……。
た、ただの一年坊主じゃないのか⁉︎」
カノは焦って何度も剣を振り回してくる。
しかし俺は、それらのすべてを軽々と切り返してみせた。
「ひ、ひぃ……」
「逃げるな、カノ・クーガー!
俺の目を見ろ!」
視線に『スキル:威圧』の効果を乗せて強く睨みつける。
「……ぅ、ぅあ」
スキルの効果が発揮されたのだろうか。
それとも燃えたぎる俺の怒りが、視線を通じて伝わったのだろうか。
カノは俺の迫力に怯み、後ずさる。
「ま、待てよガキ!
強えなら強えって最初に言っとけよ。
卑怯だろうが!」
「お前のような卑怯者に、卑怯よばわりされる筋合いはない!」
「だから待てって!
そ、そうだ。
お前ら!
俺を守りやがれ!」
カノが残るふたりの選手をけしかけてきた。
「召喚、ウォーウルフ!」
けれどもイーリィが素早くラグを喚びだし、残りの選手たちを迎えうつ。
「ユウはカノをお願い!
こっちは私に任せておいて!
いけぇ、ラグ。
やっちゃえ!」
「すまない、イーリィ!
じゃあそっちは任せた!」
俺は改めてカノ・クーガーと正面から対峙した。
こいつだけは絶対に許さない。
剣の切っ先を眉間に向けて宣言する。
「覚悟しろ。
お前には、相応の報いを与えてやる……!」




