第66話 内紛の兆し
「経緯を話すと長くなるんだけど、僕たちはアルクロニスに来る前に、帝都で高く売れそうな交易品をいくつか見繕っていて、色々な地方の物品の価格を調べていたんだ。そうしたら……西帝国内全体で武器や防具、食料全般の価格が不自然に高くなっていてね。いつも通りの値段なら、東帝国に運ぶだけでも十分利益を得られたはずなんだけど……」
「それは妙な話だな。武器や防具はまだしも、秋作物の収穫は終わったばかりだから、この時期は食料が一番安くなるはずなんだが」
「私も出発前にリクからその話を聞いたけど、特に西の海沿い地域で食糧や武器防具の値段が上がっているわ。ここまで価格が変動するということは、どこかの国が戦争の準備をしていると見ていいはず」
「うん、そして西帝国内で領内紛争を起こしそうな地と言えば……ユルトラガルド侯爵家と長年領土係争を抱える、ブレヴァン侯爵家だろうと僕は思うんだ」
「なるほどな……」
シャルンホルストはリクレールの話を聞いて思わず苦い顔をした。
彼の実家であるユルトラガルド侯爵家は、南に隣接するブレヴァン侯爵家との間で、国境沿いにある金鉱山をめぐってたびたび対立してきた間柄だった。
そして昔から幾度も同じ西帝国内諸侯同士で小競り合いを引き起こしていたが、現在の西帝国皇帝は「今は魔族との戦いに集中すべき」というもっともな理由で帝国内諸侯の私戦を全面的に禁止しており、その上両侯爵家の領土争いにおいてユルトラガルド家を全面的に支持したため、金鉱山とその周辺はユルトラガルド侯爵家が全面支配している。
宿敵のブレヴァン侯爵家は当然この裁定に激しく不満を抱いており、皇帝が定めた協約を無視してでも失った領土を取り戻そうと虎視眈々と狙っている。
「そして、なぜ今このタイミングでというのも何となくわかる。西帝国軍は魔族との戦いでアルトイリス家以上に大勢の兵を失って、兵力を回復するのに当分時間がかかるだろうから、今のうちに領地をかすめ取るつもりなんだろう。…………ブレヴァン侯爵家は、先の戦いで軍を動員しなかった。もしこのことを見越して兵を温存していたのであれば、僕としても到底許しがたい」
「リク…………」
リクレールの言う通り、マリアが戦死した魔族軍との戦いでは、主力である西帝国軍本体も大損害を受けており、大勢の将兵が犠牲になっている。
その一方で、ブレヴァン侯爵家は何かと理由をつけて戦いに参加しなかったため、軍は無傷の状態にある。
もしか彼らがきちんと戦いに加勢していたら、マリアが戦死する事態を招かずに済んだ可能性があると思うと、リクレールとしてもやりきれない思いだった。
「まあ、これはあくまでも僕の推測にすぎないから、本当にブレヴァン侯爵が内乱を起こす気があるのかはまだ分からない。この後どうするかは君次第だ」
「いや十分だ、ありがとう……俺もようやく決心できた」
「決心?」
シャルンホルストは一度静かに目を閉じると、息を大きく吐きながらゆっくりと瞼を開く。
昔から、重大な決心をしたときのシャルンホルストの癖だ。
「リクは士官学校を辞めるんだろ? 実は俺も、士官学校を退学しようと思う」
「え!? ど、どうして!?」
シャルンホルストもまた士官学校を辞めると聞いて、リクレールとヴィクトワーレが驚いて目を大きく見開いた。




