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たたたっ、と蓮が駆け寄りながら声を投げた相手は左側の瞳に包帯を覆った、緩く長い若草色の女性。
女性はそれまでぼんやりと……何か考え事をしていたようだったが、蓮の呼び声にぱっ、と顔をあげて優しく微笑んだ。
桜色の翼を持った悪魔と対峙した直後、その奥から現れたら若草色の女性と蓮は出逢った。
はじめは彼女も悪魔だと、蓮は身構えたが翼がないことを見ると彼女は悪魔ではないらしいことを蓮に教えた。
きっとこの奥の……最奥にひっそりと住んでいるのだろうことが彼女の身なりで知る。この町にはそう珍しいことではない。
家も家族もない者の存在は、悪魔よりもよく目に写す。
蓮だって、優に拾われるまで……少しの間だったけれど家も家族もなかったのだから。
……まあ、優から聞いたはなしだから、蓮の中にその記憶はないのだけれど。
蓮はドラム缶に腰かけている、身なりとは対照的に上品な顔立ちの女性へにこっ、と笑いながら駆け寄り、ふと気付いて籠を漁った。
ほわほわと、また暖かみの残る白いタオルを取り出してすたん、と仔猫のようなしなやかな動きで女性の腰掛けるドラム缶の横に飛び乗り少し乱暴に女性の顔をぬぐった。
こんな錆びだらけの誇りだらけの場所を住みかにしているからか、彼女の体が汚れていない日がなかった。
「れんおねえさん、またお顔」
「……ありがとう、蓮ちゃん」
むぅ、とした心境をそのままにして彼女の頬を拭いたから、彼女は……れんは少しばかり痛そうに目を細めたのだけど、ただそれだけで。
拭かれながらもにこっ、と蓮に微笑んで礼を言う。
もー……と言いながら蓮は拭いていたタオルをれんに渡し、布をかけた籠を捲ってもう一枚のタオルを取り出す。
「はい。れんおねえさん、後ろ向いて背中だして」
綺麗に拭くから、と蓮はまるで世話が焼ける妹か何かを見ているような気分で口にする。
……妹、ではないか。律が優に想うどこかと同じ色があるのかもしれない。
ふふっと笑うれんは「はぁい」と笑って蓮に従い後ろを向いて一枚しか着ていない白いシャツを脱いだ。
彼女曰く、この場所にはしばらく誰も来たことはないんだそうだ。
前日、蓮と悪魔が久々の来客だったらしい。
そんなものを客と呼んでも良いものなのか、と蓮は大きく疑問を抱いた。
が、口にはしない。つっこむのは中々に体力が要るものなのだと、律を見ていて痛いほどに知っている。
白い白い、肌が勿体ないくらいちいさな傷痕がいくつかあった。
……とにかく、誰かが来たら追いやるとして、問答無用で追い出すとして、蓮は薄い薄い、無防備にさらけ出された柔らかな背中にタオルを当てて、それこそ裂いてしまわないようにそうっとそうっと吹き始めた。
自分よりも少しばかり背があるのに、蓮よりもその肌は弱く見えて。
こし……と上下に吹きながら蓮は表情に疑問と困惑の影を落とす。




