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第83話 ダーティーファイト

 アヴァリスは、今回の決闘は不正をしてでも全力でリクレールをつぶしに来ている。

 おそらく仲介人に選出されたという教師も、裏で手を回されており、アヴァリスの勝利に加担しているのだろう。


(僕ってそんなに嫌われることしたっけな?)

『おそらく取るに足らない者たちが、主様メーテルが強くなったことが気に入らないと考えているのでしょう。所詮はそのような小物たちが考える浅知恵ですわ』


 アヴァリスがそこまで汚い手を使うことは驚くに値しないが、士官学校の教師が中立を放棄してまでアヴァリスに肩入れする、もしくはリクレールを嫌っているかもしれないという事実の方が、リクレールにとってよっぽどショックだった。

 正面で剣を構えるアヴァリスの表情は、すでに勝ちを確信して晴れ晴れとしているように見える。

 今頃彼の脳内は、どうやって倒すかではなく、倒した後にどのような屈辱を与えてやろうかと考えていることだろう。


(なるほど、戦わずして勝つ……ってことか)


 戦いの素人であるリクレールに、細かい剣の不具合など気が付かないと踏んでの作戦なのだろうが、気付いてしまえばこの決闘そのものをひっくり返すこともできる。少なくとも、中立の立場を表明した者は神聖な決闘を汚したとして責任問題となりかねない。


主様メーテル、ご安心くださいませ。先ほどのシャルンホルスト様の手品からちょうど閃いたことがございますので、これを利用して最大限に恥をかかせて差し上げましょう』

(期待しているよ)


 リクレールがあえて恐る恐るといった動きで剣を真横に構えると、仲介人の教師が「はじめっ!」と決闘開始を高らかに告げた。


(バカめっ、だからお前はいつまでも負け犬なのだ!!)


 アヴァリスはリクレールが想定通りの防御の形に構えたのを見て、頭蓋ごと叩き折ってやろうと勢いよく上段から剣を振り下ろす。

 が、振り下ろした剣は相手の剣を叩き折るどころか、何の手ごたえもなく空を切った。

 何が起こったのか、疑問を抱く前にアヴァリスの背中に強烈な衝撃と痛みが走り、彼の身体は勢いよく前方に吹き飛ばされて、顔から地面にたたきつけられた。

 あまりに一瞬で、あまりにも予想外の光景に、白竜学級や野次馬の生徒はもとより、応援していたはずの紫鴉学級の生徒たちまで驚きのあまり言葉を失っていた。


『ふうん、剣筋は悪くありませんわね。優等生を自称するだけはありますわ』


 エスペランサの言う通り、アヴァリスの斬撃の速さと鋭さは目を見張るものがあり、一流の騎士と比較しても遜色はなかった。

 だが、それでもエスペランサからみれば彼の剣の振りなど止まって見えるようで、斬撃を正面から受け止めると見せかけて一瞬で横に避け、相手が空振ったところに、剣身の腹で背骨に打撃を食らわせたのだった。


「うぅ……ちくしょうっ!」


 なんとか立ち上がったアヴァリスが、土と鼻血で汚れた顔を真っ赤にして再び剣を構えて突進してくる。

 今度は強引に押し切ろうと下からの斬り上げにかかるが、それも後ろに避けられたうえに逆に一撃を食らうと、こらえきれずに尻餅をつく。


「ぐっ……いっつ」

「よし、もらった」

「っ! よしっ!」


 リクレールが追撃しようと剣を大きく振りかぶる。

 不本意な態勢にはなったが、ここでアヴァリスが剣で受け止めれば、リクレールが持っている剣は破損して使えなくなる。そうなれば、一気に形勢逆転のはずだった。

 勝利を確信したアヴァリスが満を持してリクレールの振り下ろしを受け止めた時――――アヴァリスが持っていた剣は根元の留め具が飛び、根元から折れた。


「は…………?」

「降参する? それとも、武器なしで決闘を続ける?」


 アヴァリスは自分の身に何が起こったのか、すぐに理解できなかった。分かったのは、彼の喉元にリクレールの剣が突き付けられていたことだけだ。

 皮肉にも、アヴァリスが決闘を決意したほどの屈辱の場面が、ここで再現されてしまったのだった。


『ふふふ、主様メーテルの敵が間抜けな面を晒しておいでですわ。自分が仕込んだ不正で、自分が窮地に陥るとはなんたる皮肉でしょう』


 最初の一撃をアヴァリスに叩き込んだ際、エスペランサは一瞬の隙をついてお互いが持っている武器をすり替えたのだ。

 配られた武器は見た目が同じだったことが災いし、アヴァリスがすり替えられたことに気が付くことはできなかった。

 こうなってしまうともはや勝負あり、あとはアヴァリスが負けを認める以外にほかはない。

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