決勝戦、決着
火球が腹部に叩き込まれ、俺は吹き飛んだ。
「ぐ、ぐはぁ……」
内臓がぐちゃぐちゃにされたみたいだ。
吐瀉物を吐き散らしながら、それでも俺は立ち上がろうと必死にもがく。
「……ほう。
さすがに今ので決まったかと思ったが、まだやる気のようだな?」
「あ、当たり前、だ!」
ガクガクとして、いまにも折れそうになる膝に手をついた。
傷ついた内臓から、血が逆流してくる。
「ぅぷ……。
うげぇ……!」
大量の血を吐いた。
「ユ、ユウー!」
青い顔をしたイーリィが駆け寄ってこようとする。
だが俺は手のひらを突き出して、それを遮る。
「く、くるな、イーリィ。
ここは、俺に任せてくれ……」
「で、でも!」
ティト先輩と斬り合ったあとだからこそ、はっきりとわかる。
いまのイーリィでは、彼女には歯が立たない。
「……なぁ、少年。
いや、ユウ。
君はどうして、そこまでして立ち上がろうとするんだ?」
「ぐ、ぐぅぅ。
た、助けたい、命があるからだ……」
ティト先輩が俺を見つめている。
いまこのときに斬り掛かってくればいいものを、彼女は黙って俺が立ち上がるのを待っている。
おそらく立ち上がった俺を、正面から堂々と叩き伏せるつもりなのだろう。
それが彼女。
ティト・キュイナという女騎士なのだ。
「ぐああああ!」
震える脚に力をこめて立ち上がった。
「はぁ、はぁ……。
ま、待たせたな先輩。
さぁ、続きをやろうか」
「すごいな君は。
正直いって、尊敬に値するよ。
でも、私にだって負けられない理由がある。
……いくぞ、ユウ」
先輩がふたたび、俺に向けて大剣を構えた。
◇
ファイアボールが飛んできた。
俺はそれを剣で斬り裂く。
「せ、先輩は⁉︎
ティト先輩がいない⁉︎」
「ここだ!」
死角から攻撃された。
体を低くして、滑り込むように懐に潜り込んできた彼女が、俺の鳩尾に肘を叩き込む。
「ぐはぁッ⁉︎」
たたらを踏んでよろめく俺に、先輩が横薙ぎに大剣を振るってくる。
「……っ!」
血反吐を吐きながらゴロゴロと転がり、どうにか彼女から距離を置こうと逃げ回る。
「サンダー、ボルト!」
「雷の魔法か!
ならこちらも。
ファイアボール!」
俺の放った雷撃が火球にかき消される。
彼女はさらに魔法を放って追撃してきた。
俺は飛来する火の玉を、どうにかその場から飛び退いて回避する。
「がはぁ!
くそ!
このままじゃあ……⁉︎」
ティト先輩は俺より戦い慣れていた。
剣と火炎の魔法を巧みに織り交ぜて攻撃してくる。
俺だって剣と雷撃の魔法が使えるが、彼女はすべての面で、常に俺より上をいくのだ。
「どうしたユウ!
君の力はこんなものか。
助けたい命があるんだろう!」
先輩は手加減なんて抜きで、怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
俺はもうボロボロだ。
脚はガクガクと笑い、喉の奥からせり上がってくる血を吐きながら、立っているのもやっとである。
……でも。
……たとえ這いつくばってでも、俺は勝たないといけない。
俺はメロを救う!
「はぁ、はぁ……。
……くそっ。
こうなったからにはもう、あれをやるしかない……」
剣でも上をいかれて、魔法でも打ち負かされる。
別々じゃダメなんだ。
それじゃあティト先輩には勝てない。
◇
「はは……。
ぶっつけ本番になっちまったな……」
俺も大概無茶をするもんだ。
でも自暴自棄になったわけじゃない。
俺は絶対に勝ちをあきらめない。
そのための挑戦だ。
俺は剣の柄をギュッと握りしめる。
「ティト先輩……」
「……なんだ?」
「次が俺の最後の攻撃だ。
これを受け切られたら、俺の負けです」
大きく息を吸い込んだ。
「でも俺は!
必ず貴女を倒してみせる!」
「……いいだろう。
だが簡単に勝たせてはやらないからな?
私にも譲れぬ理由がある」
◇
スキル操作。
いままでスキルの奪取と授与にしか使ってこなかったこの力。
だが俺は、このスキル操作にある種の可能性を感じていた。
ステータスを思い浮かべる。
"名前:ユウ
レベル:37
スキル:剣術、投擲、殴打、逃走、威圧、雷撃
ユニークスキル:女神の恩寵"
ここからだ。
俺は自らのスキルのなかから『剣術』と『雷撃』を選択し……。
――そのふたつを【調合】した。
「いくぞ、先輩!」
「こいユウ!
君の全力を、この私にぶつけてみせろ!」
渾身の力を解放して、彼女に飛び掛かった。
「うおおおッ!」
振りかぶった剣から、激しい稲妻が迸る。
「――雷、撃、剣ッ!」
「……⁉︎
なんだと!
そ、それはまさか。
失われた幻の――」
剣と魔法の同時攻撃。
それがティト先輩を超えるために、俺が導きだした答えだった。
さしもの彼女も、俺が編み出した雷撃剣には驚愕を隠せていない。
だがすぐにティト先輩は焦りを振り払い、大剣を合わせてきた。。
だがそれは悪手だ。
剣では俺の雷撃は防げない!
「でやあああッ!!」
「ぐううぅ……。
ぉぉおおッ⁉︎」
大剣の刃を伝って、雷撃剣の稲妻が彼女の体を焼いていく。
「ぐはああああああ!」
「これで、決める……!」
拮抗が崩れた。
激しい雷と化した俺の剣が、先輩を感電させ吹き飛ばす。
「ぐ、ぐぅぅ……。
まさか、魔法剣とは……」
ティト先輩が立ち上がろうとする。
けれども次の瞬間、彼女は糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちた。
倒れてピクリとも動かなくなる。
「はぁ、はぁ……。
や、やった、のか……」
もう立っているのも限界だ。
カクンと膝が折れた。
観客はみんな呆気に取られて俺をみていた。
「すごい……。
凄いわ、ユウ!」
イーリィが勢いよく俺に飛びついてきた。
ギリギリまで消耗した俺は、その勢いを受け止めきれずに、ふたりしてドサッと倒れこむ。
「しょ、勝者!
1年生チーム!!」
静まり返っていた生徒たちがわっと湧いた。
「ま、魔法剣だ!
いま、あいつ……。
魔法剣を使いやがったぞ⁉︎」
「そんなっ⁉︎
魔法剣なんてあるわけねぇ!
おとぎ話の英雄じゃないんだぞ!」
「で、でも実際に、目の前であの子がいま使ってたじゃない!」
観覧席の騒ぎがおさまらない。
「やった!
やったわユウ!
私たち、勝ったのよ!」
「はぁ……。
はぁ……。
や、やったぁ。
これで、メロを……救……え、る……」
イーリィにのしかかられたまま、俺は大の字に寝転んで意識を失った。
こうして俺たちは、学園トーナメントの覇者となった。




