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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第3章 ミュレーズ家からの招待状
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第64話 人より旗の方が偉くて権威がある

 アルトイリス家は一応西帝国に所属している侯爵家であるが、東帝国の帝都にも滞在用の館を持っており、東帝国内で活動する際の拠点として利用している。

 もっとも、アルトイリス侯爵家はその特殊な出自により、どちらかと言え西帝国より東帝国の方が関係が強く、現にセレネが新たに当主となったミュレーズ家とは一世紀以上にわたって家ぐるみで親密な関係があった。

 そのため、リクレールも幼いころから何度もアルクロニスのタウンハウスで生活していたので、気分的には第二の実家に帰ってきたかのような気分だった。

 そんな時、リクレールたちは前方で広い道を埋め尽くさんばかりの人込みを発見した。


「あ……あれは、ミュレーズ家の館……すごい人だかりだ」

「本当ね……さすが東帝国の有力諸侯となると弔問客の数も桁違いだわ」


 リクレールにとってとてもなじみ深い、白を基調とした高級感あふれるミュレーズ侯爵家の館の門前は、葬儀に訪れた貴族や有力者たちでごった返していた。

 困ったことに、アルトイリス家のタウンハウスはミュレーズ家のすぐ向かいにあるため、リクレールたちは丁重な姿勢で道を譲ってもらうことにする。


「申し訳ないけど、そこを通りたいんです。道を開けていただけますか?」

「なんだね、君は? どこの小貴族か知らないが、割り込みとは感心しないな」

「何をやっているのか知らないのか? 回り道するんだな」

「何をやっているのかですって? それは私たちのセリフよ。ベルサ、旗を出しなさい」

「はっ」


 ヴィクトワーレに命じられたベルサが、荷物の中からコンクレイユ侯爵家の旗を取り出して掲げると、彼らをぞんざいに扱っていた人々は飛び上がらんばかりに驚愕し、まるで波が引くようにずらっと道を開けた。


「も、申し訳ございません! ま、まさかコンクレイユ侯爵家の方とは……」

「ご……ご無礼を、お許しください!」

「言っておくけど、あなたの目の前にいる子はアルトイリス侯爵家の当主だから。あまり人を見かけで判断しないことね」

「へへ~っ!」

「…………」


 リクレールやヴィクトワーレが通ろうとしても、鼻で笑うだけで道を譲らなかった尊大な貴族たちが、旗を見せるだけでたちまち平身低頭して道を開ける…………リクレールは思わず、先日アザンクール山脈で出会った山賊たちのことが脳裏をよぎった。


(あの時山賊たちは……魔剣を見て慌てて降伏した。そしてこの人たちは、トワ姉が旗を見せただけで道を開けた。……まるで僕なんかよりエスペランサや旗のほうが偉いみたいだね)

『主様が不快に思うのはごもっともですわ。ですが……このように無知は人間の本性をさらけ出すのですわ。いつか主様が本物の『暴君』となり、人々が自然に頭を下げるようになった時、彼らは主様に本性を隠すようになることでしょう。ある意味で、今のうちが人の本音を見極める機会、と言えましょう』

(なるほど……そういう考えもあるのか)


 左右に分かれた人の波を見ながら、リクレールはエスペランサの言葉を反芻する。

 確かに、先ほどリクレールに突っかかってきた貴族たちはどいつもこいつも家柄をかさに着た傲慢な人間だったが、全員がそういうわけではなく、無言で道を開けようとしたり、道を譲らない貴族を咎めようとした者もおり、反応は千差万別だった。

 だが、こうしてヴィクトワーレが侯爵家の旗を掲げたとき、彼らは一斉に頭を下げて道を譲る以外はしなくなってしまった。


(信頼できる人間をすぐに見分けられるのも、ある意味今のうち、というわけか)


 そんなことを考えながらミュレーズ家の家の前を通り過ぎると、ようやく目的地であるアルトイリス家のタウンハウスが見えてきた。

 西帝国の有力諸侯だけあって、アルトイリス家が所有するタウンハウスは周囲の家に比べてもかなりの大きさを誇っている。

 堂々とした赤い屋根に、強さを誇示するような黒いレンガ、そして見るからに堅固そうな白亜の外壁は、もはや館というよりちょっとした砦のようにも見えた。

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