第84話 勝利と屈辱
「やったぜリクレール! 俺は勝つって信じてたぞ!!」
「さっすがはリクレール君! リクレール君は男が違うねっ!!」
「お前ら……真っ先に決闘に反対していたのに、調子のいいことだな。しかし見事な勝ちっぷりだった、私もスッキリしたぞ」
ゼークト、スーシェ、モンセーをはじめ、紫鴉学級の生徒たちはリクレールの圧勝に歓喜の声を上げた。
「ウソでしょ!? こんなのは何かの間違いよ、あってはならないわ!」
「ふ、不正だ!! 決闘に使う剣があんなに簡単に壊れるのはおかしい!!」
「そうだそうだ! 決闘をやり直せ!!」
一方で白竜学級の生徒たちは、アヴァリスが持っていた剣が不良品だったことが彼の敗因だったことに怒り、口々に決闘をやり直すよう迫ったのだった。
そんな中、勝者となったリクレールは勝利を喜ぶことなく、淡々と冷酷に、アヴァリスに負けを認めるよう迫った。
「早く負けを認めないと、屈辱の時間が長引くよ? それとも今度はきちんと喉を刺してほしい? 言ってごらん?」
「り、リクレール君! そこまでだ、これ以上アヴァリス君を痛めつける必要はあるまい!」
ここで、仲介人を引き受けた教師がこれ以上はやりすぎだと判断したのか、二人の間に割って入って戦いを止めた。
「では先生、判定で僕の勝ちということでいいんでしょうか」
「ああ……そ、そうだな。君の勝利で間違いないよ、うん」
「じゃあついでに確認ですが、先生にもらったこの剣――」
『主様っ』
配られた武器のうちの一つが不良品だったことを問い詰めようとしたところで、エスペランサは背後から攻撃の気配を感じ、一瞥することなくその場に片膝をついて、間一髪で横薙ぎの剣尖を避けた。
リクレールを斬りそこなった剣の切っ先は、不幸にも仲介人の教師の頬を横一文字に切り裂いてしまった。
「うわぁっ!?」
「っ!? アヴァリス、まだやるつもりなの!?」
「当たり前だ……俺が負けるはずが、ねぇっ!!」
死んでも負けを認める気がないアヴァリスは、破損した剣を手にしながら、卑怯と言われることすら覚悟して、背を見せて隙だらけだったリクレールに攻撃してきたのだった。
だが、それすら避け切ったリクレールは低い姿勢のまま素早く身をひるがえし、彼の右手を蹴り上げて強引に武器を手放させる。
さすがに今の行為は命の危険があっただけに、穏便に済まそうとしていたリクレールもとうとう怒り心頭に発した。
「そうかそうか……まさか君がそういう奴だったとはね。だったら、僕も遠慮しなくてもいいよね?」
『そうですわ主様。もはや決闘を越えた殺人未遂に他なりません。このような卑怯者は一思いに殺してしまうべきです』
「ひっ……く、くるなっ!」
エスペランサの艶やかな声がリクレールの脳内に甘く語り掛け、彼はその声に導かれるように剣を強く握った。
その表情はもはや弱気だった軟弱な少年貴族のそれではなく、アヴァリスからみればまるで死刑執行人のように見えたことで、彼は恐怖のあまり口から泡を吹いた。
だが、それを見た白竜学級の生徒たちは慌ててリクレールを止めようと駆けつける。
「ま、まずい! このままだ級長がリクレールに殺される!」
「決闘とかどうでもいい! 加勢するぞ!」
「こうなったら俺が直接っ……! ここで、いまこそっ!!」
その中で真っ先に躍り出たのは……正門でのいざこざの時、リクレールにものすごい恨みの籠った視線を向けていた青髪の男子生徒アルトーだった。




