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第331話 免奪税

 ブレヴァン侯爵領は、フォントラル侯爵家にある大森林から続くいくつもの川が豊かな栄養が運ばれてくることで、西帝国の中でも1,2を争うほどの肥沃な土地を持っている。

 それに加え、現当主トライゾンのさらに先代から、自由交易都市同盟と急速に親交を深めたことで、商業的にも成功し、トライゾンの頃には帝国で最も資金力が豊富な諸侯となった。

 これもひとえに、内政手腕に優れたトライゾンの才覚によるもので、彼はこの豊かな財政を背景に大規模な軍隊を組織したのだが……その軍隊は、西帝国最大の敵である魔族軍より、同じ帝国内の諸侯に向けられることの方が多かった。


 トライゾンはオルセリオ協約が制定されるまでの間、周囲の中小貴族の領地を、謀略と軍事力を駆使して次々に併合し、その力を急激に膨らませていった。

 だが、それでもなお、彼の権力欲はとどまることを知らず…………とうとう皇帝を謀殺し、自分の息子を後継者に据えようとするところまで行き着いた。

 そんなトライゾンの力と、権力欲の源泉こそが、今まさにアルトイリス軍が無人の野を行くがごとく進軍しているブレヴァン侯爵領なのだ。


「各地の有力者に次ぐ。今からこの地は、暫定的に我らアルトイリス侯爵家が支配する。そして今、僕の配下には血に飢えた戦士たちが多数いる。彼らを番犬のように繋いでおくには、給金という名の餌が必要だ。もし、君たちの血肉や財産を食い尽くされたくなかったら、アルトイリス家が新たに定める「免奪税」を支払ってもらう。諸君の賢明な判断に期待している」


 ブレヴァン侯爵領についてすぐ、リクレールはこのように宣言すると、進路上の村や町、そして軍事拠点に至るまで、デルセルトの部下たちを介して通達させた。

 これには、各地の有力者や、戦いに参加しなかった貴族たちは大パニックに陥った。


「アルトイリス軍がもう来たのか!? いくら何でも速すぎる!」

「や、奴らはつい昨日までフォントラル侯爵領を攻撃していたはずでは!? まさか、フォントラル侯爵が彼らを素通りさせたのか!?」

「今この国には軍隊はいないんだぞ! 一体どうすればいいんだ……」


 突然領地に侵入してきて「高い税金を払え」と言われるなど溜まったものではなかったが、彼らの言う通り、今この国の軍隊はすべてユルトラガルド侯爵家への侵略に出向いてしまっており、出来ることと言えばなけなしの武器をかき集めて、戦いの経験すらない若者たちを急場しのぎの兵士にするくらいだった。

 もちろん、その程度の防備で太刀打ちできる相手ではないことは分かり切っており、まず国境付近にある村や町の半分以上は戦わずして降伏し、免奪税の支払いに合意した。

 だが、それでも中には無謀にも降伏せずに税金の支払いを拒否する町もあった。


「わ、我が町は反乱軍になど屈指はしない! 急いで自警団を編成しろ!」

「聞いた話では、アルトイリス侯爵軍はフォントラル侯爵領で略奪をしなかったという……であれば、特に税を支払わなくても、見逃してくれるのでは?」


 ある町はプライドから、またある町はアルトイリス侯爵を侮る気持ちから、リクレールの通達を拒否、あるいは黙殺するという対応を取った。


「リクレール様、付近の拠点のいくつかがリクレール様の勧告を拒否し、抵抗する構えを見せております」

「本当にやるのね、リク?」

「……うん、これは一種の見せしめだ。傭兵たちを訓練した時のように、人は痛い目を見ないとわからないことが多いからね。その代わり、やるからには徹底的にやる。下手に禍根を残さないように、地図から消すくらい徹底的に」


 リクレールはサミュエルとヴィクトワーレに、通達に従わない町の徹底的な破壊を命じたのだった。

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