3-4
「……」
すぅ……と震える息を吐いて、震える体を落ち着けようとする。
恐怖か、嫌悪か。
それすら幼い心の蓮にはわからないが、ただひとつはっきりしているのは『誰とも関わりを持ちたくない』と言うこと。
ずりり……と引きずれば音は聞こえまいと浅い知識が……そんなことは無意味だとわかっていながらも非常に間抜けな行為に及んでしまう自分がいることに悔やみながらもへっぴり腰になる。
じわわわわ…………と瑞々しい果物が鼻につん、と香り、少しだけ家の中を思わせる。
家にはいつも果物が香っているから、果物屋は少しだけ……本当に少しだけ蓮の緊張を和らげる。
人混みの中を縫うように避けて、人の気配に頭痛が顔を出してきた。
ずくん、ずくん、と誰かたちへの……優と律以外への強い拒絶からの頭痛。
お人好しのあには蓮の知らないところで何かをしているのと同時に蓮のこの性格を僅かでも和らげたいのだろう。……似なくても良いところばかり優に似ていく……と蓮ですら思うし、町中でもよく交わされる話だ。
「…………」
ぎゅうっ、と律から預かったお金をその小さな手に何時間も何時間も握りしめ、林檎をふたつ、籠の中に入れる。
ちょろろ……とまるで威嚇する子ねずみのように物品を見る者たちを抜けて蓮は林檎の入った籠と握りしめたお金をずいっ、と無言で差し出した。
口を開き、言葉を向けるような声は家族以外にはない。
後は店主が気づいてくれるのを待つばかりだ。
意地でも口は開かない。これが蓮の絶対の決まりごと。自分で決めた、最低限のこと。
自分が『散らす』悪魔にすら蓮は一言も口を開かない。
「おぉっ!いらっしゃい蓮ちゃんっ!お使いえらいねぇっ!」
「……っ!」
大きな大きな大柄のこの店主が怖いからではない。
恰幅の良い体型が小さな頃に律に話してもらった怪獣の話を思い起こさせるからとか、声が大きすぎて吹っ飛んでしまいそうだからとか、ぐっしゃぐしゃに撫でるごつごつした手が怖いからだとか。
そんな理由ではない。断じてない。




