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第298話 墓参り

 アルトイリス城の最奥にある、こじんまりした庭園の真ん中に、つい最近できたばかりの白い大理石でできたモニュメントがある。

 これは、リクレールが腕のいい石工に依頼して作ってもらった姉マリアの墓標であり、マリアを模した天使のような彫刻と、彼女がどれだけ偉大な人物であったかが記された石碑が、綺麗に磨かれた墓標に嵌め込まれていた。

 そして、周囲には1年中絶えず季節の花が咲くように花壇が配置されているだけでなく、リクレールをはじめ彼女を慕う人たちが、毎日のように献花するので、モニュメントの周囲は毎日彩り豊かだった。


「ごめんね姉さん、今日は寝坊しちゃって。でも、姉さんのおかげで、久しぶりにゆっくり休めたよ」


 昼食を終え、いくつか喫緊の仕事に指示を出した後、リクレールは改めて姉の墓前に立った。


 この日はもうすでに夕方に近いが、いつもであれば彼は朝日が昇る前に起きて、東の空が明るくなり始めるころに欠かさず墓参りをしてきた。

 昼食や夕食を抜いたり、時には睡眠すら忘れそうになるほどの多忙でも、リクレールがこの城にいる間は欠かさず足を運んでは、少しの間物言わぬ墓石を前で、姉との思い出に浸るのが常だった。

 今は中心にモニュメントが鎮座するこの場所も、姉マリアとの思い出が濃い場所の一つだった。


 芝の上で膝枕してもらったり、一緒に花冠を作ったり、本を読んでもらったり……両親から期待されていなかったリクレールにとって、自分のすべてを肯定して甘やかしてくれた姉の存在は、これからも永遠に心から消えることはないだろう。


「リク、やっぱりここに居たのね」

「……トワ姉」

「なかなか起きないって聞いたから、ちょっと心配したけど……うん、むしろ元気になってるみたいでよかったわ」


 リクレールが目を瞑ったまま思い出に浸っていたところで、背後からヴィクトワーレの声がしたので振り返る。

 彼女もまた手に花束を持っており、リクレールがいるタイミングを見計らって、同じく墓参りに来たのだろう。

 マリアが好きだった白色の花を中心とした束を、そっと彫像の前に捧げると、ヴィクトワーレは改めてリクレールの方を向き直った。


「うん、本当に元気そう。何かいいことあったのかしら?」

「実は久しぶりに悪い夢を見なかったって言うのもあるんだけど……そのかわり、夢の中に姉さんが出て来たんだ」

「まあ! マリアがリクの夢の中に! そ、それでどうしたの?」

「話すのもちょっと恥ずかしいけど……昔姉さんがしてくれたように、優しく抱きしめて、頭を撫でてもらってた。それがとても心地よくて、レイが起こしてくれなかったら、ずっと夢の中だったかも……なんてねっ」

「そう、なんだ……」


 ヴィクトワーレは一瞬複雑そうな顔をしたが、すぐに笑顔で「それはよかったわ」と返した。

 出陣の前日くらいゆっくり休まないと、戦いに支障をきたすからと言って、リクレールを無理やり早めに休ませたのはヴィクトワーレだったが、なんだか手柄を横取りされたような気分がして、若干面白くなかったのだろう。

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