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第75話 級友たち

 一方、白竜学級の生徒たちの妨害を退けたリクレールとシャルンホルストは、二人で校長の元に赴き、正式に退学届を提出した。

 家の都合とはいえ、それなりに優秀だった生徒が二人退学するのは士官学校としても痛手のようで、何度か翻意を促す言葉もあったが、二人の意志は変わらず、この日をもって二人は正式に退学となった。


「まさか校長先生にあんなに引き留められるなんて思わなかった。僕のことなんて名前と顔が一致してるかすらも怪しいと思っていたのに」

「リクが思っている以上に先生たちの評価は悪くなかったってことだろう。なんだかんだで、紫鴉学級の中でも学力じゃ俺すらも上回ってトップクラスだったし、嫌ってるのはデュカス先生くらいだろ」

「そんなものかな……だったら学校にいる間に直接言ってくれればいいのに」

「まあそう言うなって。リクは自分を過小評価するのが悪い癖だ。それにほら、あれを見ろよ」


 そう言ってシャルンホルストが廊下の先を指さすと、紫鴉学級の教室の前で大勢の生徒たちが二人を待っていた。


「おーいリクレール! ようやく帰ってきたのに、すぐにさよならなんて淋しいじゃねぇか!」

「シャル君から聞いたわ……二人とも、学校辞めちゃうって……! もう一緒に学べないなんて悲しいじゃない!」

「せめて今日くらいはみんなで一緒に授業受けよっ!! その後はみんなで食堂で送別会するから!!」

「と言うわけだ二人とも。私たちのわがままで申し訳ないが、一日だけお付き合い願えないだろうか」

「みんな…………」


 紫鴉学級はリクレールとシャルンホルストを含めて総勢50名、その中でも特に親しかった友人――ゼークト、サンシール、スーシェ、モンセーらが中心となってあっという間に二人を囲んだ。

 校長先生に何度引き留められてもなんとも思わなかったリクレールも、2年間共に過ごした学友たちから別れを惜しまれると、とたんに猛烈な未練が湧き上がってくるようで、思わず涙をこぼしそうになった。


「ごめん、急に学校を辞めることになっちゃって。僕だって、姉さんが生きていたら、卒業までみんなと一緒に学んでいたかった……」

「お姉さんのことは……その、残念だったな。おまけに、リクレールの歳で侯爵家を継ぐことになるなんて、苦労は計り知れないだろうよ。俺が卒業したら、真っ先にお前のところに仕官しに行ってやるから、俺の席開けといてくれよな!」

「あはは、ゼークト先輩はちゃっかりしてるね。でも……本当に力になってくれるなら、とても嬉しいよ」


 学級内で一番ガタイのいい青髪の男子生徒ゼークトはこのクラスでは珍しい平民出身で、明るく物怖じしない頼もしい兄貴分である。

 また、線の細い生徒が多い紫鴉学級の中では貴重な前衛担当でもあり、学級対抗の模擬戦では大きな斧を振るって毎回大きな活躍を残している。

 少々……いや、結構ガサツなのが玉に瑕ではあるが、リクレールは彼の明るさや勇気に何度も助けられ、先輩として大いに慕っている。


「噂には聞いていたけど、なかなかそそる濃紫の大剣ね……魔を切り裂き、その身から零れ落ちた邪悪な鮮血を飲み干してなお満ち足りぬ……そんな鋼の獰猛さを感じるわ!」

「相変わらず言ってることの意味が分からないんだけど、褒めてくれたってことでいいんだよね、サンシール?」

『この娘は武器を見る目がおありのようですわね。わたくしも誇らしいですわ!』

(エスペランサには通じるんだ……)


 灰色の髪をボリューミーな巻き巻きツインテールにし、仕官学校の制服をゴスロリ風に改造して着用している、エキセントリックな見た目の女子生徒サンシール。

 彼女は見た目だけでなく言動もエキセントリックであり、リクレールが背負う魔剣エスペランサを見るなり、目をダークに染めながら独特の表現でほめちぎってきた。

 だがこんな身なりではあるが、サンシールは召喚魔術士の名家出身で、召喚術の新理論を発表するほどの才媛である。

 その言動にたまについていけないこともあるが、リクレールとは読書好きという共通点もあり、彼女とは図書館のスペースで歴史や施政についてよく意見を交わしていた。


「シャルから聞いたよ、二人はもう訓練じゃない実戦を経験したんだよね! 羨ましいなー、あたしも早く騎士になって戦場で敵をバッサバッサなぎ倒してみたい!」

「いや……実戦なんて楽しいものじゃないから。僕なんかいまだに初陣の夢で魘されるくらいだし」


 小柄でオレンジ髪ショートヘアをした、学級一のムードメーカー女子スーシェは、東帝国の侯爵家令嬢であるにもかかわらず、戦場に立って活躍することを夢見ている。

 しかも、戦場での活躍で得られる名声ではなく、戦い自体に価値を見出している戦闘狂予備軍であるが、一方で古今東西の戦史にも興味を持っており、戦術研究ではリクレールも彼女から学ぶことは多かった。


「ふん、まったく……貴族の家というのは面倒なものだな。とはいえ、マリアさんには私も何かと世話になったし、リクはしっかりと跡を継げたようでようでなによりだな」

「うん……一時はどうなるかと思ったけど、奇跡的に何とかなったよ。これからは、姉さんの仇討ちのために、僕が魔族を打倒さなきゃならない。そのために、ここで学んだことはすべて生かすつもりだ」

「仇討ち、か。私も仕返ししてやりたい奴らはいるが、身内だからな。お互いままならんな」


 そして、腰まで伸びた完全に白一色の長い髪の毛に、陶器のように白い肌、宝石のような深い紫色の瞳が特徴的で、常に車椅子で移動している女子生徒モンセー。

 代々強い騎士や勇者を輩出した由緒正しき貴族家において、生まれつき足が不自由だったせいで家族及び親類から見放されていたが、家を見返すべく魔術や学問を必死に学び、今では学年一の天才とまで言われている。

 リクレールとは(姉のマリアとの関係は除き)実家から虐待された経験と、先天的に武術が苦手という共通点があったため、お互いにシンパシーを感じているのみならず、アンクールの町の農地改革においてもアドバイザーとして大いに活躍してくれた。

 これらの友人たちに別れを惜しまれつつ揉みくちゃにされながら、リクレールとシャルンホルストが教室に入ると、紫鴉学級の担任教師であるウルスラが少し寂しそうにしながらも優しい笑顔で二人を待っていた。

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