第344話 もっと重要な作戦
「すまない親父……もう少しで奴らを追い詰めることができたんだが、デュカス先生が亡くなったとたん、クラスメイト達が戦いを放棄した……俺がもっと強く言い聞かせていればこんなことにはならなかった」
「いやよい、将兵を失ったのは痛いが、アルトイリス軍の援軍はもはや暫く主だった行動はできまい。それだけでも価値のある結果だ」
「そ、そうだ親父! シャルンホルストの奴らには大きな被害を与えた! あいつらは東の川沿いに陣地を作っていたが、ロパルツが持っている兵がいればきっと撃破できるはずだ! そしてそこからアルトイリス侯爵領に直接乗り込めば――――」
「まあ待てアヴァリス、せっかく戻ってきたところだが、お前にはもっと重要な作戦を任せたい」
「もっと重要な作戦?」
「ああ……不届きなことに、あのアルトイリスを継いだ小僧が、我らの領地を直接狙おうとフォントラル侯爵領に侵略してきたようだ。お前には、急ぎ兵をまとめてフォントラル侯爵領に援軍に行ってもらいたい」
「まさか、リクレールの奴が実家を直接狙うだって!? あいつは正気か!? あいつ一人で何ができるというんだ!?」
アルトイリスを継いだ小僧――――リクレールが、なんとブレヴァン侯爵領を直接狙おうとしていると聞いて、アヴァリスは二重の意味で驚いた。
彼はてっきり、リクレールはシャルンホルストの方に援軍に行くか、もしくはずっと城に籠っているものだと思っていた。
そもそもアヴァリスは白竜学級内でいじめられていた頃のリクレールのイメージしか頭にないので、魔剣エスペランサを片手に戦場に乗り込んでくるイメージも持っておらず、ましてや士官学校内でも一二を争うほど戦史に精通し、戦術の研究に勤しんでいたことなど知る由もなかった。
なので、リクレールがブレヴァン侯爵領を直接攻撃するような、博打的な作戦をするとは思っても見なかったのだが……アヴァリスはすぐに、これはチャンスだと思い至った。
(あいつの方からノコノコ城から出てくるのであれば話は早い……! どうせ奴がフォントラル侯爵領の首都までたどり着くのに、1か月はかかるはずだ。そして今度は俺の方が、疲弊している奴らの軍を蹂躙し、そのまま逆にアルトイリス領に攻め込んでやる!)
アヴァリスの脳裏には、情けないリクレールが率いている弱卒たちを、精鋭の帝国兵で蹂躙し、そのままアルトイリス城に攻め込んで彼らの町を火の海にする妄想が映っていた。
もはや手持ちの帝国兵も少なく、率いる学生もかなり減っているにも関わらず、ここまで強気な空想ができるのは、ある意味お目出度いと言うべきか。
(レイアやデュカス先生の仇を討つのは後回しになってしまうが、ここで俺が勝てば今までの不利は一気に覆せる! 待ってろよレイア……お前の犠牲は、俺が無駄にしない!)
などと、最愛の人の犠牲を一番無駄にしている張本人が、胸中でそう強く誓うのだった。




