3-5
鐘の音に紛れて、音が鳴った。
思うように。想うように。
鐘の塔の一番の隅。隅の隅。
「…………」
そこで古びた白いオカリナを口から離した女性は暗雲たゆたう灰色の空を仰ぎ見る。
緩く波打った若草色の髪は膝裏よりも長く、空の暗雲を思わせる黒い瞳は丸く、全てを映すように大きかった。
端々がほつれていたり、破れていたりするぼろぼろの上下ともに白い服を纏う女性は不意に腰かけていた錆びだらけのドラム缶からすとんと降りた。
汚れた服、汚れた髪、土埃が染み込んだ顔から、女性には家がないことを悟らせる。
左瞳を中心に、頭に巻いている包帯の端がさわりと風に揺れた。
片手にオカリナを握る女性……いいや、見ようによっては少女にも見える……酷く薄い羽のような女性は冬の寒さなど意に介さずに、ただただ暗雲を瞳に映す。
転がっている石が彼女のちいさな素足に押し込むようにそこにあるのに、女性はやはり気にしない。
鐘の音と共に、僅かに揺らいだ風。
女性はそれに何を想い、馳せたのか。
幼い顔にふわぁ……と笑みを広げる。
嬉しいのか。しかし何に?
そんなことを女性に訊くものは誰もいない。
誰もよらぬ、足を運ばぬ隅の地に、女性はただただ存在するばかり。
女性はそうっ……と包帯で覆い隠している瞳を撫でた。そして右の瞳を閉じる。
口許には笑みを許し、纏う空気は重たいほどに爽やかに愛しくて。
女性の傍に立てばくすぐったい心地になってしまうだろう。そんな空気を女性は纏っていた。
瓶からあふれでるようなその空気は止まることをしない。喜びに満ち溢れている。




