4-5
左側に二枚、右側に一枚。
おおぉ……と風を大きく纏った翼がバネを効かせてしなやかにしなやかに……やつ当たるように羽ばたかせる。
向かい風は小柄な蓮には辛いものがあるが、そんなことは構っていられない。
そもそも悪魔との戦いは……いいや、悪魔を『散らす』為のこう言った場では主にこのような状況下ばかり。
翼が動く前に走り出していた蓮は場馴れしているからか、経験ゆえか、風の吹かない僅かな隙間を熟知していた。
小柄ゆえに強い向かい風には弱い。
けれど小柄ゆえに、入れる隙間もある。
蓮はざざざ……っ、と滑り込むように苦しむ男性の懐すれすれまでに潜り込む。
男性の体を覆うかのように前へと叩きつけられた翼が大きくからぶった。
先程まで蓮がいた場所には威圧的な風が押される。
「あ……あああああぁあぁあああああっっ!!」
「…………」
っぱぁんっ、と蓮は苦しみから逃れたいがゆえの絶叫に、男性の顎にちいさな拳を叩き込んだ。
うるさい。
そう、言いたげに。
ごっ……と鈍い音が染み、僅かに意識がそれた所で、
蓮は、仕事の本題へ向かう。
少しだけ跳ねた男性の股下をくぐり、背に回る。
まずは、一枚の右肩から。
感情宿さない蓮の灰色を含んだ黒い瞳はよりいっそうの冷えを得て、小刀をしっかりと握りしめた。
ぐっ、と愛刀を溢さないように確実に握り、蓮は腕を振り上げて、刹那の躊躇いもなく、翼の根元へと捩じ込んだ。
それは、花を根こそぎ引きちぎるような感覚で。
蓮はいつもこのときだけ思う。
悪魔に、血が通ってなくて良かったなと。
戦慄が空に昇る。
「あああああぁあぁあああああ!!あ、っえああぁぁああぁあぁぁあええあおえああっっ!!」
「…………」
ぐりっ、と小刀を回して、蓮は翼を鷲掴み、そうして根を抜くときに地面に足を支えてもらうように、蓮もまた、男性の背中を踏みつけて、翼をじわじわと剥ぎ取った。
これを、三度繰り返した。
翼を全て引き剥がされた男性は砂のようにさららと羽根を辺りに散りばめ、大量の羽根と化して、世界から姿を消した。
姿がなくなるからこそ、悪魔の存在を知るものが少ないと言う理由に繋がる。
「………………」
蓮は無言で空に彩る桜色の翼を仰ぐ。
その時、だった。
「おねえさん、来たよ?」
蓮が毎日足を運ぶ、外へ出る理由になった者と出逢ったのは。




