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雨に濡れていながらも、やはり蓮の笑顔はきれいで、蓮の胸にしんしんと灯が紡がれていく。
ほとんど砂と化してしまっている鐘の搭。
そこにあるのは日々の短さでは到底くるんで抱き締められるようなものではない、たくさんたくさんすぎる色ばかりで。
つぶれていく鐘の搭。崩されていく鐘の搭。なくなっていく鐘の搭。
胸が、押し潰されていくようだった。思い出と過ごした楽しさが柱となって、確かに日々があったと言う形が、目に見えて安堵していたものがなくなると言う今を受けて折れそうになる気持ちを支えていた。
柱がある。蓮の中で全てが消えて崩れていっているわけではない。れんから広がる七枚の翼を見ながら純粋にこう思う。
だからこそ、とても苦しい。
怖いくらいに頭が冴え澄んでいて、驚くと言うことすらなかった。
色んなところで生まれた蓮の中の違和感。その姿が今はっきりと姿を現して“あい”らしく泣き笑う。
見なかったし、避けてきた答えたち。それが泣きながら走ってきた蓮にたくさん教えてくれた。
きっとれんが言うだろう言葉を察することが出来る。
「“逢”えて嬉しいわ。蓮ちゃん。…………でも」
でも。
その次に生まれる言葉は、本当に……本当にあっさりと……すんなりと、まるで最初から浮き上がる気泡のように身体中に教えた。
きっとれんはこう言うだろう。
もう“逢”いたくないの。と。
間違いなく、言うだろう。
雨が止んできたのに、れんの翼は執着している場所を……鐘の搭を壊すことをやめようとはしない。
執着している場所を壊そうとするのは“悪魔”にみられる行動で……悪足掻きながらもやはりれんが“悪魔”であることを強く強く決定付けていた。
それが蓮に矛盾を抱かせる。とても馬鹿馬鹿しくて、身勝手で、酷く人間らしいことを。
止めた筈の涙が再び姿を見せた。
それを意識する前に蓮の足は浮いて、水溜まりを踏みしめて、駆けるようにれんへ行っていた。
実際、足は駆けてはいない。駆けているのは気持ちの方だ。どうしようもないほどに気持ちばかりが先走る。
言わせない。
言わせない。
そんな言葉、言わせたくない。
小刀を握り、れんに寄る蓮は、どうしても顔をあげることが出来なかった。
ひぅ、と震える喉は……準備。
しっかりと顔をあげるための、れんの顔を見るための準備。
突きつけるはずのものを……別のものにして、蓮はすぐ傍にいるれんにそれをとん、と押し付ける。
雨で匂いが失われてしまったかもしれない。




