第510話 他人行儀
「リクーっ! 久しぶりーっ! まさかもう会えるなんて、嬉しいっ!」
仲のいい幼馴染に半年ぶりに会えた嬉しさで、満面の笑みで駆けつけたセレネだったが…………リクレールの方は、その場で恭しく一礼すると
「ミュレーズ侯爵セレネ様、そしてノルン侯爵エンヴェル様、この度は我が西帝国の皇太子レオニス殿下の即位式の為、遠路遥々お越しいただき光栄に存じます。事前にお伝えできていませんでしたが、アルトイリス侯爵リクレールがご案内いたします」
「あ、あれ?」
絶対にないと思っていた他人行儀な反応。
驚いてセレネがリクレールの顔を見ると……リクレールは若干申し訳なさそうな顔をしていた。
「姫様。リクレール様は今、友人として出迎えているのではなく、西帝国のアルトイリス侯爵としての仕事として、お出迎えしているのですよ」
インテグラからそのように耳打ちされてはっとしたセレネは、もう遅きに失してはいたが、リクレールにはこれ以上恥をかかせないよう、有力諸侯としてのふるまいに切り替えた。
「……そっ……か。そうだよね……ご無礼な態度で申し訳ございません、アルトイリス候。ミュレーズ侯爵として、厚くお礼を申し上げます」
「仕事か、ならしゃーねーな。ノルン侯爵エンヴェルだ、これからしばらく世話になる。改めて、ご厚意に感謝申し上げる」
エンヴェルもこのような格式ばった挨拶はあまり好きではないし、久しぶりに会った親しい後輩と気兼ねなく話したかったが、あいにくリクレールは皇太子レオニスの直々の命令で、特に大切な来賓であるこの二人のもてなしをすることになったので、友人として相対することはできなかった。
『まったく、あの小娘ときたら、戦場で多大な戦功を挙げたと聞いていましたのに、精神面の成長があまり見られませんわ。主様がこうして、侯爵としての正装で出迎えていることの意味を、少しは考えるべきですわ』
(まあまあ、そんなこと言わないで。あの二人だったら、僕が来たら個人的な出迎えだって勘違いしても仕方ないよ)
セレネに相変わらず辛辣な評価のエスペランサと、それを内心で宥めるリクレール。
もちろんそのようなことは全く顔に出さず、リクレールはあくまで仕事として二人を帝都内を案内することになる。
メインストリートを、リクレールと共に宮殿まで進むセレネたちは、遠く西帝国でもその名が知れ渡っているせいか、沿道には大勢の人々が押し寄せ、その姿を一目見ようと建物屋根まで人で埋め尽くされた。
先頭を黒馬ネージュに跨りながら進むリクレールは14歳で、そのすぐ後ろで手を振りながらアイドルのような笑顔を見せるセレネは15歳、彼らよりも年長のエンヴェルでさえ21歳と、帝国の英雄たちは若いというより「まだ幼い」とさえいえるほどなのだが、彼らの堂々たる足取りは、子供っぽさを一切感じさず、むしろ沿道で前に出すぎた市民がその威容に圧倒されて、後ろにいる人諸共、自然に足が後退していくほどだった。
ただ、セレネは内心、このように英雄扱いされて、貴族のようにふるまっている時間があまり好きではない……いやむしろ、出来ればやりたくないくらい嫌いだった。
(私はただ、リク君と久しぶりに会って話して、一緒に過ごしたかっただけなのに……けど、インテグラの言う通り、仕事で来たんだから、ちゃんとやり遂げないと)
そんな贅沢な悩みを抱えながらも、一行はメインストリートを沸かせながら宮殿に入り、予め用意された場所に案内された。




