↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/25

ティト先輩と墓参り

 トーナメント合間の休養日。


 俺は街をひとりで歩いていると、通りの先を歩いているティト先輩の後ろ姿を見つけた。


 小走りで追いかける。


「先輩」


「ああ、ユウか」


「どうしたんだ。

 そんなものを持って」


 彼女は手に花束を持っていた。


 小振りで質素な花びらだけど、綺麗な白い花束だ。


 彼女の赤い髪によく映える。


「いまから兄の墓参りに行こうかと思ってな」


「……お兄さん。

 たしかイカルガさん、だったか?」


 先輩は無言で頷いた。


「ところで君はなにをしていたんだ?」


「俺はちょっと散歩をしてたんだよ。

 明日のミズナイツ戦を思うと、少し落ち着かなくてさ」


「ふふ。

 なんだそれは。

 いまからそんなのでどうする」


 そのままなんとなく、ティト先輩と並んで歩く。


 先輩は3年生だから、2つ歳上だ。


 彼女の身長は女子の平均よりもずっと高く、背はわずかに俺より高い。


 歩きながら俺は、ティト先輩を横目でちらりと見た。


 ……やっぱり綺麗なひとだ。


 内に秘めた激情を表すように情熱的な真紅の髪と、それに相反する穏やかな表情。


 少しつり目がちで一見すると近寄り難いような美人の彼女は、けれども内面は実直で、誠実で、そしてとても優しいことを俺は知っている。


「……ユウ。

 おい、ユウ」


 思わず見惚れてしまう。


 気付けば俺は、ティト先輩に目を奪われていた。


「話を聞け。

 おい、ユウ」


「――は⁉︎」


「やっと気付いたか。

 急にぼうっとして、どうしたんだ?

 あと、そんなに見るな。

 さしもの私も、そんなにずっと見つめられては恥ずかしい……」


「わ、悪い!」


 焦る俺に先輩が優しく笑いかける。


「ふふふ、冗談だよ。

 あ、そうだユウ。

 もし時間があるなら、君も墓参りに付き合ってくれないか?」


「え、俺が?

 いいのか?」


「ああ、勿論だ」


「じゃあ、一緒にいくよ」


 肩を隣り合わせて、街の雑踏をふたり肩を並べ歩いていく。


 しばらく無言でそうしていると、ティト先輩が不意に話しかけてきた。


「……しかしなんだ。

 さきほどの真っ直ぐな瞳。

 やっぱりユウは好ましいな。

 私がこれまで見てきた男たちとは、どこか違う気がする」


「そうかな?

 自分ではよく分からないけど」


「分からなくていい。

 それよりほら、手を出してみろ」


 促されるままに手を差し出すと、先輩がその手を握ってきた。


 暖かな体温が、柔らかな手のひらから伝わってくる。


「あ……。

 先輩……」


「どうした?

 そんなに顔を赤くして。

 くすっ」


 先輩が楽しげに笑う。


 これは確信犯だな。


 だがそうとわかっていても、俺は顔に血が集まるのを止められない。


「ふふふ。

 ほんとに面白いな、君は。

 勇敢だったり、かと思えばこんな風に年相応な幼さをみせたり。

 見ていて飽きないよ。

 ……そら」


 ティト先輩が繋いだ手を一度離し、今度は指と指とを絡め合わせてきた。


「こういうのはどうだ?」


「うあ……。

 ど、どうって言われても」


「くすくす。

 まったく可愛い反応をしてくれる。

 それはそうと暖かいな、君の手は……」


 先輩はいつになく大胆だ。


 俺はもういっぱいいっぱいになってしまって、赤面したまま口を噤んだ。


 ◇


 目の前に小さなお墓があった。


 ティト先輩がその前に立ち尽くしている。


 ここは都市の片隅に設けられた集合墓地。


 木々の合間から暖かな木漏れ日が差し込み、さわさわと葉擦れの音が聞こえてくる。


「これが、兄さんのお墓なんだ」


「イカルガさんの……」


 ティト先輩が膝をつき、そっと花束を供える。


 そのまま彼女は目を瞑り、手を組んだ。


 俺も倣って、黙祷を捧げる。


 ……。


 静寂の時が流れる。


 しばらくしてから、沈黙していた彼女は閉じた瞳をゆっくりと開けた。


「……なぁユウ。

 聞いてくれるか?

