4話 『学生会への呼び出し』
昼食を終えて教室へ戻ると、午後の授業まではまだ少し時間が残っていた。食堂から戻ってきた生徒たちがそれぞれの席で話していて、窓際では何人かが机を寄せてカードを広げている。オレも自分の席へ戻り、椅子に腰を下ろした。花田は隣の席に座り、高橋と大野もそれぞれ近くまで寄ってきている。
「それにしても、朝は驚いたな。白鷺さんがわざわざこの教室まで来たと思ったら、今度は橘さんと三人で街に行くんだろ?」
高橋が机に肘をついたまま、納得できないものを見るような目をこちらへ向ける。
「まだ日取りも決まってないぞ」
「日取りはどうでもいい。女の子二人と三人で街へ行くってところが重要なんだよ」
隣では大野も深く頷いていた。
「しかもお前、朝は『オレも行くのか』みたいな顔してたよな。橘さんと白鷺さんと三人で街に行くって言われて、なんで最初に出てくる言葉がそれなんだよ」
「急に三人で行くことになったから確認しただけだろ」
「そこは確認せずに受け入れろよ。俺なら誘われた時点で、もう行く以外の選択肢はないぞ」
隣で聞いていた花田が、少し呆れたように大野を見る。
「それ、橘と白鷺だからだろ」
「当たり前だろ」
大野は何がおかしいのか分からないらしく、当然のように答えた。
花田はそれ以上何も言わず、今度はこちらへ顔を向けた。
「まあでも、白鷺も元気そうでよかったよな。朝見た感じなら、もう普通に学校生活へ戻れそうだったし」
「ああ。しばらく無理はするなって言われてるらしいけど、授業を受けるくらいなら問題ないって言ってた」
オレが答えると、花田は安心したように頷いた。
「ならよかった。あの事件のあとだから、もう少し休むのかと思ってたよ」
花田の言葉に、高橋と大野も安心したように頷いた。
そのとき、教室の入口から聞き慣れない声が飛んできた。
「桐原朔也はいるか?」
名前を呼ばれ、教室の入口へ顔を向ける。扉のところに一人の男子生徒が立っていた。制服の胸元についている紋章は、オレたちと同じ一年を示している。声に気づいた何人かも入口へ顔を向けた。そのうちの一人がこちらを指すと、男子生徒は視線を向け、そのまま机の間を抜けて歩いてくる。
朝は白鷺が来て、昼は知らない男子。今日は妙にオレを訪ねてくる人間が多い。
男子生徒はオレの机の前まで来ると、こちらの顔を確認してから口を開いた。
「桐原朔也だな。俺は栗栖圭だ。学生会に所属している」
「学生会?」
反応したのは高橋だった。栗栖がそちらへ視線を向けると、高橋は胸元の紋章を見直すように目を細めた。
「いや、ちょっと待て。お前、一年だよな? 一年でもう学生会に入ってるのか?」
「ああ。一年だから入れないという決まりはないだろ」
栗栖は特に誇るでも謙遜するでもなく、当然のことを答えるように言った。
今度は大野が身を乗り出す。
「それでも入学してまだそんなに経ってないだろ。学生会って、そんな簡単に入れるもんなのか?」
「簡単かどうかは知らないが、実際に俺は入っている。そんなに珍しいことか?」
「珍しいだろ」
高橋が即座に返した。
栗栖はそういうものかという顔をしただけで、それ以上は気に留めなかった。少なくとも本人にとっては、そこまで驚かれるようなことではないらしい。
「それより桐原、放課後に学生会室まで来てくれ。月城会長がお前に話を聞きたいそうだ。久世先輩の件について確認したいことがあるらしいから、詳しい話はそこで直接聞いてほしい」
やはり久世先輩の件だった。数日前、学園長からも近いうちに学生会から事情を聞かれるだろうと言われている。むしろ、ようやく来たかというくらいだった。
「授業が終わってから行けばいいのか?」
「ああ。それで構わない。学生会室は本校舎の三階だ。中央階段を上がれば案内が出ている」
「分かった」
「なら、放課後に頼む」
栗栖は用件を済ませると、こちらへ軽く頷いて踵を返した。教室に入ってきたときと同じように、周囲を気にする様子もなくまっすぐ扉へ向かい、そのまま廊下へ出ていく。
姿が見えなくなってから、しばらく誰も口を開かなかった。最初に沈黙を破ったのは高橋だった。
「……なんか、いけ好かないやつだったな」
「ああ。俺も途中からそう思ってた」
大野も扉の方を見たまま頷く。
花田が二人を見比べた。
「そうか? 普通に桐原へ用件を伝えに来ただけだっただろ。どこがそんなに気に入らなかったんだよ」
「いろいろあるだろ」
高橋は当然のように言ったものの、具体的に聞かれるとは思っていなかったらしい。少し考えてから、栗栖が出ていった扉へ目をやった。
「まず、あの妙に堂々としてるところだ。一年で学生会に入ってるからって、自分が優秀なのを隠す気が全然ないだろ。それに『一年だから入れない決まりはない』とか、いちいち言い方が偉そうなんだよ」
「実際、一年で学生会に入ってるなら優秀なんじゃないか?」
「そういう問題じゃない。優秀でも、もう少しこう……あるだろ。謙虚さとか」
高橋が言うと、大野も腕を組んで頷いた。
「あと顔だな」
「ああ。特に顔がいけ好かん」
高橋は間髪入れずに同意した。
花田が二人の顔を順番に見る。
「お前ら、栗栖がイケメンだったから気に入らなかっただけだろ」
「違う。それだけじゃない」
「そうだ。今言っただろ、態度とかいろいろあるんだよ」
二人とも否定したが、さっきまでより微妙に歯切れが悪い。
花田は少し考えてから、高橋へ尋ねた。
「じゃあ、もし栗栖が不細工だったら?」
高橋と大野が黙った。二人はしばらく何かを考えるように視線を合わせ、高橋が腕を組んだまま口を開く。
「……まあ、今ほど気にはならなかったかもしれない」
「やっぱり顔じゃんか」
花田の一言で話は終わった。
ほどなくして午後の授業を知らせる鐘が鳴り、高橋と大野もまだ何か言いたそうな顔をしながら自分たちの席へ戻っていった。
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