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第1章-第11話 新たな一歩

 二人と別れた朱華は、本堂と庫裡(くり)の間にある庭園の朱い橋を経由して中庭へとやってきた。


 ついさっきまで鬱蒼としていたそこは浄化されたおかげで草木や花が満ち溢れており、大きな梅の木が満遍なく花開いていた。


 梅の木の傍に新しく建てられた墓と石碑(せきひ)の前まで来た朱華はその場にゆっくりとしゃがんだ。


 巫力で火を灯した線香を香炉(こうろ)へ入れ、両手を合わせて拝む。しばらくして目を開けた朱華は徐(おもむろ)に話し出す。


「なぁ、じいさん。オレはあんたが望んだやつになれたかねぇ」


 朱華が呟いた直後、梅の花がさぁっとひとりでに揺れた。それを見た朱華は一瞬、目を見開いて柔らく微笑む。


「そっか。あんたを慕っていた狸たちも、これでようやくあんたのところにいけるってもんだ。あの世で仲良く過ごしな。こっちはこっちで楽しくやるからよ。後、これと寺号(じごう)はあんたに還しておくぜ」


 朱華は手の内に仕舞っていた梅花刀(ばいかとう)を出現させ、墓の納骨室(のうこつしつ)へ納める。そして立ち上がって隣の石碑に手を翳(かざ)して上から下へと下ろした。


 すると、石碑に『平法寺(ひょうほうじ)跡(あと)』と文字が刻まれる。


「……じゃあまたな」


 そう言い残した朱華は、燎也と司の元へ戻るべく歩を進めた。


 ◇◆◇◆

 

 太陽が真上に来た頃。平法寺から戻って巫守寮(ふのもりじゅく)での任務報告を終えた朱華と多守が建物から出てきた。


「それで? 今回の事件、お前はどこまで見抜いてたんだ?」

「……何のことだ?」


 大通り沿いに出て立ち止まった朱華が多守へ問いかけると、彼は少し間を置いてから訊き返した。


「おいおいシラ切る気かよ。オレに分かってお前に分からねぇはずねぇだろ。どうせ自分たち巫守寮が本格的に事件に関わることで、辻斬り入道に殺されたらどうしようって我が身可愛さで依頼してきたんだろ?」

「……お前なら解決できると踏んで持ってきたまでだ」


 朱華がわざとらしい口調で言えば、巫守寮の塀に背を預けた多守は素っ気ない態度で答える。すると、朱華は呆れたように半開きにした目で多守を睨みつけた。


「ホントかよ。だが、今回の件に乗じて組織改革の一つや二つしたらどうだ?」

「そうだな。上には俺から伝えておくよ」


 朱華の提案に、頷いた多守はどこか戒めるような声色で口にする。


「ぜひともそうしてくれ。それと、これは貰ってくぜ」


 朱華は手にした生駒屋の料理券三枚を見せびらかすようにして揺らしつつ、立ち去ろうとする。


「あ、お前いつの間に!」


 掏られていたことに気づいた多守が声を上げると、振り返った朱華は不満げな顔で口を開いた。


「約束の報酬を貰って何が悪ぃ。それ如きで怒るったぁ、小さい器だなお前。やっぱ小守に改名しろ」

「誰が改名するか! ったく、多守だって何回言えば分かるんだ」

「へいへい。じゃあな、多守先輩」


 適当に返した朱華は料理券を懐に仕舞って通りを歩いていく。


「おう。って、今お前……」


 宙を見て返事をした多守は焦った顔で朱華の去っていった方向を見る。しかし、とっくに彼女の姿はどこかに消えていた。


「逃げ足の早い奴め……。今度会ったら覚えてろよ」


 多守は溜息交じりにそう言うと、一瞬、口元を綻ばせて大通りを進むのだった。


 ◇◆◇◆

 

 ところ変わって侍衛(じえい)・祓魔屋(ふつまや)「朱守(しゅのもり)」の前では、燎也と司が巫守寮にいった朱華の帰りを待っていた。


「それにしても朱華さん色んな意味で凄かったですよね~。いつもあんな感じなんですか?」

「ま、性格は悪いしおっかないとこはあるけど、強いのは強いし、頭は回るからなぁ」


 錫杖を持った司が隣にいた燎也へ視線を向けて尋ねると、店前の壁にもたれて腕を組んだ彼は今回の事件を反芻するかのごとく応えた。


「これからあんなのに毎回振り回されるとなると、身が持たないんですけど……」


 朱華の無理難題に付き合わされたことを思い出したのか、司は嫌そうに顔を歪めて錫杖をぎゅっと握りしめる。


「そこは慣れや慣れ」

「えぇ……」


 燎也が割り切ったように言うと、司は更に顔を歪めて肩を縮こませる。


「おーい、報酬の金と懐石料理券貰ってきたぞー! って、何話してたんだ?」

「なんでもないです! それよりもちゃんとお金貰えたんですか⁉」


 長屋の屋根から降りてやってきた朱華に司はぐいっと詰め寄った。と、朱華は懐に仕舞った銭袋を取り出して二人へ見せる。


「あぁ。百万両だから一人三十万ちょいだな」

「さ、三十万⁉ 結構ありますねっ!」


 念願の収入を得て、司はこれでもかと目を輝かせながら銭袋を見つめる。


「せやけど、諸々の工作費用とか戦闘で破損した建物の修理代、白音への妖魔討伐の協力依頼料に解毒剤の作成費用、加えて生活費があるからな。それ差し引くと一人大体、五万両っちゅうところか」


 燎也は順番に指を折って数えながら言った。


「そ、そんなぁ……。ぼ、僕の収入が……」


 嬉々としていたのが一変、やっとの思いで手に入れた報酬金が少ないことが分かり、絶望に満ちた顔をした司は手を震わせる。


「まー、良いじゃねぇか。おらパーッと食べに行くぞ~!」


 銭袋を懐へ戻し、司の肩を叩いて励ました朱華は、生駒屋(いこまや)へ向かおうと一歩踏み出した。


「やな~。あー、腹減った……」

「よぉし! こうなったらいっぱい食べてやりますよ~!」


 昨日の夜から何も食べていないせいで燎也がお腹を鳴らす一方、やけになった司は拳を握りしめて高らかに宣言する。


「なんせ小守パイセンの奢りだからな。司の『朱守』加入祝いも兼ねてっからじゃんじゃん食って元取るぞー!」


 上機嫌に満面の笑みを浮かべて言う朱華の隣に燎也と司が追い付く。


 侍衛・祓魔屋「朱守」から生駒屋へ向かう朱華たちの前を、どこからか流れてきた三枚の桜の花びらが通過し、空へと舞い上がるのだった。

これにて完結となります! ここまで読んでくださりありがとうございました!


ここまで読んで面白かったという人はブックマーク・評価をよろしくお願いします!

感想もお待ちしておりますので、そちらもぜひ! 作品の推しポイントを語り合いましょう!


いつか長編に伸ばす予定ですので、またその時はよろしくお願いします!

それではまたどこかでお会いしましょう!

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