第364話 父子の再会
深緑色のオールバックに、6スリエ(約183cm)を越える堂々とした体躯の壮年男性ランツフート。
士官学校に行っていた次男シャルンホルストとは、ほぼ1年くらい顔を合わせていなかったが、そんな親子の感動の再会がまさか敵陣地内になるとは誰が想像し得ただろうか。
「まずはロパルツ将軍、書状は受け取った。そなたの勇気ある決断に感謝する。我がユルトラガルド家はそなたと何度も剣を交えた間柄ではあるが、我らは同じ帝国人同士だ。たがいに剣を納め、今は手を取り合おうではないか」
「ご子息に続いて、候自らがお越しとは……寛大な処遇に感謝いたします。しかし何ですな……親子だけだって、同じ言葉をかけてくださるとは」
「なにっ、同じ言葉だっただとぅ! おいシャルン、お前はちっとも家に顔を見せないくせに、いっちょ前に兵を率いて好き放題やって、あまつさえ俺の決め台詞まで取るたぁ、怪しからん活躍ぶりだ。これじゃ親父の立つ瀬がねぇだろうがよ」
「あでででで! それが助けてもらった側のセリフかよ親父! 俺が兄貴みたいなマッチョじゃなくて、頭の中がマッチョなのがそんなに気に入らねえのかよっ!」
降伏したロパルツには、奇しくもほぼ同じセリフで降伏を受け入れたランツフートは、シャルンホルストに会うやいなや、まるでじゃれるようにヘッドロックをかます。
シャルンホルストは理不尽な歓迎と痛みに抗議したが――――
「……本当に、お前が無事でよかった。こうして、お前を抱きしめられることは二度とないだろうと覚悟していたくらいだ」
「親父こそ、元気そうでほっとしたよ。正直、うちが包囲されたと聞いた時、俺もすっかり取り乱して、リクが宥めてくれなければパニックになっていたかもしれない……」
痛くしたのは初めだけで、ランツフートはシャルンホルストのやや細い体を、優しく抱きしめなおした。
4万人もの大軍に取り囲まれ、城壁も突破される寸前まで追い込まれたこともあり、彼の言う通り二度と会えないことも覚悟していたので、こうして生きて再会することはランツフートにとって人生で一番うれしく感じることだろう。
一方シャルンホルストの方も、交渉のために立派な衣装を着ているとはいえ、以前顔を見せた時よりも明らかにやつれ、疲労がたまっているのか動きが全体的にぎこちない父親を見て、自分の力で助けることができて感無量であった。
このまま感動の再会の時間を堪能したいところであったが、親子はお互い直ぐに相手を抱きしめるのをやめると、すぐに気持ちを切り替え始めた。
「親父、悪いが俺にはまだやることが残ってる。悪いが、母さんや兄貴に顔を見せるのは後でいいか?」
「ははは、お前のことだからそう来ると思った。いいだろう、気が済むまで存分に暴れてこい。ただし、最後の詰めを誤って死ぬなよ? それと、ユルトラガルド軍は連日の戦闘で披露が激しく、しばらくは動かせんから当てにはしないでくれ。ウルスラ先生も済まない、もう少し息子の戦いに付き合ってやってくれ」
「お任せください、侯爵様。ここまで来たのですから、生徒を誰一人として死なせはしません」
「それとロパルツ殿、降伏は受け入れるが一つ条件がある。そなたの指揮下で動かせる兵がいれば、我が息子シャルンホルストと共に、撤退するブレヴァン侯爵軍を後ろから追撃してほしい。そこで戦果を挙げれば、我が侯爵家の中でも受け入れを渋る者も少なくなるだろう」
「もちろん、喜んでやってやりますよ……! いけ好かない元同僚どもを好きなだけ殴り返せるいい機会ですからな、ふふふ……!」
「思っている以上にギスギスしてんなぁ……」
こうしてシャルンホルストは、家族の無事を祝う前に、殿が降伏して背中ががら空きになったブレヴァン侯爵軍に最後の一撃を加えるため、そのまま追撃戦に移行することにした。
そして、降ったばかりのロパルツも、ブレヴァン侯爵軍と手切れしたことを示すため……そしてついでに(どっちかと言えばこっちが本命のようだが)、今まで散々自分をコケにしてくれたかつての同僚たちに仕返しすべく、出撃の準備に移るのだった。