 兄さんのこと、私のこと」


「……俺なんかが聞いていいのか?」


「ああ、私は君に聞いてもらいたい。

 ユウだからこそ、聞いてもらいたいんだ」


 ティト先輩との深い絆を感じる。


 俺は彼女の瞳を見つめたまま、重々しく頷いた。


「兄はな……。

 ……兄さんは優しくて、強いひとだった。

 うちは名家と言っても名ばかりの魔法騎士の家系で、そんな我が家に生まれた待望の子が、イカルガ兄さんだったんだ」


 ◇


 ティト先輩は語る。


 幼い頃の先輩は、いまみたいな感じじゃなくて、どこにでもいる普通の女の子だったらしい。


 むしろ少し気弱で、同世代の男子たちにいじめられて泣いたこともあるそうだ。


 いまの彼女からは、ちょっと想像できない。


 だが本当らしい。


 先輩はいつも兄のイカルガさんに、ひよこみたいについて回っていたらしい。


 どこに行くのも兄と一緒。


 イカルガさんはそんな先輩を可愛がって、いじめっ子からも守ってくれたそうだ。


「兄さんはいつも優しかった。

 私を守ってくれた。

 でも私は、いつまでもこれじゃいけないと思ってな。

 兄さんの真似をして剣を振り始めたんだ……」


 ティト先輩の家系は、先述の通り代々魔法騎士の家系らしい。


 だから女だてらに先輩が剣を振ることについては、家族は誰もなにも言わなかったそうだ。


「私のこの剣は、元々兄さんに教わったんだ。

 守られてばかりじゃない。

 いつか兄さんを超えて、私が逆に兄さんを守ってやるんだって、幼いながらも必死になって、毎日日が暮れるまで剣を振ったもんだよ。

 ……でも一度も兄さんには勝てなかったな」


 その頃のことを思い出してるのだろうか。


 先輩の頰が僅かに緩む。


「だが結局……。

 ……私は兄さんを守れなかった」


 イカルガさんは、ミズナイツ騎士学園のカノ・クーガーに公衆の面前で嬲られ、最後には事故死に見せかけて殺された。


「絶対におかしい。

 兄さんは本当に天才だった。

 たしかにカノ・クーガーは強敵だが、兄さんならあんなヤツに負ける訳がない」


「ティト先輩……」


「なぁユウ。

 私は改めて、兄さんの墓前で誓うよ。

 明日の決勝。

 私は必ずこの手でカノを倒す。

 ……そして、なぜ兄さんがあんな男に破れたのか。

 事の真相を……必ず……」


 先輩が俺から顔をそむけた。


 いつもなら頼り甲斐のある彼女の身体が、悲しみに震えている。


「……先輩」


 俺はそっと彼女の肩に手を置いた。


「……俺も手伝うよ。

 明日の試合、必ず勝とう」


「……ありがとう」


 俺の手の甲に、彼女が手のひらを重ねた。


 ◇


 沈黙のときが過ぎる。


 ティト先輩の震えはもう収まっていた。


 だが彼女はこちらに振り返ろうとはしない。


 肩ごしに俺と手を重ねたまま固まっている。


「……な、なぁユウ」


 ようやく先輩が口を開いた。


 しかしその声はさっきまでと違って、どこか上擦っているように思える。


「なんだ?」


「あ、あのな。

 無事にイカルガ兄さんの仇を討てたら、君に聞いてもらいたい想いがあるんだ」


「……?

 いまだと、まずい話なのか?」


「ま、不味くはない。

 不味くはないんだが、私にもこころの準備というものがだな!」


 先輩はいつになくオタオタしている。


「と、とにかく明日だ!

 明日、すべてが片付いたあと、もう一度話そう。

 それじゃあな!」


 こんな彼女は珍しい。


 結局ティト先輩はこちらを振り返らず、俺を置き去りにして足早に歩み去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓アルファポリスに投稿してみました。
クリックだけでも是非よろしくお願いいたします。
cont_access.php?citi_cont_id=816303765&si
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。